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 客席がプチパーティになっている間に、セメントス先生が舞台を完成させた。技術が凄い。あとフォルムがかわいい。
 雄英体育祭、トーナメントのスタートだ。

『一回戦!成績の割になんだその顔!ヒーロー科緑谷出久!対!ごめんまだ目立つ活躍なし!普通科心操人使!』

 一回戦は緑谷くんと、普通科の男の子の対決らしい。なんか見覚えあるな〜と思ったら、宣戦布告しに来た子なんだって。だから見覚えあったのか。ヒーロー科落ちたんだっけ?個性はどんなのだろう。対機械戦闘向きではないんだろうな〜。緑谷くんの応援うちわとか用意しとけばよかった。

『ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする、あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!ケガ上等!こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!道徳倫理は一旦捨ておけ!!』

 一応、緊急の場合は私もリカバリーガール側に回るように言われている。生命力関係なしに治癒出来るからね。そんな場合がこないといいな。
 それにしても、スタジアムの盛り上がり方が凄い。やっぱり皆これを楽しみに観に来てるんだなあ。

『そんじゃ早速始めようか!レディィイイイ……START!!』

 スタートと同時に、何かを話す心操くんに緑谷くんが飛び出した。その瞬間、ピタリ、と動きが停止する。尾白くんがしっぽを激しく揺らしながら、頭を抱えた。これが彼の個性か。

『緑谷完全停止!アホ面でビクともしねえ!!心操の“個性”か!?』

 心操くんに命令されたのを受けて、緑谷くんは振り向いて場外へと向かう。指令?洗脳?操作?何にせよ便利な個性だ。存在を知られていなかったり、知られていても声を変えて語りかければ、敵相手でも血を流さず捕まえられる。

「うあ」

 場外間際、ラインに差し掛かった瞬間、バキ、と言う音と、衝撃で立った風。また折った。けど、緑谷くんが正気を取り戻した。個性が解けたんだ。衝撃を与えれば解けるのかな。
 投げかけられる言葉には一切答えず、緑谷くんが心操くんににじり寄って、掴みかかる。おあつらえ向きの個性、ね。

「あ」
「あっ」

 緑谷くんが、背負い投げで心操くんを場外へ出した。最初の爆豪くん戦で見せたやつだ。

「心操くん場外!緑谷くん二回戦進出!」
「爆豪も背負い投げられてたよな」
「黙れアホ面……」

 地雷踏み抜きマンだ。うける。



「あ、緑谷くんだ」
「オツカレ!」
「隣開けてるぞ」
「オールマイト焼きあるよ」
「オールマイト焼き!?」

 オールマイト焼きへの食い付きが凄い。あれだけ普段見てるのに萎えないどころか勢い増してるの、オタクの鑑だと思う。

「オールマイトも食べてたよ」
「オールマイトも……!ってええ!?」
「はい、あーん」
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待って、緩名さん……!」

 焦りすぎでうける。緑谷くん、毎回反応が新鮮だからうれしかわいいな。

「オールマイトも、私の指から、食べました」
「オールマイトが……!」
「そう、オールマイトが。これは倣うべきなんじゃない?」
「オールマイト……!」
「懐柔されてんじゃねェクソデクァ!」

 緑谷くんが私の言葉に説得されて口を開こうとした時、隣の爆豪くんが突っ込んだ。ボムボムしている。緑谷くんも、ハッと正気に返って僕は何を……みたいな顔をしている。私、もしかして個性洗脳だった?この幼馴染、あんだけ普段険悪なのになんか仲良くない?共通の敵がいれば世界は平和になる理論か……マイク先生が言ってた。しょうがないから袋ごと向けてあげたら、嬉しそうに手に取っていた。なんとか時代のコスチュームらしい。知らん。



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