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「あ、私の部屋か」

 男子の部屋を巡り終わって、次は女子棟。二階に唯一あるのは私の部屋だ。

「磨の部屋楽しみー!」
「切島は行ったことあんだろ?」
「オウ! なんつーかめちゃくちゃ……大人の女って感じだったぜ……」
「オトナの女……」

 前世で一人暮らししてた時の部屋に寄せていたから、大人の女ではある。とはいえ、今の私の部屋は段ボール部屋だ。どうぶつの森の初期状態。

「見んのは別にいいんだけどさ」

 ガチャ、と鍵を開けて扉を開く。あ、段ボール開けっぱだ。見られて困るものでもないしいっか。

「私の部屋まだ段ボールの住処だよ」
「……荷解き終わってねえじゃん!」
「だって着いたのさっきなんだも〜ん」
「おまえよくそれで普通に遊んでられるな……」
「しばらくは段ボールと共存するって決めたんで……」
「いや、片付けろよ」

 引っ越し後ってだいたいこんなもんだよね。

「でもでも! 段ボール邪魔だけどオシャレ」
「ええ、段ボールが無ければとても落ち着いてかわいらしい部屋ですね」
「ほんと! 色合いかわいいなあ。段ボールなければ」
「なんかすっげえエロいよな……段ボール邪魔だけど」
「片付けますごめんなさい」

 辞めよう! チクチク言葉。段ボールが可哀想だと思わないのか。

「これ終わったら手伝おっか?」
「ん? 大丈夫だよ〜段ボールも収納ケースだし」
「ダサいからやめて」
「すみません……」

 三奈の申し出を遠慮すると、真顔でダサいと言いきられた。段ボールくんかわいそう。後で手伝ってもらうことになった。全然いいのに。

「まじで全員やるの……? 大丈夫?」
「大丈夫でしょたぶん」
「…………ハズいんだけど」

 恥ずかしがる響香の部屋は、めちゃくちゃ楽器に溢れていた。部屋の中央にアンプ、ギターにベースにアコギ。ドラムにキーボード、一人でバンド完成してる。

「エレアコの形好きなんだよね」
「ま、形で選ぶ人もいるしね」
「今度ドラム叩きにくるね〜」
「磨叩けんの?」
「や、全然」

 やってみたいとは思うよね。音楽は教養なので。貶しにいった金髪二人がイヤホンジャックでブスリといかれているのを見ながら、次の部屋へ。透だ。

「どーだ!?」
「The女の子の部屋だね。かわいい」

 ピンクと白でかわいらしいお部屋だ。スツールふわもこハートでかわいい。男子達がそわそわしている。思春期だ。

「じゃーん!! カワイーでしょーが!!」
「おォ……」
「ギャルい」

 三奈の部屋、柄物が多くて目がチカチカする。情に厚いギャルの部屋だ。チカチカする。色合いもめちゃくちゃ三奈っぽくてかわいい。

「味気のない部屋でございます……」
「おお……!」

 お茶子ちゃんの部屋、シンプルで可愛らしい感じだ。ところどころに生活感がしっかりある。お茶子ちゃんは下宿組だったから、それもあるんだろう。

「なんかこう……あまりにもフツーにフツーのジョシ部屋見て回ってると背徳感出てくるね……」
「禁断の花園……」
「私の部屋も背徳感あった?」
「……正直、ちょっとあった……」
「まじか」

 段ボールの生々しさがよかったのかな。段ボールの生々しさって何?
 梅雨ちゃんはどうやら気分が優れないらしい。さっき共有スペースでみんなに絞られた時に少しだけ顔を覗かせて部屋に引っ込んでしまったけど、大丈夫かな。引越しって疲れるしね。

「じゃ最後は八百万か!」

 瀬呂くんがテープで不届き者をぐるぐるに巻いていた。ナイス。

「それが……私見当違いをしてしまいまして……皆さんの創意溢れるお部屋と比べて……少々手狭になってしまいましたの」

 百が扉を開けると、圧迫感。ドドン! と鎮座する巨大ベッド。わあ、でっかい。

「でけえ──! 狭! どうした八百万!」
「私の使っていた家具なのですが……まさかお部屋の広さがこれだけだとは思っておらず……」

 気恥しそうにする百。めちゃくちゃお嬢様なんだろうな〜。デカい天蓋ベッドかわいい。私のベッドも天蓋つけようかな。天蓋だけで売ってるのあるよね。

「ここでお泊まりできるね」
「まあ、是非いらしてください」
「今度一緒に寝ようね」
「ええ! 楽しみです」

 夏休みにお泊まりが出来なくなったけど、寮生活なら泊まり放題だよね。百のベッド、三人くらいなら余裕で寝れそう。



 部屋王は、「ケーキが美味しい」という理由で女子票をかっさらっていった砂藤くんが獲得した。異論なし。部屋王じゃなくて甘味王だけど。
 お茶子ちゃんが、轟くん、飯田くん、緑谷くん、切島くん、百を連なって寮を出るのを見送る。あのメンバーは、救出作戦に参加した五人だ。まさか百まで来ているとは思ってもいなかった。どういう経緯で、どういう感情があって赴いたのか、推察は出来てもその場面を見ていないので分からない。拐われていた私と爆豪くん、それからガスによって意識不明のままだった響香と透以外のみんなも、五人のことを知っていたらしい。
 私だって、許可を取ったと言えど、わりと批判されても仕方ない勝手なことをした。けど、五人の行動は、完全にルール違反で、無謀なことだ。個性の使用については方できちんと縛られていて、友達を救けるためっていうヒーローらしい志しの元だったといえ、行動原理で敵とヒーローを分けるわけにもいかないからね。その蛮勇を、私個人としては褒めたい気持ちもあるんだけど、二度と同じように危険な行為をして欲しくない。から、一言くらいはチクチク言いたいんだけど、なかなかタイミングが見つからない。先生にもキツく言われてそうだし。爆豪くんがどうかは知らないけど、彼も思うところは色々とあることだろう。人間関係っていくつになっても、どんな環境でも難しいなあ。
 まあとりあえず。呼び出したのはお茶子ちゃんと梅雨ちゃんの、残っていた子達っぽいし、今日のところは見逃しておいたろ。
 吐き出した溜め息は、誰もいない共有スペースに溶けて消えた。



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