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「降りろ、到着だ」

 先生の指示に従い、ゾロゾロと降りる。国立多古場競技場。仮免試験の会場だ。

「んん〜よく寝た」
「緊張してきたァ」
「多古場でやるんだ」
「試験って何やるんだろう。ハー仮免取れっかなァ」

 不安そうな峰田くんに、先生がしゃがみこむ。目線を合わせるところ、好きよ。

「峰田、取れるかじゃない。取ってこい」
「おっもっ、モロチンだぜ!」
「この試験に合格し仮免許を取得出来ればおまえら志望者は晴れてヒヨっ子……セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」

 先生の激励に、ぐっと拳を握る。ヒーローになると決めたけど、決意だけでなれるわけでもない。私の中で、その一歩が今日だ。

「絶対受かるから、見ててね」
「……ああ」

 決意表明。ニッと笑って見上げると、先生も少しだけ口元を緩めた。

「っしゃあなってやろうぜヒヨっ子によォ!!」
「いつもの一発決めて行こーぜ!」

 輪っかになって、いつもの一発。

「せーのっ、“Plus……」
「Ultra!!」
「にょっ」

 キーン、大音量が突き刺さった。なに、だれえ? バカデカ声量じゃん。バグ?

「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ、イナサ」
「ああ、しまった!!」

 制帽を被った、見慣れない大きな男の子。円陣に入ってきたけど、雄英の制服ではない。

「どうも大変失礼致しましたァ!!!」
「ぎゃっ」

 ガァン! とすっごい勢いで地面に叩きつけられる額。落ちた制帽がひらひらと私の元へ。えーこの帽子かっこいい。いいな〜欲しい。

「なんだこのテンションだけで乗り切る感じの人は!?」
「飯田と切島を足して二乗したような……!」
「制帽落ちたよ〜」
「や、緩名も緩名で勝手に人の帽子被るな」
「かわいい? 似合ってる?」
「似合ってるけど返そうね」

 制帽被らせてもらった。勝手に。ぶかぶかだ、私にはちょっと大きいわ。でもかわい〜。

「東の雄英、西の士傑」
「なにそれ? 有名なやつ? かっちゃん今日かっこいいね」
「……ハァ」

 無言で溜息を吐かれた。褒めたのに。今日の爆豪くんビジュ爆発してる。
 なんでも士傑高校、雄英に匹敵するほどの難関校らしい。へえ〜。制服かわいいもんね。

「一度言ってみたかったっス! プルスウルトラ!」
「それ返して来い。ハゲが移んぞ」
「似合ってる?」
「自分雄英高校大好きっス!!」
「似合ってねえ」
「えー」

 似合ってないと言われたので、声の大きい坊主の人に帽子を返しに行く。あ、頭から血出てる。

「雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス! よろしくお願いします!」
「ねえ、血出てるよ」
「! 緩名磨さんっスね!」
「帽子かわいいね」
「緩名さんもよく似合ってるっス!」
「ほんと? 返さなくていい?」
「それは困るかもしれないっス……!」
「緩名、おまえも他校を困らすな」
「ごめんなさーい」

 大声くんに帽子を返す。サービスで額の傷を治したら、ありがとうございます!!! とまたバカデカ大声が返ってきた。うるさい。耳キーンとする。治したとはいえ血が消えたわけでもないのに、拭いもせずそのまま帽子を被った。ばっちい。
 夜嵐くんと言うらしい彼は、同学年で、雄英の推薦にトップ合格したにも関わらず入学を蹴ったらしい。かなりの実力者なんだな〜ムキムキだし。とりあえず、変な人なことは分かった。

「イレイザー!? イレイザーじゃないか!」
「!」
「わあ、いやそうな顔」

 女の人の声が先生を呼ぶ。めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。マイク先生以上だ。

「結婚しようぜ!」
「しない」
「わあ」
「先生……私のことは遊びだったのね」
「マジかイレイザー!」
「ややこしくすんな緩名」

 ぺしん、と殴られた。ひどい。DVだ。離婚よお〜!
 先生に求婚してウケている彼女は、スマイルヒーロー「Ms.ジョーク」というらしい。ミドペディアが解説してくれている。

「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ」
「その家庭幸せじゃないだろ」
「ブハ!!」
「じゃあ私と結婚する?」
「俺を学校から追い出すつもりか」
「ブハハハ!」

 ジョークさんがめちゃくちゃウケてる。やった〜。目が合ったら親指を立てられたので、立て返しておく。今度マイク先生と三人でイレイザーヘッドを囲む会しようね。

「何だおまえの高校もか」
「いじりがいがあるんだよなイレイザーは」
「わかる〜」
「分かんな緩名」
「そうそうおいで皆! 雄英だよ!」

 ジョークさんも先生らしい。すごい個性だな。はは、食らいたくね〜。

「おお! 本物じゃないか!!」
「すごいよすごいよ!! TVで見た人ばっかり!」

 そうか。そう言えば雄英体育祭はTV中継されてるんだった。ん? ということは……。体育祭から三ヶ月ほど経っているので手の内はともかく、少なくとも個性はバレてるわけか。あ、めんどくさくなった。めんどくさレベルアップです。テッテレー。

「傑物学園高校2年2組! 私の受け持ちよろしくな」

 二年生、年上だ。仮免は二年以上で取る事が多いらしいし、私たちよりもみんな時間をかけて学んでる。油断は出来ない。
 真堂、という爽やかイケメン〜って感じの人がみんなの手を握って挨拶して回っていた。うわ、胡散臭さすごい。なんでだろ、めちゃくちゃ胡散臭い。

「中でも神野事件を中心で経験した爆豪くん、緩名さん。君達は特別に強い心を持っている」
「あ?」

 あ、絶対煽りだ。やだ〜。

「今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
「やだ、セクハラ〜」

 ス、と差し出された握手。いやいや手を取ろうとすると、爆豪くんがパシンと弾いた。

「フカしてんじゃねえ。台詞と面が合ってねんだよ」
「爽やかイケメンは腹黒暗黒微笑が定石」
「こらおめーら失礼だろ! すみません無礼で……」
「良いんだよ! 心が強い証拠さ!」
「初対面で神野持ち出すあっちの方が無礼じゃない?」

 わりとセンシティブな話題じゃん。ぶー、と膨れっ面になると、抑えて抑えて、と切島くんが背中を撫でてきた。
 先生に声をかけられて、切島くんと瀬呂くんに宥められながらその場を後にする。やだ、私の精神、幼すぎ……? コスチュームに着替えたら、説明、からの本番だ。



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