03
「個性把握……テストォ!?」
寝袋から出されたほんのり生暖かい体操服に腕を通して、グラウンドに集まると早速と言わんばかりに告げられた内容。個性把握テスト。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」
絶対担任が面倒くさいだけだろ、と思わなくもないけれど、入学式もガイダンスも、冗長で退屈だし何度も経験したいほど面白い物でもないので、それはまあいい。合理性、好きなのかな。好きなんだろうなあ。
「雄英は“自由”な校風が売り文句。そしてそれは“先生側”もまた然り」
唖然とする生徒たちを気にも留めず説明を続ける先生を見ながら、やばいとこに来ちゃったかもしれない、なんて今更なことを思う。ゲームだったらロードして別の学校行ってたかも。
「爆豪。中学の時ソフトボール投げ何mだった」
「67m」
インテリとヤンキーのヤンキーの方、ツンツン頭の男の子が、投げ渡されたボールを掴んで円の中に立った。67mって結構だな。見るからに肩強そうだもんね。
個性を使って思い切り。なんとなく嫌な予感がして振りかぶった爆豪くんから少しだけ距離を取る。
「んじゃまあ……死ねぇ!!!」
物騒な掛け声と共に、爆発音と爆風が吹き荒れる。巻きあげられる砂と小石。靡く髪を押さえつける。邪魔だな、結んじゃおうか。いやゴム鞄の中だから無理だわ。距離取っててよかった〜。物凄い勢いで飛んでいくボール。それにしてもヒーロー見習い、掛け声が死ねで良いんかい。
ピピッ、と測定器が鳴る。705.2m。その結果を受けて、周りにいた子たちが沸き立った。
「なんだこれ!!すげー面白そう!」
「“個性”思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!」
面白そう。まあ今の世の中、個性を使える場所は限られているし、ましてや学校の体力テストなんて使ってはいけないと定められているから、その台詞も出るだろう。けれど、それが相澤先生はお気に召さなかったらしい。
「面白そう……か。ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
騒がしくなった生徒たちに、一段と低くした声で先生が凄む。
「トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
はああ!? と驚愕の声が上がる。私も声こそあげないものの、目を見開いた。いーや、マジか。
「生徒の如何は先生の“自由”。ようこそこれが」
「雄英高校ヒーロー科だ」
長い前髪から覗く黒い瞳は、決して冗談を言ってはいなかった。
「“Plus ultra”さ。……全力で乗り越えて来い」
理不尽すぎる……! という何人かの声を受けて、先生がニヤ、と笑った。なるほど、これが噂に聞く“Plus ultra”ってやつか。プルスウルトラ、更に向こうへ。出来るかなあ、私に。
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