絶対落としてやるから覚悟してろ(逆ハー気味if/10万打)



※ツートップ強め逆ハーレム世界線


 稀によくある個性事故と言うやつ。稀、と言うには頻繁すぎるけれど。地面にめり込まん程に頭を下げている女の先輩をどうどうと宥めて、気にしないで〜、と手を振った。特に生活に支障が出るような個性事故ではないし、本当に気にしないでほしい。
 先輩の個性は、「なんらかの数値が個性のかかった人にだけ見えるようになる」個性らしい。なんらかの数値、とは、例えば猫好き度や眠たい度だったり、お風呂の平均タイムや骨の数など、統一性のない、なかなかランダム性の高い物のようだ。ガチャじゃん。種類がありすぎて本人も把握していないらしく、まただいたい1日ぐらいでシレッと消えていることから、深刻度もなさそうだ。

「こんこんこんこん」
「おや、緩名少女」
「オールマイト! おはよ」

 一応先生へ報告に職員室へ参って、口と手でノックしていると、後ろから声が。振り向くと今日もニコニコオールマイト。目を合わせて挨拶をすると、その高い頭の上に、ハートマークの枠とポップレトロな字体で98と現れた。あ、出た。個性事故。なんの数字だろう。骨の数かな。カラオケなら高得点なんだけど。

「? 私の上になにかあるかい?」
「うん? ああ、あのね……中入ってから話す」
「あっそうだね。相澤くんかい?」
「うん」

 何回も説明すんのめんどくさいから纏めて話させてもらうことにする。めんどくさいんだもの。

「おはよ〜ございま〜す」
「……おはよう」
「え? なにその嫌そうな顔! あさイチでこんな美少女拝めるのここだけですよ!?」
「うるせェ。要件は?」

 元気に挨拶するとめちゃくちゃに嫌そうな顔された。ハ〜? でも相澤先生の頭上には、169と記されている。とりあえず上限が100じゃないことはわかった。なんの数だろ。知ってるポケモンの数?

「先生ポケモン言えるかな歌える?」
「要件は?」
「スルーしないで〜! あっ顔怖、個性事故です」
「ええ!」
「ハァ……なんでアンタも驚いてんですか、オールマイトさん」
「いやあ、相澤くんと一緒に話すと言われてね」

 驚きの声を上げたのはオールマイト。言ってなかったもんで。

「どういう個性だ」
「かくかくしかじか四角いムー……イ゙ッ、頭割れる! 朝から頭われちゃう! ごめんなさい!」

 容赦なくかまされたアイアンクローに平謝りして、先輩のクラスと名前、個性を伝えた。痛。絶対ヒビ入った。涙。

「特に支障はなさそうだな」
「ん、一応報告だけ」
「なにか異常があれば直ぐに言え」
「はあい」

 表示される数字も小さいし、時間経過で消えるようだ。3分くらいかな。おそらく、目を合わせるのがトリガーになっているっぽい。スイッチみたい。

「ちなみにどんな数字なんだい?」
「なんかね〜、ネオンなハートマークの枠に入ってるピンクの数字」
「へえ、インスタ映えだね!」

 そうなんだけども。確かにチャミスル置いてる韓国居酒屋の看板みたいなかわいさはある。

「オールマイトが……98、先生が169だから知ってるポケモンかなって」
「そんなに知らん」
「え? 先生もぐりじゃん」
「私もピカチュウくらいしか知らないなあ」
「オールマイトはビクティニだよ」

 でもそっか、ポケモンは違ったか。個性の持ち主の先輩も、なんの数値かは分からないことが多いって言ってたしなあ。……閃いた。

「なんの数字か当てよう謎解きミステリーツアー!」
「オー! ……あれ?」
「勝手にすればいいが本業疎かにするなよ」
「もちのろん〜メンタンピンドラ一満貫8000点〜」

