消灯ギリギリ22時(if物間/B組/10万打)




※物間くんと付き合ってる在学軸
※めちゃくちゃしっかりめに性の話をしてます
※事後の話を女子としてます
※性描写はないけど匂わせがかなり強めです


 わしゃわしゃとシャンプーを泡立てると、とろっと濃厚な花の匂いが広がった。ん〜、いい匂い。唯ちゃんのやつだからいつもとは違う匂いがして、新鮮だ。頭皮を揉み、優しく洗っていると、隣に座った切奈が「……磨さァ」と私の名前を呼んだ。

「うん?」
「いや……もうすっごい堂々としてるよね」
「な……完全に馴染んでんもんな」
「磨ちゃんってB組だったかなって思ったノコ」
「?」

 呆気に取られたような切奈に、一佳ときのこちゃんが続ける。なんで?

「なんか変かなぁ」
「磨、トリートメント」
「え、わーい! 唯ちゃんやってくれるの?」
「ん」
「やったあ!」
「唯も唯で甘やかすし……」

 ざぱっとシャンプーの泡を流すと、唯ちゃんがトリートメントを差し出してくれた。細い手に乳白色の液体を出して、唯ちゃんは私の後ろに立つ。やってくれるみたいだ。やったあ。
 毛先を中心にぎゅう、と優しく馴染ませてくれてる間に、切奈に借りた洗顔料を顔に着けた。もこもこになるやつ。

「なんか、ナチュラルにウチの風呂入ってるから流してたけどさ、よく考えなくても磨ってA組なんだよな」
「ほだよ〜」
「いくら寮生活とはいえ彼氏のクラスのお風呂入ってるの、どうなん?」
「え〜?」

 だって汗かいたし。一刻も早く汗流したかったし。ぱふぁ、と顔の泡を流して、次は身体だ。トリートメントを付けた髪は、唯ちゃんがくるっと纏めて上げてくれた。しばらく浸け置き〜。
 お風呂、お風呂ねえ……。ぶっちゃけると、まあ、高校生カップルが密室の中二人きりなんて、やることはだいたい決まっている。物間くんってあんな顔して全然普通に男子高校生だし。ねえ?

「これをさあ、女子高生に言うのもどうかなって思うんだけど」
「磨も女子高生じゃん」
「え、下ネタ?」
「まあかなり下ネタ」
「茨ー! ちょっと耳塞いどいて!」
「まあ……」

 切奈が茨ちゃんに声をかけて、茨ちゃんからはちょっと距離のある視線をチラッと向けられた。下ネタNGなのにごめん。

「えっちの後にさあ」
「ぶはっ」
「んぐっ」
「……!」
「トイレかお風呂はすぐ行った方がいいよ」
「あ、あけすけだな〜……」
「もう隠しようがないかなって」
「だからってさらけ出しすぎじゃん!? ……面白いけど」

 面白いんかい。ちょっと複雑そうな顔をするけれど、一佳たちの瞳が密かに輝いているのを私は見た。やっぱね、女子高生だってその手の話は興味津々なわけですよ。同時に数人赤面もしているけど、

「っていうかなんで?」
「あのね〜、あー……管の中に残留物があると、感染症になるよ」
「管……」
「感染症……」
「うらめしい……」

 生々しすぎのこ、なんて言いながらも興味深そうにしているきのこちゃんと、表情が崩れない唯ちゃん以外は微妙に引いた目をしている。ごめんて。でも大事なことじゃん。トリートメントを流して、仕上げにコンディショナーを着ける。う〜ん、いい匂い。フローラルでフルーティ。唯ちゃんの匂いだ。

「物間も男子なんだなァ……」
「磨はともかく、物間のそういうの考えられないわ」
「わかる」

 言われてるぞ物間くん。まあ、女子から男子に対するイメージなんてそんなもんだと思う。特に物間くんって普段の態度があれだし。

「ま、というわけでお風呂お借りしてます〜って感じ」
「へェ……」
「ねーまって、本気で引いてる?」
「引いてはないけど生々しくてコメントできない」
「それ」
「それかあ」

 唯ちゃんに手を引かれてお風呂へざぷん。はー、運動後の身体に染み渡る。

「なんかさー、ソウイウの……ちょっと怖くない?」
「そういうの?」
「……なんか、そういうの」
「あー、えっち?」
「うあー! あー! ……そう」
「情緒不安定なん?」
「拳藤下ネタ苦手だからサ」
「苦手じゃないよ!? けどなんか磨のは生々しすぎるだろ!?」
「そう?」
「ん」

 唯ちゃんを見上げると頷かれた。そっかなあ……。女子高生同士の下ネタって、過激な子は過激だし、ピュアな子はしっかりピュアだからなあ。なんせここは雄英ヒーロー科、なんだかんだ真面目な良い子ちゃんの集まりである。クラス委員長を寄せ集めた学級っていう感じだ。そりゃあ奥手な子が多いわ。

