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「あと一個あるんだけど、」
「やってるねえ皆!」
「!」
「わあ、びっくりしたあ」
ヌッ、と背後から声をかけられる。びっくりした。
「オールマイト……!?」
「私が……呼ばれてないけど今日は特に用事もなかったので来た!」
挨拶代わりにマッスルフォームに一瞬変身したオールマイト。オールマイトが人前でトゥルーフォームでいることに、未だ慣れない。暇で必殺技を見に来たらしい。少年みたいだな。
深く言及することはやめてたけど、オールマイトが数年前戦って大きく負傷したという敵は、神野の「オール・フォー・ワン」と呼ばれた敵なんだろうなと予想していた。また、って言っていたし。ワイプシの一人、ラグドールは、AFOに個性を奪われたらしい。脳無と呼ばれる脳ミソ敵には、複数の個性が備わっている。AFOは、個性を奪い、与えることも出来る個性な可能性に気付いて、一度気付くと知らなくていいことがドンドンと思考を占めてくる。オールマイトと緑谷くんの関係。二人は入学前からの知り合いで、個性もよく似ている。オールマイトは緑谷くんを特別に気にかけているし、爆豪くんによれば緑谷くんは無個性「だった」。緑谷くんは、入学当初は“個性”を全く使いこなせていなかった……。ここまで知ってしまえば、頭脳明晰名探偵磨ちゃんの手にかかれば、だいたいの関係が分かってしまった。あ〜ヤダヤダ、面倒くさそう。絶対めちゃくちゃ機密事項じゃん。気付きたくなかった。事件から入寮まで、家で時間を持て余していたのが悪い。
気付いてしまったことを、見て見ぬふりするか、本人たちに言うかはまだ迷っている。ていうか傍から見ていて二人は秘密の関係下手すぎて、私以外にもバレそう。バレたらエライ事なるでしょ。
憂鬱な物思いに、はあ、と溜め息を吐き出したら、掻き消すように爆発音が鳴った。エクトプラズム先生に、オカワリを頼む爆豪くん。死んだ! て。無邪気かよ。
「うるっっさ」
「彼はすごいな」
「ええ。もっと強くなりますよ、あれは」
先生べた褒めじゃん。爆豪くんのこと大好きかよ。でも実際、爆豪くんは事件から日にちが経っていないにも関わらず、スッキリすると言わんばかりに暴れ回っている。彼も私と同じように、外出は控えなければって立場だったから、久しぶりに派手に動けて気持ちいいんだろうな〜。若いのに強いなあ、と思う。それから、その強さに、潰されなければいいな、と思った。
「……、緩名」
「ひぁいっ」
「ボサっとしてる時間はねえぞ」
パンッ、と後頭部に軽い衝撃。意識飛んでたわ。隣の先生を見上げるとシレッとしている。先生ってわりとすぐに手出るよね。
「あと一個あるんだろ。時間が無駄だ、さっさと見せろ」
「あっそうそうそれ」
オールマイトの登場で中断していたけど、まだ一つ、必殺技候補はあるのだ。
「先生にデバフかけない方がいいよね?」
「別に構わん」
「じゃ、エクトプラズム先生数体でも周りにいてほしい」
「何するんだ」
私の周りをぐるっと囲むように、先生達が立つ。距離は半径五メートルくらい。
「いきま〜す」
声をかけて、軽めの身体能力低下のデバフ。かかっても風邪のひきはじめくらいの気怠さだ。ギラギラのエフェクトをオンにして、自分を中心に円状に展開した。一瞬、チリ、と指先が痺れる。
「どー? 全員にかかってる?」
「ああ」
先生と、エクトプラズム先生達の声が重なる。無事成功したようだ。個性を解除すると、またグッパと先生は手を握って見つめていた。癖?
「複数人に、同じ効果なら一気にかけれるようになりました〜」
ぱちぱち〜、と言うけれど、先生たちは特に拍手はしてくれなかった。磨悲しい。
「円状に限るか?」
「いや、前方だけとか、かける位置はだいたい決めれるよ。距離は私から一定になるんだけど……必殺技になる?」
「アア、充分ダロウ」
「やったー!」
「技名はどうするの?」
「わっ、びびった」
のしっ、と頭に柔らかい感触と適度な重み。ミッドナイト先生が背中に寄りかかってきた。びっくりした。
「技名……いります?」
「そりゃあない人もいるけど……あった方が無難だしかっこいいじゃない」
「相澤先生も必殺技名とか叫ぶの?」
見つめると無言で目を反らされた。逃げだ! 絶対この人嫌がって技名とか叫ばなさそう。
「え〜……保留で」
こういうののセンス、本当にないんだよね。同じ技でも効能変わるし難しくない? 悩む。そして、今のところ、必殺技案は以上だ。
思案顔だった先生が顔を上げて、私を見つめた。前髪の隙間からガッツリ目が合う。
「緩名、おまえ、個性のキャパが増えたな」
「え? ああ」
そう、個性のキャパ。自分でそこまで気が付いていなかったけれど、神野事件の後の検診でも言われた。どうも、あの時必死すぎてキャパぶち抜いて個性使用した影響で、容量がはちゃめちゃに増えたらしい。疲れもするし、眠くもなるし、頭痛も起こるけど、合宿前よりもだーーーいぶ増えている。
「聞いてねぇぞ」
「あは、言ってなかったですっけ」
「……ハア、おまえな。そういうのはちゃんと言っとけ。身体に不調はないんだな?」
「うあ、ごめんなさい……うん、大丈夫ってお医者さんのお墨付き」
「ならいい。が、今度からちゃんと報告しろ」
定期検診が必要な理由はこれである。今のところは異変が出ていないけど、急激な個性のキャパの増量は、たまにあるけど例が少ないらしく、一応の様子見といったところだ。ぱちんっ、と額を中指に弾かれた。次からは気をつけます。
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