 オールマイトがノリのいい返事をしてくれる。かわいい。先生からの忠告は心のBBSにしっかり書き込んだ。削除依頼しとこ。

「みっないせんせ〜!」
「あら、緩名さん。おはよう」
「おはよーございます! 私の目見て」
「? なにかあるのかしら」

 職員室へ入ってきたミッドナイト先生と目を合わせて、浮き出た数値を見る。102。基準がわからんから高いのか低いかもわからん。不思議そうにするミッナイ先生に、オールマイトが説明してくれている。

「マイクせんせ〜」
「よォ、朝から元気だなリスナー」
「ぐもぐも」
「はいグッモーニン」

 ジッ、と目を見つめるけれど、数字が出ない。あれ? グラサンかな。

「グラサンとって」
「Ah? どしたァ?」

 そう言いながらも、上にひょい、とずらしてくれる。ぴろん、と現れた数字。124。んー、なんだ? わかんない。思考放棄しそう。

「マイク先生素顔かっこいいよね」
「おっ、照れるじゃねェか」
「ふふ」

 これはマジ。グラサンしてるとちょっと愉快なんだもん。でも、褒めるとピロン、と数値が1上がって、125になった。え? 愉快度とかかな。快適度とか。相澤先生快適すぎん?

「なにかわかったか?」
「んー……わかんない」
「だろうな。予鈴鳴るまでに教室行けよ」
「え〜、どうせなら一緒に行こうよ」
「……俺より先に教室入って席に着いていなければ遅刻にすんぞ」
「けち!」

 ケチだ。



「あれ、磨遅かったね。先出てなかった?」
「ん、ちょっとね〜」
「あ! もしかして〜、お呼び出しィ? ラブ的なアレ?」
「ちがいま〜す」

 教室に入ると、もうだいたい揃っていた。そりゃまあもうすぐ予鈴鳴るし。三奈がだる絡みしてくるのはスルーして、目を見て頭上を見る。171。身長? いや違う。んな高くない。年齢若いほど数値高い? 今のところだけど。にしては三奈と先生が誤差程度だ。

「どしたの?」
「いや、なんでも」

 全員の見たいな。ああ〜でも予鈴鳴りそうだから一旦席に着く。

「ふーむ」
「どうかしましたか? 先程からなにかお考えの様子ですが……」
「んにゃ、なんか……うん、なんでもない!」

 前の席の百が振り向いてご様子を伺ってくれるけど、説明が若干面倒で誤魔化してしまった。どうせ一日でなくなるし、自分の力で謎を解明してみたいじゃん。身体は子ども、頭脳は大人。これあながち間違いじゃないんだよね。転生したから。ウケる。百の数値は160。あ、これメモしないと忘れるな、と思いながらも、先生が入ってきたので一旦頭から退かすことにした。よそ見すんなよ、みたいな目で見られたんだもん。ん〜なんだろ。



 お昼休み。だいたいみんなの数値を見れた。だいたい100〜200の間だ。先生よりも低い数字もいくつかあるし、年齢は関係ないっぽい。で、おそらく上限は200。なぜなら200以上が今のところいないのと、ぴったり200が二人いるからだ。ほぼ200も数人いる。……強さランキング? いや、それならオールマイトが低いのおかしいか。

「磨ー、食堂いく?」
「いーくー」
「行こ行こ」

 三奈と響香に声をかけられて立ち上がる。正直若干飽きてきたところある。ただ、今日は移動がなかったから先生たちとクラスメイト以外はまだ数字見てないからわかんないんだよね。なんか発見あるかも。

「あちゃー、席あるかな」
「混雑ここに極めれり〜」

 お昼時の食堂はめちゃくちゃ混んでいて、今日は少し出遅れたから座る場所が見つかりにくそうだ。相席はしゃあないけど、ちょうど3人分空いてるところを見つけた。ラッキー。でも、隣に座る男の子達の荷物がはみ出している。こじ開けたい。

