04



 最初の種目は50m走。出席番号順では最後なので、各々が個性を活かして走っているのを見守る。インテリ眼鏡君、めっちゃ速いな。エンジンに小石挟んだらどうなるんだろ。
 それにしても、一見個性を使っていないように見える子も普通に速い。流石ヒーロー科、素の身体能力も高いか、鍛えていた子が多いんだろう。もしかしたら、この世界は前よりも身体能力の平均が高いのかもしれない、と考えたこともある。生まれ変わったこの身体も、まるで前世の身体に上乗せでもしたように、運動や頭脳が優れている。
 しかし8種目ね。ちょっとだけめんどくさい。体育ある日ってなんか心の準備いるくない? ガッツリ手を抜くつもりはないけれど、そもそも私はどちらかというとサポート寄りの個性だ。自分で戦えないわけではない、と思うけれど、正直痛いのは普通に嫌なので、支援に徹せられたらそれが最適だ。ヒーロー志望としてどうかと言われたらなんも言えない。志願して入ったんじゃないし、見逃して欲しい。
 各々がどの程度個性を使いこなしているか、使い方を知っているかを見る意図なんだろうなあ。個性把握テストって言うぐらいだし。
 グルグル足首を回して、軽く準備運動をする。急な運動は危険だからね。前世、それなりにいい歳だった癖が未だに抜けない。

「緩名」
「はい?」

 いつの間にか隣に立っていた相澤先生に名前を呼ばれて、小首を傾げる。話しかけてきたくせに、走っている生徒から目を離さないままの人を見上げた。

「手は抜くなよ」
「うえ、ちゃんとしますって」
「……言っとくが、スカウト枠だからって特別扱いはしない。俺はお前でも除籍するぞ」
「ひえ〜、脅しだあ……。ちゃんとするよ、大丈夫」

 ジロッ、と横目で少し睨むように見られたので、手をヒラヒラと振って答える。この人は、元々ヒーロー志望ではない私をヒーロー科に迎え入れるのに抵抗があるようで、初めて会ったスカウトの時からその様子が見て取れた。少し考えなくてもヒーローなんて危険と隣り合わせの世界だし、得る物も多いがその分苦労も多い。得る物、お金は欲しいっちゃ欲しいけど地位とか名声とか別に求めてないし。相澤先生なりの優しさだろうなあ、って理解できるのは、ある程度私の人生経験が積まれているからだ。普通に高校生だったらまず間違いなく萎縮してた。見た目不審者だし。

「せんせー、髪ゴム持ってません?」
「あ? 持ってないのか」
「ん、体育すると思ってなかったから忘れちゃった」
「ほら」
「ありがと〜。行ってきます、終わったら返します」

 髪長いし持ってるかなあと聞いたら持ってた。ラッキー。葡萄か菌みたいな頭の小さい男の子と八百万ちゃんが走り終えて、丁度私の番が来た。長い髪を結びながら立ち位置へと向かう。あーん、一人だから若干視線が痛い。特に小さい男の子からの。走るのはそんな好きじゃないけど、よし、やるかあ。



PREVNEXT

- ナノ -