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「昨日話した通り、まずは“仮免許”取得が当面の目標だ!」
「はい!」

 夏休み期間中だけど、制服で登校して教室に座る。夏期講習的な雰囲気ってちょっと好きなんだよね。エモくて。青春とはエモがほとんどである。
 仮免、合格率は毎年五割を切るほどらしい。試験内容も、実習ではあるけど救助、実戦、防衛、とか多岐に渡るようで、何が来ても大丈夫なように鍛えておかなければならない。受験するのは二年、三年の上級生がほとんどで、雄英でも例年は二年に取得するらしい。今年は敵の動きが活発化している現状を見据えての早倒し。

「そこで今日から君らには一人最低でも二つ……」

 一度区切った先生が、指先をクイと動かした。勢いよく開いた扉から、ミッドナイト先生、エクトプラズム先生、セメントス先生が入ってくる。

「必殺技を作ってもらう!!」
「学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタァア!!」

 ……必殺技、学校っぽいか? とにかくみんなのテンションが上がっている。必殺技、必殺技かあ……それらしいのは思いついているにしても、技名とか叫ぶのかな? ドラグスレイブ! みたいな。やだ、恥ずかしい、無理だわ。

「必殺! コレ即チ必勝ノ技・型のコトナリ!」
「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」
「技は己を象徴する! 今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」
「詳しい話は実践を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え体育館γへ集合だ」

 先生の目がちらりと私を見た。何用だろ。



「トレーニングの台所ランド……略してTDL!」

 体育館γ。一見普通の……いやかなり馬鹿でかくてなんにもないけど、まあ形状は普通の体育館。セメントス先生が個々の生徒に合わせた形状を組み立てるらしい。TDL、USJよりだいぶ厳しそうだから大丈夫なのかな。あ〜ランド行きたい。シーでもいい。ミルクチョコポップコーンまじ美味しい。
 飯田くんがシュバッと挙手をして繰り出した質問に、先生が答えた。

「ヒーローとは事件・事故・天災・人災……あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる」

 情報力、判断力、機動力、戦闘力、他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など。毎年試験内容は違うらしいが、問われるのはそれら多くの適性らしい。他が優れているわけではないけど、戦闘力はわりと問題だなあ。私は他のヒーローより、一歩下がった位置にいることが多くなるだろうけど、守られてばかりでお荷物を増やすようでもいけないから、最低限は敵を退けられるくらいには強くなった方がいい。
 飯田くんの“レシプロバースト”のように、必ずしも攻撃である必要はないらしい。よかった〜。自分の中で、「これさえやれば勝てる」って技なあ。出来なくはない気がするけど難しい。だって回復役が他に手が回らなくなったらわりと無駄じゃない?

「中断されてしまった合宿での“個性”伸ばしは……この必殺技を作り上げる為のプロセスだった」
「!」
「つまりこれから後期始業まで……十日余りの夏休みは“個性”を伸ばしつつ必殺技を編み出す──……圧縮訓練となる!」

 圧縮訓練。壁は高い。コスチュームの改良も視野に入れろ、とのお達し。あ〜どうしよっかな。銃とか欲しいよね。扱える気しないけど。



「せ〜んせ」

 みんなが暴れ回っているのを視界に入れて、ツッタカターと先生に走り寄る。とりあえず少し、出来ることが増えているので見てもらおうと思ったのだ。

「サボんなよ」
「違うよ! 出来ること増えたから見てもらおうと思って」
「なんだ」
「ちょっと見てて」

 手の上に身体能力向上のバフの塊を発生させる。分かりやすようにキラキラオンだ。

「見て、バフを形に出せるようになったの」

 すごくない? と見上げると、先生が指先でキラキラを摘み上げた。そんな埃でもつまむようにせんでも……。因みに名前はまっキラキラすけだ。かわいいでしょ。

「効果は?」
「小さいほど威力抑えめで、大きくなると威力高い」
「どうやって使う」
「え、どうやってだろ」

 そういえば、固形にできる! って気付いたけど、使い方分かんない。ちょっと呆れた顔をされた。

「たぶんだけど、強めに身体にぶつけてみて」
「……ああ、なるほど」

 先生が自分の胸にキラキラを押し当てると、吸い込まれて先生が少しキラキラした。グッパッと手を握っている。効果が出たのか確かめているんだろう。

「俺から第三者にも使えるのか」
「試してないから分からないけど、出来るはず」

 そう言うと、先生が分身のエクトプラズム先生を呼んで、私にもう一度個性を発動するよう言った。身体能力向上をもう一度。さっきよりも少し小さめだ。ポン、とエクトプラズム先生に押し付けると、溶けるように身体に入っていく。

「フム、効果ハアルナ」
「他の種類も出せるのか?」
「うん」
「固体ノママ置イテオケル時間ハ」
「段々萎んでいくっぽくて、一番強めのだと三時間くらいで消えるかな」
「強く握ると吸収されるが、持ち歩くことも可能か」

 能力向上系のバフやデバフなら実戦や救助のサポートに、回復機能向上系なら救急時にめちゃくちゃ便利だと思う。完全に他者へのサポートになるけど。

「……必殺技には微妙?」
「……いや、歴とした必殺技ではある」
「ガ、事仮免試験ニオイテハ、使用シガタイカモ知レナイナ」

 仮免試験がどういう形式か分からないけど、自分一人で挑む場合だったらあんまり効果ないもんね。微妙かあ、と眉を寄せると、ぽんと頭に手が乗った。現場では役立つし、仮免試験でも必要になる場合もある。という先生の慰めだ。うん。



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