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「多いな……!」
「多いね……!」
「人がゴミのようだ!」
「だからやめなさいって。好きねそれ」

 コツンと瀬呂くんに頭を小突かれる。人多いとこだとなんかね、言わなきゃってなるよね。

「えー……ではアレ、仮免のヤツをやります」
「仮免のヤツ」
「ざっくりしてんな」

 壇上に立つ、超睡眠不足そうな人、ヒーロー公安委員会の人だそうだ。説明の中にも疲れを滲ませて、いや大幅に溢れさせて今すぐ寝たいを隠さない。公安そんな寝れないの? 就職先から絶対外しとこ。

「ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に勝ち抜けの演習を行ってもらいます」

 ヒーローは見返りを求めるな、自己犠牲こそヒーローの正しい姿、なんてのは、いくら正しくヒーロー志望になったからってゲロ出そうな理想なんだけど、それを求め目指す人も多いのが事実で。げろげろ。今回の試験で試されるのは、「スピード」らしい。先着100名様のみ一次通過、なんていう、鬼倍率も良いとこなアレだ。目良さんの指示語が多すぎるせいで移りそう。
 試験の内容は、ターゲットを三つ、ボールが六つ渡されて、ターゲット全てに当てられたら脱落、合格は誰かのターゲットの三つめを掠めとって二人倒したら勝ち抜きだ。この人数だ、乱戦になりそう。雄英は個性も体育祭までの手の内もバレてるから、狙われそうだな〜。

「えー……じゃあ展開後ターゲットとボール配るんで、全員に行き渡ってから1分後にスタートとします」
「展開?」
「にょわ」

 ゴゴゴゴゴ、と説明会場が言葉通り展開して、一次試験のフィールドになった。めちゃくちゃ大掛かり〜。好きな地形を活かして、ね……。集団戦、になると思うんだけど、協力プレイ嫌がる子達もいるしなあ。



「皆! あまり離れず一かたまりで動こう!」
「私ら狙われるだろうしねえ……」

 緑谷くんの案に頷く。それがいい。私もそう考えてたとこ。

「フザけろ遠足じゃねえんだよ」
「バッカ待て待て」
「協調性皆無その1」

 タッタカターと離れる爆豪くん。そしてそれをカバーするように続いた切島くん、上鳴くんが。

「俺も大所帯じゃ却って力が発揮出来ねえ」
「轟くん!!」
「気を付けて〜」
「緑谷! 時間ねえよ! 行こう!!」

 協調性皆無その2、轟くんが離脱する。なんとなくそうなりそうだとは思ってた。まあ範囲攻撃に長けているし、周りを巻き込まず暴れられるからいいのかもしれないけど。無事の通過を祈りたいが、私も他人のことばかり言っていられない。緑谷くん達の一団の最後尾を走る。カウントダウンが始まった。う〜ん、めっちゃいるなあ。
 STARTの合図と共に、大量のボールが降り注いだ。



『脱落者120名!! 一人で120名脱落させて通過した!!』
「分断されちゃったな〜」

 ひょこひょこと足場の悪い上を歩く。胡散臭ピーポさんの個性によって、ある程度纏まっていたA組は見事に分断されてしまった。最初の通過者は120名を一気に脱落させたらしい。やっば〜えっぐ〜どんな個性? そして私は一人。えっ、かわいそう〜。涙なんだけど。分断される直前に、その場にいたクラスメイトには個性と身体能力のバフをかけたので、みんな適度に頑張ってほしい。がんばえ〜。
 んで、今の私。めちゃくちゃ囲まれている。

「有用な個性だが、一人じゃ所詮支援職……!」
「悪ィが潰させてもらう!」
「まっ、そうなるよね」

 ヒーロー志望らしくない台詞を吐きながら、他校のヒーロー科の人達に狙い撃ちされる。私一人に向けられるボールの量じゃない。効率悪すぎでしょ、もしかして頭働いてない? あんこ食べた方がいいよ。ふふん、獲物が自らやってきてくれて、私は有難いけどね。飛んで火に入る夏の虫、とはこのことよ。あ、悪役っぽい。

「そう簡単にはやられ〜ませんっ」
「な、にっ……? あ……?」

 個性を発動。エフェクトは切って、最近新しく覚えた「遅く」するデバフを、周囲に展開する。半径10、盛ったわ、7mくらいの円形に広がるデバフ。その輪の中に入ると、ガクン、と人もボールも、スピードを落とした。ハッハッハ、止まって見えるぞ。

「てーいっ」
「ぐ……ッ!」
「うわ、っ!」
「ひ、いやあっ!」

 期末試験の時よりも大きさを増した扇を振りかぶって、一閃。一回転したら、正面にいた人達に、私に襲いかかっていたボールが一斉に歯向かっていく。

「ハッハー! やられたらやり返す、倍返しだぁ!」

 更にデバフを解除、からの、今度は「速く」するバフを。人間は突然のスピードの変化に付いていけないが、無機物はそうではない。勢いを増して、一人のか弱い美少女をボコろうとした不届き者達のターゲットを乱れ打つ。ぽぽぽぽぽ、と発光するターゲット。

『二人目の通過者が出ました。こちらも凄い、脱落者46名。この調子でサクサクと行ってください』
「怠慢かい」

 目良さんのアナウンス、怠惰だ。気が抜ける。脱落まではいかなくとも、ターゲットの一つ二つに当てることはできる。私を狙っていたほとんどの人間に一矢報いられたでしょう。やったねピースピース。は流石にしないけど、地に伏している人達の隣を素通りした。私二人目らしい。やった〜めっちゃいい方じゃん? さっさと控え室に、と急かされるので、てってこ向かった。ドンドン通過者出てるから、タイミング良かったなぁ。



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