10000! | ナノ
招集シカト。今だけ許せ。
休憩中にそれに気づいたのは、ほんとにたまたまだった。
いつもは切っているケータイの電源をつけて、近くに咲いているきれいな花をとろうかな、と。
それは、恋人が、いつもそうしているところを良く見ていたから、まねをしたくて、(まあ彼が持っているものに比べたらだいぶお粗末なんだけど)ケータイをいじっていたから、カメラ画面が電話のマークに切り替わってすぐに、確認もせずに通話ボタンを押してしまった。
『―――え?』
「え、不二?」
『芥川…?』
「そう!」
さっきまで思い出していた、その彼から電話がかかってくるなんて珍しくて(というか電話かけてくれてもたいてい俺が出ないからかけてくれない)うれしくてテンションがあがったけど、でも電話の向こうはちょっと元気がない。つーか、なんか困ってる?
「どしたの、不二?なんかあった?」
『いや、ちょっと…まさか出るとは思わなかったから…』
んー、と口ごもる不二の言葉を、ドキドキしながら待つ。不二は良くこういうことをする。言いたいことを、一番最後に。だから邪魔しないように、ドキドキしても待たなきゃいけないのだ。
『氷帝にね、今きてるんだ。』
「え?!」
『今日は手塚と竜崎先生が氷帝に用があるからうちの部活は休みでさ、だからついでにぼくもついてきたんだ。』
いつもよりよくしゃべる不二の表情はもちろん見えないけど、もしかしたらすこし照れているのかもしれない。そんな表情、すごくレアだ。
というより、
『出るわけないと思ってたから、3コールで切ろうと思ってたんだけど、』
「なんで?」
『え?』
「何で、電話してくれたの?」
今日の不二は、全体的にすごくレアだ。
『……せっかくだから、会いたいな、と思って。』
やばい。やばいやばいやばい!
そんなこと言われたら、会わないわけには行かない。もう立ち上がって芝生を払ってしまって、後は走り出すだけだ。
「不二、今どこ?!」
『校門、だけど…』
「待ってて!すぐ行くから!」
『え、ちょっと待って芥川!練習は?!』
電話口の焦った声に応えるように、集合の笛が鳴った。
けどそんなことにかまっていられない。いま不二と会うためなら、後で跡部の拳骨でも何でもくらってやろうじゃないか!
招集シカト。今だけ許せ。
(ふじー!)(ああもう、なんで来ちゃったの芥川!終わるまで待ってるって言おうとしたのに!)(えへへ、ごめん〜)
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