「ね、ここ空いてる?」
「えっ……ヒッ、緩名さん!」
「はーい、緩名です。お邪魔してい?」
「もっ、もももももちろんです!」

 見知らぬ男の子達に声をかけると、目が合ったひとりの頭上にピコンと現れる数字。最初は43だったのが、一気に100近くまで登って行った。え? なにこれ。1、2くらいの上昇ならあったけど、こんな駆け昇ることある? なんだろう、お腹すいた度? 有り得そう。爆豪くんと轟くん常にマックスお腹空いてることになるけど。ウケる。
 ありがとう、と声をかけると、男子グループの数値がギュンッと上がっていった。え〜。

「流石磨」
「小悪魔〜」
「ふふん、天才と崇めて」

 荷物を置いてご飯を取りに行く。すれ違う数人と目を合わせると、数値が上がる人が結構いる。それから、枠になっているハートが青色、数字の前にマイナスが付いている人も極少数いた。マイナスシステムもあるんだ。しかもほぼ女の子。ハーン……好感度か? いや、それならえげつないくらい高い人いない? プラスとマイナスがあって、マイナスもプラスと同じで下限を200とするなら、基準は0だ。一人二人ならわかるけど、そんな何人も高いことある? ないな。人に好かれる方ではあると自負しているけど、流石に爆豪くんや轟くんが私にめろめろきゅんな想像できん。上限が200じゃないのかもしれないけど。

「ちょっ、磨」
「え? あ」
「うお……っと」

 思考をめぐらせて歩いていたのが祟ってか、響香の呼び掛けも虚しく列に並んだ前の人に勢いよくぶつかった。やっべ〜。ご飯買う前でセーフ。すみません、と見上げると、あっと声が出た。

「なんだ心操くんじゃ〜ん」
「……なにしてんの緩名」
「ぼーっとしてた、ごめんね?」
「いいけど……人多いんだから気を付けなよ」

 目の前に並んでいたのがまさかの友達だったので事なきを得た。天才。幸運値高い。ラッキードッグだわ。ついでに、と見上げて数値を確認する。160ちょい。ふむ。

「心操くんって私のこと好き?」
「ハッ!?」
「えっえっ急になに磨」
「……なに聞いてんの?」

 三者三様である。ちなみに上から響香、三奈、心操くんだ。三奈だけ楽しそう。

「いや、なんか聞いてみたくなって」
「……別に、普通」
「え〜!? 普通なの!? 私は好きなのに」
「アンタ人類誰でも好きでしょ」
「んなこたないよ」

 そんな人、ラブ! って池袋の真ん中で叫びそうな感じではない。でも、私は好き、って言った瞬間、一瞬だけハートの中の数字が静かに爆上がりした。ほぼ上限まで上がって徐々に減っていって元通りになっていってるけど、本気でなんだろう。やっぱり快適指数とかだろうか。一番可能性がある。きゃいきゃい盛り上がってる三奈をBGMにうーん、と考え込んでいたら、順番が来たみたいだ。

「え、心操くんめちゃくちゃ食べるね」
「そうか? 普通でしょ」
「はあ〜男の子だね」
「まあ男の子だからね。……アンタはそれで足りんの?」
「まあ女の子だからね」

 心操くんのトレーの上が山盛りてんこ盛りだった。確かに身長でっかいしね〜。対して私のトレーの上は、小のお米とほうとううどんだ。うどんって肉も草も乗ってるから楽でいいよね。糖質〜。じゃまたね、ラブ〜と別れの挨拶をすると呆れたようになんだそれ、と笑われた。今思いついたけどバイバイよりラブ〜の方がかわいくない? かわいくはない。

「三奈私のこと好き?」
「それなり〜」
「ハ? 涙だが」
「磨は?」
「それなり〜」
「無意味なやりとりやめて」

 うどんを啜りながらクソしょうもな会話をしてると響香に怒られた。女子高生の会話なんて9割5分どうでもいい話でしょ。

「……なに」

 じっと響香を見つめると、暫く無視されていたが私の熱視線に負けて、しぶしぶ、と言ったふうに問いかけてきた。私の勝ち。

「私と三奈どっちが好き?」
「えっ、アタシだよね〜?」
「いや、響香さんは私が貰う」
「磨絶対浮気するからアタシにしといた方がいいよ、耳郎!」
「浮気しないし! 鬼の一途だから」
「どっちもイヤだけど」
「え〜!」