「……なんか、ポニーいなくて良かったな」
「それはそう」
「ポニーちゃんも下ネタNG?」
「っていうか超ピュア」
「あーね」

 そら聞かせられないわ、こんな話。A組でも数人にしかできないし。百は論外、梅雨ちゃんは私の罪悪感が勝るし諭されそう。三奈はあれで、なんとあの感じで生々しすぎる下の話は羞恥が勝るらしく、A組女子で話せるのは照れつつもおおらかなお茶子ちゃん、すっごい悪態つくしめちゃくちゃ顔赤くするけど興味津々な響香、この手の話題を一番話しやすい透くらいだ。

「でもさ、そのわりに痕とかついてないよね」
「痕? ……ああ」

 ざぱんっ、とお湯に飛び込んできた切奈が私の肩を組んで、肌を見下ろした。痕って、キスマークとかそういうのか。まあそりゃあ、私は付けられてもすぐ治っちゃうし、と言えばああ〜と納得される。そもそも、そんなに痕って普通は付けない、はずだ。あと流石にそんな痕残ってたらここでお風呂入ってないよねえ。

「アレってどうやって付けてんの」
「キスマークって言うくらいだし、キスじゃないのか?」
「キスで痕が付くノコ?」
「それうらめしくない?」
「んん、まあ口ではあるけど」

 なんというか、吸う、と一言で言うには少し違う気がする。口で説明するのが微妙に難しい。

「こう、吸って……ヂュッって感じ」
「へ〜」

 自分の手首に唇を当てて、軽く吸ってみる。ほんの少しだけ赤くなったそれを見せると、感心するように頷かれた。

「でもこの程度なら、私みたいな“個性”じゃなくても秒で消えるよ」
「ふーん? ……あ、ほんとだむずい」
「これかなり強く吸わないと無理じゃない?」
「うん。内出血だし」
「あー、たしかにそっかあ」

 一度は憧れる時期が来るものなのかもしれないけれど、所詮はただの傷だ。噛んだり吸ったり、スパイス程度ならいいけれどやりすぎには気を付けてほしい。

「まあ、詳しいことは未来の彼氏にでも教えてもらって」
「未来の彼氏、かあ……」
「……出来んのかなァ〜!」

 頭を抱えた一佳、姉御肌だけど乙女だ。かわいい。一佳ならスグできるよ。



 ホカホカの湯上り。物間くんから借りた長袖のスウェットと、同じく借りた長ズボンを着る。ズレ落ちるウエストはなんとか紐で調整だ。これもう戻せないかも、ごめーん。同じパンツを履きたくないので、その下はもちろんはいてない。軽く痴女めいてるよねえ。

「うわ、まじで緩名いる」
「や、緩名さん」
「骨抜くんやっほ〜」

 脱衣所からの洗面所を抜けると、鉢合わせた回原くんに驚かれた。同じく湯上りらしい回原くん。お、牛乳飲んでる。や、と軽く片手を上げてくれる骨抜くんに、ひらひらと手を振って返した。

「うわってなんだよぉ〜」
「いや普通いると思わねーだろ。風呂に」
「普通〜?」
「まァ普通はいないね」
「まァ磨ちゃんは普通じゃないから!」
「それ威張ることじゃねェぞー吹出ィ」

 しれっと漫我くんにバカにされた気がする。ムカ。誰がアブノーマルじゃ、とだるだるの裾に覆われたつま先で漫我くんの脛を蹴ると、骨抜くんにまあまあ、と庇われる。ステイステイッ、と漫我くんが続けて煽ってくるので、ウオオッと拳を振り上げてぽかっと一発肩に食らわせた。アイタッ! なんて大袈裟に声を上げるけど、全然力込めてないんだからな!

「今のは吹出が悪い」
「だよね〜!? 骨抜くんさっすがわかってる」
「おっと」

 さすが〜、と肩を骨抜くんにぶつけると、何かがビュンッ! と風のように駆け付けてきて、骨抜くんから引き剥がすように私の肩を抱いた。

「……ッッ君ッさァっ!?」
「えなにうるさぁ」
「来たきた彼氏様」
「リア充はんたーい!」
「クソッ! なんで物間にあんなかわいい彼女が……!」
「物間滅べ」

 耳元で大声を張り上げてきた私の彼氏さまは、同クラスの男子たちからボロカスに言われていた。あはは、いいぞもっとやれー。

「なんっでそんな格好で平気で歩くかなァ!? 僕連絡しろって言ったよね!? 言いましたよねェ!?」
「ねえこの人うるさくない?」
「ん」
「ねーうるさいよね唯ちゃん!」
「誰がうるさくさせてると思ってるんだい……!」

