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不慮の事故に感謝!
 


「にゃーさんにゃーさん、知っていますか。今、秀一郎がこの学校内にいるんですよ。」

「にゃ?」


 こてん、と首を傾げた(ように見えた)にゃーさんに、かわいいなあ、と呟く。猫バカであることなんて承知の上である。


「秀一郎たち、今日はここで練習試合なんだってさ。あの跡部さんがわざわざ専用バス出してくれたんだって。秀一郎、胃が痛いってた。」


 そう、ここはかの跡部景吾が君臨する氷帝学園である。といっても特に跡部さんのファンなわけではないけれど、この学園の居心地の良さには紛れもなく彼が一役買っているので、まあそれなりに感謝はしている。


「ほうらにゃーさん、こっちだよ。」


 ひょい、と猫じゃらしをあげる。氷帝学園にはたとえ裏庭であろうと猫じゃらしなど自生してはいないので、これは店で買ってきたものだ。ホームセンターの袋に入ったそれをみた級友たちは野良猫にわざわざ、と苦笑していたが、よく懐いてくれる子なのでこのくらい安いもんである。


「よっ、と。」

「にゃ!」

「ありゃ、とられちゃったねえ。」


 ぼんやりとしていたら猫じゃらしがとられてしまった。前足ではっしと捕まれたものを、そのままぶらぶらと上下に揺すってみる。


「今日はあったかいねえ、にゃーさん。」


 裏庭は何となく日当たりが悪そうなイメージがあるが、これだけ広大な敷地面積があれば一日中日当たりのいいところもでてくる。校舎から離れた隅っこは木に囲まれていて適度に日陰もある、絶好のお昼寝スポットだ。そこににゃーさんと一緒にごろりと寝転がる。梅雨入り前の暑くも寒くもない風と鮮やかな日射しは、眠る気がなくても寝転んでいれば眠ってしまいそうだった。眩しい日の光を見ていられなくてゆるゆると瞼を降ろしかけたとき、風が周りの樹を揺らす音とは違う、緑を掻き分ける音が近づいてきた。


「……あれ?もしかして、」


 聞き覚えのある――むしろありまくる温和そうな柔らかい声に瞼を押し上げれば、目の前には私の大好きな人の顔があった。


「……え、なんで、」

「……あー…。テニスボールに感謝、かな。」


 ころりと、にゃーさんの隣でテニスボールが転がった。



不慮の事故に感謝!






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