 二人してフラれた。好きなくせに。こういう話を振ると毎回慣れずに照れる響香がかわいいので、昼休みは響香を愛でて終わった。響香の数値が1上がったけれど、弄られるの快感なタイプなんだろうか。



「数字の正体わからない〜」
「まだやってたのか」

 放課後。職員室のソファでごろごろしようとすると先生の捕縛布によって吊るされた。よくあることなので気にせずそのまま話進める。

「たぶん、上限が200で、下限はわかんないけどきっとおそらくメイビーマイナス200。で、たぶん私のアクションで数字が上がったり、下がったりする。あと、直接目が合わなければ数字は見えない」

 眼鏡はオッケー、サングラス越しや鏡の反射越しではダメだった。一瞬でも目が合えば数分表示されている。

「多分ばっかだな」
「ね、わかんないこと多い」
「好感度じゃねェ?」
「あ〜ね、私もそれかなって思ったんだけど……」
「Ah、ケド?」

 肩を組んで乱入してきたマイク先生。好感度、やっぱそう思うよね? でも、だとしたらこう、好意やばくね? みたいな人がちょっと多すぎる。そんな逆ハーレムみたいなことある? 逆ハーレムフラグしかない乙女ゲームの世界に転生してしまった的なアレだったのだろうか。

「でも好感度だとしたら全人類私のこと好きだから全員マックスじゃないとおかしくない?」
「言ってろ」

 私のビッグマウスギャグは冷たく一蹴されてしまった。マイク先生は気に入ってくれたのに、冷たい。

「で、誰が高ェのよ?」
「ん〜、今んとこ上限が爆豪くんと轟くんなんだよね。瀬呂くんとか障子くんとかもほぼ200」
「「ああ……」」
「え?」
 
 納得したような声をだされた。そりゃ、名前をあげた人達に好かれていないかと言われれば、そうではないと言い張れる自信くらいはある。そこまで鈍感ゆるふわババロア脳なわけでもない。むしろ、わりと人からの感情には敏感な方だ。……って思ってたけど、自信なくなってきた。本気でその可能性あんのかな。うーん、考えてもわかんないことを考えるの飽きてきたな。あと、本当に好感度だった時。正直、可能性がない、とは思っていない。けど、人間知らない方がいいことってたくさんあるじゃん? 強欲は身を滅ぼすのだ。

「飽きた」
「そりゃ結構」
「わからんもんはわからんね」

 つま先で地面を蹴ると、吊るされているからクルクルと身体が回った。うえ、酔う酔う。

「あ、そうだ。調理室からクッキーの型いくつか借りていい?」
「急に話変わんなァ」
「別にいいが、何に使うんだ」
「クッキー型なんだからクッキー作るに決まってんじゃ〜ん。ちょっとは持ってるけど、今度エリちゃんと砂藤くんと作ろ〜ってなってるからさ」

 雄英にも部活はある。ヒーロー科には全然関係ないけど。調理部はたまにランチラッシュの指導もあるらしく、お菓子型もめちゃくちゃ豊富らしい。自分達だけならいいけど、エリちゃんと一緒に作るなら色んな形がある方がいいだろう。まあ、作るのは今度の休日だけど、お菓子作りそんなにしないから練習のために借りたい。

「あ、エリちゃん誘って大丈夫だった?」
「いや、そこらへんは任せる。おまえなら大丈夫だろ」
「ひゅー、信頼されてる〜……あ、髪逆立てるのやめて」

 軽口を叩くと、先生が手に持っていた下敷きで私の髪をビリビリしてきた。サイヤ人みたいになってる。嫌がらせだー! PTAー!
 先生が調理部の顧問の先生に話をして、快くオッケーを貰えたので、帰りに寄っていかないと。やっと捕縛布から下ろして貰えた。ずっと吊るされてプラプラしてたから三半規管変な気がする。地上、ラブだ。