 ぎゅうっ、と腕の中に閉じ込められるので、私に続いて共有スペースに出てきた唯ちゃんの袖をくいくいと引いた。唯ちゃん、部屋着ですらかわいい。意外と甘さのないTシャツ短パンなところもかわいい。全てが高得点。完璧。

「ていうか服着てるじゃん、なにが問題なの」
「問題しかないだろ……! 君その下なにも……ッ!」
「……え、なんも着てねーの?」
「えっ」
「アアアほら! だから言っただろ!?」
「いや言ったの物間くんじゃ〜ん」

 呆然、というより愕然としたように回原くんが呟いて、リア充爆発せよ軍団からえっ、との声がこぼれ落ちた。ほぼ発狂している物間くんは私をしっかり腕の中に隠して抱え込んでいる。見えないようにしてくれているんだろうけど、着ている服の生地が厚いものだし多分別に影響はないと思うんだけどなあ。

「見るな! 散れ! 減る!」
「このタイプの物間珍しーなー」
「ね、新しいタイプの情緒不安定パターンだ」
「元凶がなんか言ってて草ですな」
「……」

 あ、静かになった。からかい過ぎたかな、と見上げると、物間くんは凪いだ顔をして私を抱き上げた。

「わあ」
「あ、逃げた」
「逃げパターンに入るんだ」

 お姫さま抱っこのまま逃走だ。どこへ? 私を抱えたまま階段を駆け上がるので、物間くんの部屋らしい。え、もう消灯微妙に迫ってんだけど。

「消灯までには返してやれよ〜」
「エロ物間ー」
「ムッツリ物間ー!」

 一佳が呆れた声を出して、ギャラリーからの罵声が物間くんに向けられた。言われてやんの〜。
 ばたんっ、と物間くんの部屋へ連れ込まれる。キャー、寧人サンのえっちー! の気分だ。もう今日は精力尽きてる。パスで。

「アホバカ磨」
「ぐえ、ごめんて」
「君っ、君そんな格好で……ありえないだろ……!」
「ごめんごめん」

 部屋に入るなり、ぎゅうう、と強い力で抱き締められた。痛い痛い。力強いな〜。まだしっとりとしている金髪を撫で付けると、背中に回った腕の力が少しだけ緩む。下ろしてくれないかなあ〜、……ちょっとまだ難しそうかな〜。
 物間くんは数歩進んで、乱れたベッドのシーツに腰掛けた。その膝の上に座らされて、物間くんの腕は相変わらず背中に回っている。優しく髪を梳くと、ぽふっ、と胸元に顔が埋まってきた。

「嫉妬した?」
「……したに決まってるだろ」
「あらら、ごめーんね」
「……」

 ごめんごめん、許して、と頭のてっぺんにキスを落とした。ちゅ、と唇を触れさせると、洗いたてのいい匂いがする。よしよし、かわいい子だ。

「君は、警戒心がなさすぎるんだよ」
「そぉね〜」

 警戒する必要をあまり感じてないのもある。そりゃあ流石に、誰かと二人っきりならまだしもあんなに人目のあったところだ。物間くんだって私がお風呂から出た時には共有スペースにいたし、ねえ? なんてことは言わずに、わしゃわしゃと金髪をかき混ぜた。妬いてるところ、かわいすぎるんだもん。

「おわ」
「っはあー……そっちの寮での君が心配だよ」
「んへへ、大丈夫だってえ」

 抱き着かれたまま、物間くんの身体がベッドに倒れる。当然私も一緒に寝転がった。乗っかるような形だからいいけど、物間くんの背中は乱れたシーツの上だ。いや、別に汚れてるわけではないからいいんだけどね? 明日洗濯する、って言ってたからさあ、物間くんが。
 やっと合った視線に、ちゅっ、と唇に音を立てて触れた。ちゅ、ちゅう、と何度か触れると、後頭部に手が差し込まれて、引き寄せられる。ちょっとは機嫌直ったかな。さすがにやりにくかったようで、こてん、と横に転がって、見つめあった。視線にはいじけていた名残はあるけれど、赤みのさした頬はもう私を許していた。

「っは〜……僕はなんて君に甘いんだ……」
「いいことじゃん」
「最悪だよ」
「わ」

 がぶ、と首筋に軽く噛み付かれる。珍しいな、物間くんがこうしてくるの。それほどジェラったってことなのかな〜。そう思うとまじごめんじゃん、の気持ちになる。ので、もう一度私から、お返しにキスをしてあげた。

「……やっぱり磨、B組に来なよ」
「んーふふ、考えとく」
「はァ……」

 あ、またため息。幸せが逃げちゃうよ、と薄い唇にキスをすると、君のせいだろ、なんて首筋に吸い付かれた。



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