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王さまの通い猫。


 鈴つきの通い猫、というのが忍足の評だった。


「しかも、買うてきた猫やなくて、元野良にムリヤリ鈴付けた感じ。」


 鈴つけるときの苦労話とかないん?と面白そうにいわれて跳ね除けたのは、別にそういう話がなかったわけではない。


 *


「あとべーあとべー、これ食っていい?」

「…ミカエルが三時になったらケーキ持ってくるから、それまで待て。」

「えー」


 ふくれっつらをしながらもごろりとソファーに横になる。丸まって眠る癖は結局抜けなかった。そうされると寝顔が良く見えなくなるからいまだにすこし不安になるのだけど、そんな馬鹿なことを言えるはずもない。代わりのように寝息が聞こえ始めると顔を見に行く習慣がついてしまった。

(はやっ…)

 おやすみ三秒とはこいつのことだ。というかおやすみすら言っていない。
 仮にも他人の家で寝ることにためらいがないことに呆れてため息をつきながら近づいて、さらりと髪を掻きあげる。口を半開きにした、のんきな寝顔だ。

 別に苦労話がなかったわけではない。だが、話をする気もなかった。あんな、「キング」らしくない有様など、後にも先にもひとつだけ。


「俺にここまでさせるやつなんて、お前だけだ。」


 何でこんなやつに、と何度思ったことだろう。けれど、自分がこいつを欲しいと思った理由も、きちんと自覚しているのだから困ったものだ。
 惹かれたのは、見た目に似合わぬ聡さと、見た目どおりの感情の押さえが利かぬところ。
 最初の出会いからしてそうだ。敵わないと悟っているくせに、それでも許せずに女を守る。そのときはそれが気に食わなかった。身の程知らずの、ただのアホだと。
 ただ、いつからなのか。そのアンバランスさに惹かれて、気づいたら手に入れるために動き出していた。

 予感がある。
 もう、放っておくことなどできないだろう。一人で泣くことなど許さない。自分では意味などないとわかっていても、介入せずにはいられない。


「――ミカエルか。」

「はい。アフタヌーンティーをお持ちしました。」

「そこにセットしておけ。」


 ミカエルがテーブルにアフタヌーンティーをセットし、ワゴンを引いて退室するのを待って、再び神尾に近寄る。涙は、流れていない。それに満足して、ソファーから神尾を引き摺り下ろした。


「おい、起きろ。勝手に寝てんじゃねーよ。」



 王さまの通い猫。



thanks 6666!

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