「先生甘いの平気だよね?」
「いらん」
「って言っても持ってくるのわかってるくせに〜」
「……甘すぎンのはやめろよ」
「んふふ、はーい」

 ひょこ、っと脇の方から覗き込んで見上げると、一瞬目が合った、はずなのに、今日一日見慣れた数字が現れない。あれ? 解けた? と思ったけれど、先生の髪が少しだけぶわっと逆立っていた。なんで個性使ったの。

「……なんで個性使ったの?」
「べつに」
「え〜、朝もう見たのに」
「なんでもねェ」
「なんでもあるじゃん」
「さっさと帰れ」

 ケチんぼ、と言おうとしたけど、触らぬ神に祟りなし、触らぬ先生に捕縛布なしだ。もう吊るされるのは勘弁。酔う。じゃ、失礼します、と職員室を出ていこうとしたところで、触れる寸前で扉が開いた。

「お」
「ア?」
「あら」

 開いた扉の向こうにいたのは、轟くんと爆豪くんだった。タイムリー。

「どしたの?」
「ああ、仮免の提出課題があって」
「は〜なるほ」
「てめェまた悪さしたンか」
「悪さて、言い方。してないも〜ん」
「はっ、どーだか」
「ベロベロバ〜」
「餓鬼か」
「子どもみてぇだな」

 爆豪くんの私へのイメージがわかる。職員室に呼び出されるの、問題起こした時だけじゃないし。ていうか二人で来るの仲良しだね。って言うと、仲良くねェわ! と怒られた。うるさ。

「自分から来ただけだし〜」
「なんかあったのか?」
「ん? ほらあれ、個性事故」
「またか」
「大丈夫なのか?」
「あ、言ってなかったっけ。うん、よゆ〜」

 説明はめんどくさいのでさっさと逃げる。オイ、と呼び止められたが、スタコラサッサだ。誰か先生たちに聞いてほしい。またあとで〜、と手を振って、調理室へ向かった。



「あれ、まだいたの?」
「……緩名」

 クッキー型を選ぶのに結構時間がかかってしまった。靴箱のところに行くと、轟くんと爆豪くんが。提出するだけだと思ってたんだけど、直しでも入ったんだろうか。ちょうどいいや、クッキー型がめちゃくちゃかわいいやつ借りれたから、かわいいの共有しよう。定番の動物型から始まり、オールマイト型とか、ファットガム型とかあったのだ。かわいい〜。

「ねえ見てこれ、めっちゃかわいいのあった」
「オイ、アホ」
「ハ? 喧嘩」

 ゴソゴソ袋を漁っていると、急にdisられた。喧嘩なら買うぞ、轟くんはきっと味方になってくれるから勝てる気がする、と顔を上げると、二人して私を見ていて、ちょっとびびる。なに? こわい。

「なに? なんか雰囲気やばいんだけど」
「個性事故」
「……がなに?」

 ジリジリ寄ってくる二人に、思わず後退る。先生たちから聞いたんだろうか。

「べつに心配するようなことじゃないよ」
「そうじゃねェ」
「じゃあなに!」
「ンでキレ気味なんだよ」
「二人がなんか怖いんだもん! そりゃキレるでしょ」

 じりじり、じりじりとジレるハートに火をつけるように近付いてくるから、人間追われると怖くなるのが心理ってものだ。とんっ、ととうとう頭は壁にぶつかって、余裕のなさに逆ギレすると、少しだけ空気がふやっと緩んだ。

「かけられた個性の話、聞いたんだ」
「……ん、でも、詳細わかんないって」
「気付いてんだろ、てめェ」

 かけられた個性の詳細。数値化された気持ちの正体。……実際、ちょっと考えればたどり着く答えに、気付かないほどの迂闊さは生憎持ち合わせていなかった。けど、だからちゃんと見ないフリをしてあげてたのに。誰かわかんないけど、なんで先生たち話しちゃうの。ふー、と大きく息を吐き出して、鼻先をツン、と突き出して二人を見上げた。

