夏だ!花火だ!バスボムだ!



※入寮後夏謎時間軸
※花火しません


「ねえ磨ー、なんかバスボム大量にあるけど」
「ここ大浴場だから使えなくない?」
「あ」

 ほとんど片付け終わったとは言え、まだ手付かずだった段ボールの整理を買って出てくれた三奈と響香が、雑貨類の段ボールからバスボムを見付けた。そういえば、買ったり貰ったはいいけど家のお風呂では使わないし、一応持ってきたのだった。お風呂で使うと掃除がめんどうなんだよね〜。詰まりやすいし。でも、使わないのももったいない。……う〜ん。

「あ! ビニールプールで使わない?」
「いやどこですんの」
「中庭! 水着着て」
「いいねー!! 楽しそう! やろ!」
「ええ……まあ、いいけど」
「新しい水着買ったのに着れてなかったんだよね〜」
「アタシもー!」

 まだまだ夏も盛りで暑いけど、外でなら温泉的にもなるっしょ。轟くんに氷で囲ってもらったら露天風呂的な。人のこと使うつもり満々だ。



「てことで、中庭でプール出してい?」
「……後片付けはちゃんとしろよ。風紀は乱さないように」
「はーい!」
「あら、楽しそうね。私も行こうかしら」
「きてきて〜」
「ふふ、ちょっと顔出しに行くわ」

 先生に許可を取りに行くと、言いたいことはあるけど面倒臭いしいいか、という態度で許可が出た。やったね。ビニールプールは、この個性社会、めちゃくちゃ大きい人もいるから大きめのやつもいっぱい売っている。多分ある思うし、複数個併用するつもりだ。バスボムの消費が目的だからね。ミッドナイト先生が、見張りという名の仲間に加わった。



 轟くんにメッセージを送ると、二つ返事で「いいぞ」と返ってきた。やったあ。女子グループで連絡を回したら、皆来るみたいだ。やったー。水着に着替えて、髪はおさげの三つ編みにして、ビニールプールを引きずる。でかいから重い。サポート科から、いらないから、と貰い受けたものなんだけど、まじで重い。まだ空気入ってないのに。空気を入れると、ひとつ辺りだいたい私三人分が寝ころべる長さに、私六人分くらいの横幅になる。合計私18人分。そら大きい。ぺたぺたと寮内を引きずって歩いていたら、曲がり角で誰かにぶつかった。かったい。弾き飛ばされそう。

「のわー」
「おわっ、緩名、ワリ……わあああああ!!!!」
「ぎゃっ! なに?」
「なになに切島! なにしてんの!?」
「どしたどした、お前らしくもない」

 どうやらいつもの4人組でつるんでいた切島くんとぶつかってしまったようで、吹き飛ばされそうになった身体を支えられた。と思ったら、身体を覆うように急に抱き締められた。え、なに? マジで急なんだけど。上鳴くんと瀬呂くんの困惑の声が聞こえる。私も今それ、まったく同じ気持ち。仲間だね。少し汗の匂いのする腕の中でなんとか見上げると、切島くんは真っ赤な顔をして目を閉じていた。必死か。

「ダッダメだ! 見せらんねえ……! 緩名、おまえ服っ、ふ、服……!」
「は?」
「なになに緩名、服着てないの?」
「や、着てるけど……」

 水着の上にちゃんとパーカー羽織ってるし。流石に水着だけで闊歩するのは不味いのは分かる。前は閉めてないので、下着と勘違いでもしたんだろうか。ぎゅうぎゅうに抱き締められて、そろそろ息苦しい。若干硬化してない? タップタップ、と背中を叩くと、後ろから身体を引かれて、ベリッと引き剥がされた。肩にかかるのは、黙っていた爆豪くんの手だ。

「……前閉めろや猥褻女ァ!!」

 一瞬私を見下ろして、間。ギャンっと目がつり上がったかと思うと、勢いよくジャッとパーカーのジッパーを上げられた。なんで、別にいいじゃん。水着だしどうせ脱ぐのに。猥褻女って。悪口〜。

「すまねェ緩名……!」
「怒鳴られたし謝られた! なんでえ! 」
「え、なに緩名、水着?」
「ん、そう」
「いやなんで水着着てんだよ」
「それは〜今から水遊びをするからです」

 ぶつかった衝撃で投げ出していたビニールプールを、じゃーん! と効果音を言って見せ付けた。ふふん、いいでしょう。

「水着か、や、マジでびっくりした。服着忘れたのかと思った」
「ああ、だから抱きしめてきたのか。いくら私でも服着忘れることはないよ」
「抱きしめ……っ、悪ィ! 緩名! 漢らしくねェことを……!」
「水着の緩名抱き締めれんのってご褒美じゃん」

