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心配なのに会いにも行けない
 

 ABCオープンで初めて言葉を交わした彼は、ライバル校への悪口に対して怒れる正義感あふれる人間でしたが、一方で、悪く言えば後先をあまり考えない性格の方でもありました。
 思い込んだら一直線、とにかく目先のことに全力で打ち込むさまはとても尊敬できるものですが、同時に危うさすら感じます。彼は、誰か止める人がいなかったら、倒れるまで、いや倒れてでも目標に到達するまで走り続けるのではないのでしょうか。そのとき、止める相手が、倒れたところを支える相手が自分であればいいのに。そう願うけれど、それがほとんどの場合叶わないであろうことはもちろん知っていました。ですが、


「ほう、自主トレ規制?」


 目を丸くするような、感心、とも呆れともつかないような声を上げたのは、後ろで電話をしていた柳くんでした。
 部活に顔を出した帰り、集団で通学路を歩いていると、電話が来たらしい柳くんが最後尾にいた私の後ろに回って会話していたのでした。特に聞くつもりはなかったのですが、いつも沈着冷静な柳くんの珍しく感情を表に出した声と、その奇妙な言葉の組み合わせに、思わず振り向いてしまったのです。
 すると、こちらに気づいた柳くんは、にやりと笑いながらなぜか私を手招きしています。首をかしげながらも近寄れば、スピーカーフォンにでも切り替えたのか、『そうなんだよ。』という、どこかで聞いた覚えのある耳障りのいい声が聞こえてきました。


『まあ引退したし、あまり口を出すのもどうかと思ってね。無理はしないようにとは言ったけど、以前みたいに自主トレを一緒にしたりはしなかったんだ。そしたら越前から報告があがってね。あのままだったら身体を壊すと聞かされて、あわててさっき部に顔を出したんだ。』


 そこまで聞かせたところで、柳くんはスピーカーを再び切り替え、「ああ、貞治。すこし待っていてくれ。」と断ってからこちらを向きました。


「彼はいま家だそうだ。まあ明日は学校だから、電話程度をお勧めしよう。」


 さあ柳生、早く電話しないと彼のことだから無断でトレーニングに行ってしまうぞ?嫌味に笑う柳くんには、言われなくても、と返して走り出しました。ああもうまったく、これほどまでに紳士であれと心がけているのをもどかしく思ったことはありません。脇目も振らず走って、電車に乗り込んでしまえたら、とは思いますが、自分を貫き通せる人はすごいと思います、と口数の少ない彼がこぼしていたことを考えると、この方向を変えることはできないのです。



 心配なのに会いにも行けない






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