「……気付いてないが?」

 鼻を鳴らして腕を組む。なるべく自分が大きく見えるように。開き直りと人は言う。しっかりと目が合ってしまったので、二人の頭上に見える200、という数字。それから、赤いハートが心なしか震えているようにも見える。なんだそのオプション。震えるな。会いたくて会いたくて仕方ないんか。あながち間違いでもないんか。

「そう怯えねぇでくれ。べつに、怖がらせたいわけじゃない」
「じゃ詰め寄るのやめろ〜!」
「お」
「急に跳ぶなアホ」

 二人とも私よりも背が高いので、ぴょいーんと飛び上がって今にも壁ドンしそうに迫ってくる腕から抜け出した。とんっ、と二人の前に着地して、振り返る。

「次びびらせたらジャンケンチョキするからね」
「? おお」
「ハッ、やってみろや」

 ジャンケンチョキ、まあいわゆる目潰しだ。残念ながら轟くんには全く通じていなかった。

「……帰ります」
「逃げれると思ってンか」
「いーやー!」
「爆豪」
「っせ許可なく名前呼んでんじゃねェ半分野郎」

 このまま勢いで帰ったろ、と思ったけれど、爆豪くんに二の腕を掴まれてそのまま引き寄せられた。轟くんが宥めるように爆豪くんを呼んで、落ちかけた私の鞄やらをキャッチする。コンビネーション発揮すな。いつの間にそんな仲良くなったの?
 背中には爆豪くんの筋肉の硬さを感じて、目の前には少し屈んだ轟くん。やめろ、私を見るな。

「……気付かないフリの方がよくない?」

 流石に実力ツートップの二人からは逃げられない。観念した。した上で、提案だ。ここまで来ると分かってしまう。十中八九、かけられた個性は「他人からの好感度が可視化する」個性だろう。いやまさか、爆豪くんや轟くんが私のことをそこまで好きだとは思ってもなかった。まじか。でも、私たちはヒーローを志す、ヒーローのひよっこだ。べつに、恋愛を片手間にする余裕がない、とは言わないけどさ。この二人なら……いや、ヒーロー科の生徒なら、なんとなく学生の内はヒーローを第一にしそうだな、と思ってただけだ。で、そのまま学生の甘苦い思い出になってくれればな、なんてあわよくばも考えてたりした。だって、どっちかの気持ちに応えるつもりが私にないんだもん。

「俺一人だったらそれもよかったんだけどな」
「このぼんやりクソ男と同じなのは気に入らねェが」
「ひわ、!」

 ほんの少し、私に近付いた轟くんから離すように爆豪くんに引き寄せられて、耳元、至近距離で響いた声に思わず耳を覆った。びっくりする。耳はダメなんだって。

「耳、苦手なのか? かわいいな」
「てめェあんま寄んじゃねェ! きめェんだよ!」
「爆豪が緩名を離せばいいんじゃねえか」
「頭上でうるせ〜」

 取り合い……のようなものをされているが、実際されると煩いだけだ。こんなの乙女ゲームのスチルだけでいい。でも、なるほど。遠回しな言葉でしか伝えられてないが、二人とも私のことがどうやらとっても好きみたいだ。これで確信になってしまった。んあ、でも。教室には複数、ほぼ、オールモスト200な人が複数いるし、お昼には心操くん、それから。

「先生……」
「ア゙?」
「は?」

 さっき、職員室を出る時。一瞬だけ見えた先生の数字が、朝とは違って爆上がりしていたのだ。私を視界に入れた瞬間に、また169まで下がっていたけれど、一瞬、百の位の桁が違っていた、気がする。……え、流石にまさかそれはない? よね? 先生だし。え? ないよね? いや、見間違えかもしれないし。ほとんど169のままだったもん。メトロノームならヴィヴァーチェだ。謎な例えするな。

