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 コスチュームやサポートアイテムを改良したり、必殺技開発や個性伸ばしに集中したり。やっぱり羽欲しいね〜って発目さんとワイワイキャッキャしてコスに付けた羽(超合金)は、一日でお蔵入りになった。無念。見た目がもう機械兵になっちゃったもんな。手っ取り早く攻撃力を上げるために、飛び道具で補助しようかとしたんだけど、訓練がそれなりに必要なためそれも今は断念。付け焼き刃で使えるほど安易ではなかった。サポートアイテムの道は深く険しい。コスチュームの変更は、靴のソールが分厚く硬くなったくらいだ。身体強化+蹴りの一撃でノックアウト出来るくらいにはそこそこ強い。あと身長盛れる。

「あにゃ」

 爆破の影響で落ちてきた瓦礫が、オールマイトに降りかかりそうになる。といっても、いくら弱体化してるとは言えオールマイトだ。トゥルーフォームでもあれくらいの瓦礫ならどうにかなる、と思っていたんだけど、みんなはそうでは無かったらしく、緑谷くんが蹴りにより粉砕していた。緑谷くん、腕が鬼やべぇ黒ひげ危機一髪状態らしく、スタイルをパンチから足技メインに変更したらしい。ソールの強化が奇しくも被っちゃった。おそろ〜。

「爆豪少年! すまなかった!」

 オールマイトが、爆豪くんを見上げて詫びる。いつも通りなように見えて、爆豪くんの様子が少し、おかしい気がする。ここ数日見ていたけど、凪いでいるのに焦燥している、ような。気のせいかもしんないけど、私の場合は彼と同じ、拐われ敵に勧誘された境遇だから、思うこともある。いい年してても傷付くものは傷付くし、怖いものは怖いんだから、16の少年ならもっとじゃないかなって。爆豪くんは、私とは違ってオールマイトに憧れてを抱えてもいる。なんだかなあ、とモヤモヤしたところで、入口から大きな声が。

「そこまでだA組!!!」

 顔を向けると、B組の人たち。一佳の姿を見つけて、へら〜と手を振る。その周りにいた数人も一緒に手を振り返してくれた。

「やっほ〜」
「おはよ、磨」

 テッテコ近付いていく。B組の人あんまり知らないんだよね。合宿の時は必死だったから、名前とか全然覚えてない。スライムみたいな目をした男の子と目が合って、とりあえずにへらっと笑っておいたら、男の子が胸を抑えて蹲った。また一人の男を魅了してしまった……南無……。なーんか見覚えあるんだけど、誰だっけ。

「あ!」
「うわっ、どうした?」
「なんとかくんだ」
「なんとか……円場のこと?」
「つぶらばくん? 多分そう。膝枕した人」
「ブッ」
「ゴフッ」
「ハッ?」

 一佳のコスチャイナでかわい〜と思いながら男の子を思い出す。そうだそうだ、林間で襲われてる時轟くんの背中の住人だった人だ。元気そうでよかった〜。数人の男の子にどういうことだ! と詰め寄られている。B組も元気だね。

「つぶらばくん、お顔かわいいね」
「この顔でよかった……!」

 スライムみたいな目がめちゃくちゃかわいい。A組にはまたいないタイプの男の子だ。ぽよぽよしたい。

「ちょっとちょっとォ! 何A組と馴れ合ってるのかなァ!?」

 そのままB組の子達と改めて自己紹介していると、バカデカ大声が投げられる。うっさ。

「唯ちゃんかわいい。推しだわ」
「ん」
「無視して和まないでくれるかなァ!?」

 B組の女の子もかわいい子ばっかりだ。小大唯ちゃんかわいすぎる。キャッキャしてたら後ろから肩を掴まれた。

「うわ物間セクハラ」
「えーんえーんセクシャルなハラスメントされた」
「磨大丈夫? こっちおいで」
「なに一致団結してるんだい」
「物間……緩名に触りにいきやがった……」
「な、うらやま……けしからん」

 女子達の軽蔑の目が情緒不安定物間くんを襲う。肩ぐらいべつにいいけど。男子達は違う意味で遠巻きに見ている。欲望に素直かよ。

「ま、いいや。よろしくね〜じょふあくん」
「変な呼び方しないでくれる!? 意味が分からないし!」
「情緒不安定くんの略! かわいくない?」
「フフッ」
「なに笑ってるんだい君達ィ! 全ッ然かわいくないからね!」

 じょふあくん、B組の女の子達がニッコリしてる。結構ウケたっぽい。なんとなく彼のB組での立ち位置が分かってきた。

「物間なにくんだっけ」
「そんなことも知らないのかなァ!? 流石目立ってるA組様はB組のことなんて何にも知らないって!?
ちょっと天狗すぎるんじゃない!?」
「わかった! 物間声デカくん」
「それ君の印象だよねぇ!?」
「あはは、元気だねこの人」
「磨もなかなか大物だな〜……」
「暖簾に腕押しって感じノコ」
「ん」

 物間寧人くんって言うらしい。でっかい声で絡んでくる物間くんをBGMに、気になってた男の子の傍に行って見あげた。片手は一佳、反対はきのこちゃんと繋いでる。きのこちゃんの目が超かわいい。

「てつてつてつてつくん!」
「オウ!」
「てつてつてつてつくん!」
「オウ!」
「何回そのやり取りやってんの」
「鉄哲徹鐵くん、なんか私好きだぁ。触っていい?」
「オ……!?」
「え……!?」

 気になってた人、鉄哲徹鐵くん。名前すごい。なんかかわいいよね。鉄、切島くんの硬化の手触りとはまた違うんだろうか。実は前からちょっと気になってたの。B組の人たちがピシッと停止した。じわじわと顔が赤くなっていってる。鉄哲くん、赤くなって大丈夫なのかな? 鉄、溶けない?

