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会うたびに変わっていく
 

 学ランを着ていようとユニフォームを着ていようと、春夏秋冬デフォルトではめられているそのリストバンドは、月に一回会うか会わないかのそのたびに、だんだんぼろぼろになっていくのが見て取れた。


「桃城ぉ」

「ん?なんスか?」

「ええかげんそれ、新しいのにしたらどうや。」

「えー、それ忍足さんが言うんすかぁ?」


 へらり、笑う精悍な顔の、眉尻がほんのわずかに下がっている。よほど観察しなければわからないだろう。相手の感情を悟ることもうまかったが、悟らせないこともこの一年でどんどんうまくなってきている。負けてしまいそうだ、と自嘲した。
 しまいそうもなにも、常にどこかこの一つ下に負けている感覚があるのだけれど。


「何で俺が言うたらあかんのや。」

「だってこれおそろいで買ったやつじゃないっすかー。」

「誤解を招くようなこと言わんといてや。俺がこれ買うてるの見てどさくさで買うただけやん。」

「うわつめてー。」


 良く日に焼けた腕が赤の馬鹿でかい紙コップをつかむ、その手にやはり色あせたリストバンドは目に付く。ゴムがやられているのか所々よれているし、こんな消耗品を、いつまでたっても身につけて。


「でもあれっすよね、忍足さんがこのリストバンドつけてるところって見たことねえっス。」

「何回か使ったで。」

「ええー、いつも身に付けましょうよ。」

「アホ、俺とお前は違うんや。」


 そう、違うのだ。大切にするという行為の、やり方が。
 あれは普段、箪笥の奥に仕舞ってある。そして、跡部との試合だとか、今年のインターハイだとか、気合を入れなければいけない試合のときだけつけるのだけれど。


「じゃあ次いつつけるんスか?」

「んー、せやなあ…」


 ああ、やはりこいつに負けている。浮かんだ「次」に、そう苦笑した。


「来年、俺と桃城がまた当たるようなことがあったら。つけてきたってもいいで。」

「マジすか?絶対っすよ!」


 だけど、負けることがあまり悔しくないのは、ちょっといけない変化かな、と小さく笑った。




 会うたびに変わっていく






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