 徐々に顔を赤くしていく切島くん。むしろ漢らしい行動じゃない? 上鳴くんが積極的にからかいに行く。やめてあげなよ。

「どこですんの?」
「なかにわー」
「へえ、俺らも行こうかな」
「えー……」
「嫌なんかい」
「いいけど、女子と轟くんしかいないよ?」
「最高じゃん!」
「むしろ轟可哀想だろ、やめてやれよ」
「ハーレムなのに……」

 轟くんはお風呂の沸かし係だ。快く引き受けてくれたもんね。爆豪くんは興味なさそうにしている。水着の私だぞ! もうちょっと興味持ってよ! 逃げられると追いたいタイプなんだよね。未だに漢らしくねェ……! 責任を……! と拳を握ってる切島くんに、あ、と思いついた。

「じゃあ切島くん先に借りていい? 空気入れ頼みたい」
「あっ、オウ! それぐらいいくらでもするぞ!」
「おっいいぞ。じゃあ俺らも後で行くわ〜」
「俺ァ行かねぇ」
「かっちゃんも連れてきてね〜!」
「任せろー!」

 バイバイと部屋へ帰っていく三人を見送って、切島くんと並んで歩き出す。ビニールプールは持ってくれた。優し〜い。

「にしてもでけぇなー」
「そうなの、もらったの〜」
「なんで急にプール遊びなんだ?」
「あのねー、バスボムがいっぱいあって」

 バスボムは三奈が持っていったから多分現地にあるだろう。空気入れは百が用意してくれるらしい。空気入れの構造とかまったく知らなくない?

「あ、磨来たー! あれ、切島もいる」
「空気入れマンで〜す」
「なるほど!」

 先に女の子は皆揃っていた。それぞれパーカーやTシャツを羽織ってはいるけど、水着の女子に囲まれて切島くんが少しドギマギしている。頼んだ。



「ひゃあ〜、涼しい」
「轟さん、すみませんお願いしてしまって」
「いや、個性の調整の練習にもなるしな。大丈夫だ」

 広大にブルーシートを重ねた上、切島くんが膨らませたビニールプールに水を入れて、轟くんがお湯に変えてくれる。やったあ。周囲は氷で薄く囲って、氷室みたいになっている。氷のかまくらだ。めちゃくちゃ涼しい。これ後で溶かすの大変かもしれない。切島くんは一回寮に戻って、上鳴くん達と合流してから来るらしい。爆豪くん連行要員だ。

「ねえバスボム溶かしていい?」
「やろやろ!」
「これ混ぜてええんかな?」
「大丈夫だと思いますよ」
「バスボムって言うんだな。こういうの初めてだ」
「ほんと? じゃあ轟くんが入れていいよ」

 ビニールプールは三つある。でっかいお湯、ちっちゃいお湯、水だ。ちっちゃいとはいえ全部それなりに大きさはあるけど、バスボムを入れるのは温泉の二つだけ。水は普通にプールだ。ちっちゃい方のお湯を入れたビニールプールの前には簡易ベンチが設置してあるので、足湯スペースになるらしい。

「なんだコレ」
「かまくら? いや、氷倉?」
「轟か……?」
「あーやっほ〜」
「おかえりー!」
「なにして……うお!?」
「なっ、なんで水着……?」
「ビニールプール、か……?」

 学校に顔を出していたらしい砂藤くん、尾白くん、常闇くん、障子くんが帰ってきたので、手招きして合流する。なんか人増えてきたな。

「今からバスボム開封式するよ〜」
「本当になにしてんの……?」

 戸惑いつつも、四人もビニールプールに沿ってしゃがんだ。おまたせしました、轟くん。

「「「おおお……」」」
「なんか……すげえな」
「じゅわじゅわしてるー!」

 轟くんがぼちゃん、とバスボムを入れる。熊の形をした、レインボーなやつだ。お湯に使った瞬間、ジュワワワ、と溶けだしていくのを見ていると、なんとなく無心になれる。焚き火とか見てる感覚に近いよね。

「何してんだおまえら」
「あら、まだ入ってなかったのね」
「あ、先生たち」

 みんなでバスボムが溶けていくのを見ていると、相澤先生とミッドナイト先生がやってくる。流石ミッドナイト先生、水着で校内を闊歩してる。普段よりむしろまともな格好かもしれない。

「残りも投入しちゃお!」
「……全部入れんのか!?」
「うん! 磨ちゃんの余り物処分!」
「せんせー見て〜! みてねこたん! を溶かしま〜す」
「ええ……」
「残酷」
「見せ付けるなよ」

 黄色い小鳥の真似をしながら、ねこたんのバスボムも投入する。女子たちは容赦がないな、みんなぼちゃぼちゃと入れていく。普通の浴槽よりも広くて水量も多いから、少々混ぜても平気でしょ。