「緩名〜あんま他所のクラス誑かしたらダメだろ」
「私そんなことしてないも〜ん」
「悪ィなB組さん、コイツこれがスタンダードだから」
「むん、びっくりするほど彼氏面」

 にょ、と現れた瀬呂くんが私の肩に腕を回して引き寄せた。理解のある彼くんかよ。そろそろ体育館の交代の時間らしい。はい。
 バイバイ、と手を振ったらみんな振り返してくれた。物間くんもちゃっかり、組んだ腕を小さく振ってくれる。爆豪くんとはタイプの違うツンデレさん? A組で合流したら、先生にも同じことでちょっと怒られた。魔性の女かもしれん。



「フヘエエエ毎日大変だァ……!」
「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」
「んー」
「磨寝てるじゃん」
「あと一週間もないですわ」

 夜、共有スペースでプチ女子会だ。ねむいのだ。仮免試験まで、もう後一週間を切っていた。みんな必殺技開発や個性伸ばしに励んでいるおかげでクタクタだ。よく寝れる。

「お茶子ちゃんは?」

 うとうとと目を閉じる。あ〜寝れそ。

「お茶子ちゃん?」
「うひゃん!」

 三奈の膝にごろっと寝転ぶ。お茶子ちゃんもぼんやりとしていたみたいだ。

「お疲れのようね」
「いやいやいや! 疲れてなんかいられへん、まだまだこっから! ……のハズなんだけど、何だろうねぇ。最近ムダに心がザワつくんが多くてねえ」

 心がザワつく。私も心、ザワつく時あるなあ。分かる分かる、と思っていると、三奈がワクワクしていた。

「恋だ」
「ギョ」
「ぎょぎょ?」

 魚。恋かあ。青くていい、素晴らしい。

「な、何!? 故意!? 知らん知らん!」
「緑谷か飯田!? 一緒にいること多いよねえ!」
「チャウワチャウワ」
「ちゃうわちゃうわ〜」

 焦ってふわ〜と浮き上がるお茶子ちゃん。かわいいし圧縮訓練の成果も出ている。ほほえま〜。誰!? どっち!? と一気に捲し立てる三奈達。恋バナ好きね。

「無理に詮索するのは良くないわ」
「ええ。それより明日も早いですしもうオヤスミしましょう」
「ええー!? やだもっと聞きたいー!! 何でもない話でも強引に恋愛に結びつけたいーー!」

 女子高生の時、確かに恋バナでキャッキャしたりしてたなあ。今世の中学の時もわりとそうだった。雄英に入ってからは、忙しくてめっきりだけど。

「あ、磨は!? 仲良い男子多いよね」
「ウチもちょっと気になってた」
「磨ちゃん! どうなのー!?」
「おっと流れ弾」

 被弾した。私ぃ?

「爆豪とか轟と仲良いじゃん! 障子とも……あと相澤先生!」
「待って、それ犯罪」
「瀬呂ともいい感じじゃなかった?」
「あー、ねえ! B組のとこお迎え行った時ドキドキしたもん!」
「あれは確かに彼氏面だなと思った」

 相澤先生は犯罪です。そんな理性ないことする人じゃないけど、仲良く見えてるならそれはそれで嬉しいかも。実際にはマイク先生と同じ扱われ方なんだけど。

「みんなおともだちですう」
「えー」

 無難な回答をしておく。さっきまでは宥めていた百や梅雨ちゃんも、私が受け流すタイプだからか、止めずに興味深そうに聞いている。常闇ちゃんもいいと思うわ、私は轟さん推しです! らしい。最近百は「推し」という概念をちょっと覚えた。かわいい。

「磨は彼氏いたんでしょ? どんな人だった!?」
「どんな……え、人間、男、年上って感じ」
「イケメンだった?」
「まあ私面食いだし……」
「……どこまでいった?」
「え〜……ないしょ」
「ギャー!!!!」

 人差し指を立てて意味深に微笑むと、悲鳴を上げて喜ぶ。夜ですよ〜。厳しい訓練の後なのにみんな元気だねえ。男子達が何事かとソワソワしてる。めちゃくちゃ普通の雑談です。

「ほらもう寝るよ〜明日早いよ〜」
「そうですね、つい気になってしまいました……」
「ちぇー。また聞かせてね」
「気が向いたらね〜」

 夜の女子会は一旦切り上げ。おやすみの時間だ。仮免試験まで、残された時間は少ない。



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