「……通報するか?」
「待って待ってなんで」
「淫行だろが」
「違うから! うそ! まじでうそ! 見間違いだから!」
「本当か?」
「まじまじまじ、ガチまじ本気」

 私が適当ぶっこいたせいで先生が通報されるところだった。危ね〜。考えてみれば、先生が未成年、それも自分の教え子に、こう、恋愛的興味を持つはずもない。紛うことなき見間違いだ。冤罪かけてマジごめん。未だに訝しげな視線を送られるけど、ひとまず難は凌げた、と思う。いや、これも嘘。まだ残ってた。やっべ〜、モテる女はツラいな。いや、これはツラすぎる。内輪にモテてもあんまいいことないんだよ。

「緩名」
「んえ」

 珍しく爆豪くんに名前を呼ばれて視線をあげると、ぐにっと頬を片手で挟まれる。パンじゃないんだから。じーっ、っと赤い瞳が見つめてくるけれど、意図がイマイチわからない。え? キスされるのかと思った。爆豪くんは合意のない相手にキスしたりせん! 見ろや!
 脳内見ろやくんが解釈違いを叫ぶ中、ぐにぐにと頬を揉まれる。なんですか。捏ねてもこれ以上柔らかくはなりませんが。てのひらが近くにあるからか、甘い香りが鼻をくすぐる。お腹すいた。あ、寮帰ってクッキー試作しないと。砂藤くんにメッセ入れとこ。思考を別次元に飛ばしていると、満足したのか頬を鷲掴む手が離される。まじなんなん。

「好きな奴いるンか」
「……え、いないけど」

 急に三奈が30秒に1回持ち出す話題になってびっくりした。ああ、でもそっか。爆豪くん私のこと好きなんだもんな。まあ好きな人相手に痛いくらい頬潰さないけど、普通。いや、でも冷静になると「好きな人いる?」って好きな人に聞く爆豪くんかわいいな。微笑ましい。クソデカ態度からは想像もできないくらいキュートな質問だ。こうしてみると、男子高校生らしさ満々だ。

「緩名」
「今度は轟くん、はいなに」
「俺のこと嫌いか?」
「嫌いではないよ」
「じゃあ好きか?」
「友愛としてなら」

 引っ掛け問題を繰り出された。まじで厄介。とはいえ、難易度低めだ。流石に場数が違うのでね、クレバーな磨さんを舐めないで欲しい。するりと交わすと、ざまァ、と爆豪くんに煽られていた。煽らないの。

「ていうかそろぼち帰ろ」
「おー」
「そうだな」

 靴箱でどんだけもだもだするんだ。ちらほらいる下校生にめちゃくちゃ見られたからね。私達、なにかと目立つ自覚はあるし。靴を履き替えて校舎を出ると、冷たい風が吹いていた。7限終わりにすったもんだしていたから、もう結構いい時間になっている。肌寒。沈んでいく夕陽を見て目を細めると、片手を爆豪くんに取られた。そのままきゅ、と繋がれる。え、なになになに。かわいいけど。なに?

「え、なに?」
「べつに」
「いや絶対べつにじゃない」
「俺もいいか」
「そもそも爆豪くんも許してないんだけど、え、無視!?」

 反対の手も轟くんに繋がれて、両手にツートップだ。誰かと手を繋いだり腕を組むことはそれなりにあるとはいえ、流石にこの、両手にイケメンは初めてなんだけど。まじでどうすりゃいいの。暖かいのは暖かいが。

「……ま、いいか」

 言っても聞かなそうだし。手を繋ぐくらい減るもんでもないし。あ、帰る前に砂藤くんにメッセージ送っておきたかったのに、手が空いてない。まあそれも帰ってからでいいか。

「緩名、」
「ん?」

 呼ばれた声に振り返る。
 重なるように告げられた宣戦布告に、ひくりと頬が引き攣った。



PREVNEXT

- ナノ -