「……なんか濁ってねえか?」
「気のせい!」
「無粋だよトドロキー!」
「悪ィ」
「入っちゃお」
「マイペースか」

 轟くんの言うように微妙に濁ったそこへちゃぽん、と足先をつける。ちょっと熱めでちょうどいい。あ、いい。めっちゃ温泉。最高。

「いい湯加減じゃない」
「ですね〜」
「ほんとだ! ちょっとあつめ!」
「底ジャリジャリしとらん?」
「かき混ぜちゃえ!」
「ケロケロ、こっちは冷たくて気持ちいいわよ」
「水風呂っていうかプールだからね」
「三奈が酸出したらなんかそういう温泉にならない?」
「酸性泉のことですか?」
「……やってみる?」
「……や、なんか怖いし今度にしよ」

 pHとか濃度によるんだっけ? ホースはあるけどシャワーないし、すぐ洗い流せないのは怖いのでやめとこう。轟くんの言うように少し初めは濁ってたけど、段々なんかいい感じになってきた。キラキラのラメラメだ。

「女子の入浴を見るのって……なんか……」
「背徳感?」
「尾白くんのえっち」
「スケベ」
「健全な高校生だもの、しょうがないわ」
「言われたい放題だな」
「尾白、ドンマイ……」

 尾白くんも男の子だもんね。仕方ない。

「ねえみてキラキラ」
「やめろ、服に着く」
「先生の服真っ黒だしキラキラにしてあげる」
「やめろ」

 ぱしゃ、とお湯を飛ばすとめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。ミッナイ先生までちょっかいを出している。まじで嫌そうでウケる。でも先生、この暑いのに変わらず全身真っ黒で暑苦しいんだもん。

「障子くんにもラメラメあげようねえ」
「……ありがとう」
「障子、いらないものは断っていいんだからな」
「ていうか皆も入ればいいのに」
「ね!」
「いや、遠慮する」
「フフ、思春期ね」

 シシュンキだ。ミッナイ先生はシシュンキを眺めるのが大好きだから来たのかもしれない。男の子達は、足を捲って軽く掛け湯してから誰も入っていなかったお湯の方へ足をつけていた。足湯、いいな〜。

「おっまたー!」
「げ、上鳴じゃん」
「げってなんだよー」
「あれ、結構みんないんのね」
「なんか集まった!」

 上鳴くん達だ。上鳴くんだけ水着で、他三人は普通に濡れてもいいようなTシャツだ。

「上鳴くんどこに潜る気なの?」
「マジで阿呆でしょ! ……アホだったわ」
「アホなんだよ」
「えー? プールと言えばこれじゃね?」
「そんな深いビニールプールがあるか」

 上鳴くんはゴーグルまでしている。馬鹿すぎる。

「ねえねえ百」
「どうされました?」
「あのね、お願いがあるの」

 胸の前で手を組んで、お願いのポーズをする。お願いマイメロディだ。くそぶりっ子、と爆豪くんがゲェ、と舌を出した。お主、見ておれよ。こっそりと百に耳打ちして、お願いする。

「まあ! もちろんです!」
「やったー!」
「はい、どうぞお使いください」
「百だいすき」

 百の創造で、ず、と出てきた物を手の上に置かれる。ラブだな。何を作ってもらったのかって、もちろんアレ、チャカだ。水鉄砲にコソコソとラメラメのお湯を入れる。ジャコッ、と照準を爆豪くんに合わせて、発射だ。

「ッアァ!? 何すンだてめェ!」
「はっはっは、油断してるからだよ」
「クソ女ァ……!」

 見事命中。顔面ヒットだ。フッ、と銃口に息を吹きかければ、煙出てねぇぞー、と野次を飛ばされる。あ、あれ煙を吹き消してるんだ。初耳〜。怒り心頭の爆豪くんが近付いて来るので、お湯を補充して立ち上がった。いつでも殺れる。体育祭のリベンジマッチだ!

「ポニーテール! 俺のも出せやァ……!」
「え、ええ。ちょっとお待ちください……どうぞ」

 百が爆豪くんにも同じ水鉄砲を作った渡した。え、やばい。こんなん戦争じゃん。こうして、次第に皆を巻き込む水鉄砲合戦の火蓋が落とされた。



「キュウ……」
「磨ちゃん負けとる」
「即落ち二コマかよ」

 爆豪くんには、勝てなかったよ……。当たり前に負けた。っていうか、私がプール内しか動けないのに対して、爆豪くんは外から射撃してくるので逃げれる範囲が広いので。ほぼ的当てだった。せっかく首から上は濡れないようにしてたのに、容赦無くびしょびしょにされてしまった。情け容赦はしてほしいところだ。まじで。

「ハン、雑魚がよ」
「とか言いながら爆豪もびしょ濡れじゃん」
「俺らもだけどなー」
「さすがに女の子を盾にするのは……ねえ?」
「俺ならいいのかよ!」
「うん」
「あっはい」

 上鳴くんは盛大に盾にさせてもらったので、大活躍だ。うそ、言うてもそんなに役に立たなかった。おかげで全身キラキラだ。Can't stop twinklingだ。そろそろ飽きた水鉄砲を切島くんにパスすると、爆豪くんがやんのかみたいな輩顔をした。体育祭の再戦でもするみたいだ。私は、もう髪まで濡れちゃったので、後頭部をお湯に付けてぷかっと浮かぶ。あ、なんか温くなってきたかも。

「轟くん〜」
「どうした」
「温度もうちょっと上げてほしい」
「わかった」
「……轟、おまえ嫌なら断っていいんだぞ」
「? はい」

 轟くんにお願いしたら、いつの間にか尾白くんたちに混ざって足湯に浸かっていた相澤先生が轟くんを諭していた。そんな私がわがままみたいな。ねえ? ってプールの縁に凭れて首を傾げると、返ってくるのは胡乱な視線。……多少わがままな方が女の子ってかわいいから、まあ多少はね? 轟くんが左手をお湯の中へ付けて、ちょっと離れてろ、というのでいったん端っこへ待避。それから、じんわり温かくなったかな、ってところで、お湯に浸かっているみんなでプール内をぐるぐる回って掻き混ぜた。

「浮き輪欲しい」
「あっ、流れるプールやね!」
「それ〜!」
「ケロ、さすがに小さいと思うわ」
「それもそう」

 全員で一方向に進むと流れが出来るんだけど、流石にビニールプールでは大人用浮き輪を浮かべると窮屈になっちゃうので断念。……今度また学校のプール借りよっかな? 寮だし近いし。

「プール入ったし、温泉(?)も入ったし、夏! って感じする〜!」
「まあ、なんだかんだ楽しいしね」
「でしょ! 後はアイスと……あ、花火あれば最高」
「あっ、花火いい! 花火した〜い!」
「ね、今水めっちゃあるし花火出来るよね」
「許可さえあれば」
「許可……」

 女子+上鳴くんで盛り上がって、許可……と誰から渡されたのかうちわ片手に穏やか男子組と談笑している相澤先生を見つめた。会話のなんとなくの流れと、私たちの懇願の視線に気が付いた先生が、フー、と息を吐く。少し険しくなった眉。……あっ、これは。

「おまえら、そんな遊べる程余裕あんのか」
「ひっ……」

 ギン、と鋭くなった眼光に、一気に縮みあがる。ヤバ、絶対調子乗った。出来るだけ目を合わせないように、そろ〜っと目を逸らしたいけれど、逆にそれも難しい。……いや、でも! 今日も身体はいっぱい動かしたし、課題系は少なくとも私とか百とかは終わってる。上鳴くんと三奈は知らないけど……、まあ、終わらなかったらどうせ教えることになるだろうし。ずっと訓練だったり働き詰めだとパフォーマンスが落ちるのが人間ってものだ。遊びも程よく取り入れた方がいい、を自論にぐぐっと見つめ返した。ら。

「まあいいじゃない! 楽しそうで」
「……ミッナイせんせ〜!」

 女神降臨、確変突入。本まで取り出して半身浴に徹していたミッナイ先生が助け舟を差し伸べてくれた。最高。ワー! とゆるく飛び付くと、やんわり受け止められて抱き締められる。私の肩を撫でる手付きと、本を起き腰に回ったくびれを確かめるように触れる動きは若干怪しいけれど、そんなことも気にならないくらいありがたかった。爆豪くんの怒る言い方で言うと「ありがてぇてぇな〜」だ。これ爆豪くん怒るんだよね。謎に。
 ギュッと抱き着くと、相澤先生も直接の先輩の顔を立ててか、「あんまり甘やかさんでくださいよ」と窘める程度だ。勝ち確来た。あとミッナイ先生、筋肉がたしかにあるのに、肉付きが柔らかくて、ボディメイクの天才なのかもしれない。どういう運動してるんだろ。危ないことはしない、後片付けはちゃんとする、建物や植物へ被害を出さないことを注意されて、はーい、と元気にお約束した。ちょうど飯田くんたちが外に出ているはずなので、ついでに花火買ってきてもらおう。

「青春は短いからね。めいっぱい楽しみなさい」
「はい!」

 ミッナイ先生からのおやくそくに、こちらも元気に声を揃えて答えると、先生は綺麗に笑って頷いた。



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