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「んぎゃ」

 乗り出していた身体を、隣から伸びてきた手に後ろに引かれて、直後。目の前に迫る、高く聳え立つ氷の壁。二回戦。速攻をしかけた瀬呂くんに対して、轟くんが作り出した物だ。ひえ〜。顔面に冷気がビシビシに当たって冷たい。ヒエ〜。

「ありがとう、爆豪くんいなかったら上半身持っていかれてた」
「ハッ、クソのろま」
「シャンクス首が……」
「シャンクス死んでんじゃねえか」

 軽口を叩けばなんと律儀に返してくれるものの、爆豪くんのステージに向ける目付きは厳しい。見上げると、スタジアムを飛び出す程に大きな氷。これ溶かすのも時間かかりそう。どんまいコールがどこからか起きていた。轟くん、こえ〜。

「轟くん、なんか……なんかなってんね」
「うん……」

 緑谷くんが相槌を打ってくれたけど、なんかなってるで伝わったんだ。僕らはいつも以心伝心だ。マブ?やっぱり、オールマイトを超えるとか、エンデヴァーとの確執とか絡みなのかな。直接話を聞かされた緑谷くんの心境は複雑と言ったところか。なーんかねえ。血は繋がってような所詮別の人間、家族なんて血縁にある他人なのに。ヒーローも面倒くさくて大変そうだ。



「そろぼち行ってきま」
「あっ、頑張ってね!」
「磨ー!応援してるよー!」
「うぁ〜い」

 上鳴くんと隣のクラスの綺麗な子の試合が終わったのを見て席を立つ。さっきよりも瞬殺だった。上鳴くん、対人に於いては強個性だけど巡り合わせが悪かったに尽きるね。クラスの子が応援してくれるのにヒラヒラと手を振った。頑張ります。
 初戦の相手は青山くん。1秒以上射出するとお腹壊しちゃう超リスキーだけど、レーザーはかなりの威力で油断は出来ない。身体能力は私の方が上かな。うん、わりと行けそう。飯田くんと発目さんの試合はかなり面白かったので、後でちゃんと見直そうと思う。発目さんかなりツボかも。さて。

「青山くんよろしくね〜」
「フフ……手加減はしないよ、マドモアゼル☆」
『立て続けに行くぜェ!第五試合!腰にベルトがあっても変身はしねェぞ!ヒーロー科青山優雅!バーサス!強化も弱体化もお手の物!その個性便利すぎねェ!?ヒーロー科緩名磨!』

 ぐぐーと伸びをして、わあわあ沸き立つ観客席に笑顔で手を振る。青山くん、ウインクしてるのか常に片目瞑ってるのか最早分かんないな。

『さァ行ってみようか!第五試合!START!!』

 スタートの合図と共に、飛んできたレーザーを避ける。強化しなくてもこれくらい捌けるような気もするけど、念には念を。

「!レーザーが……」

 青山くんの個性に弱体化。相澤先生みたいに完全に消せる訳では無いけど、おへそのベルトから出てくるレーザーは押し出されるようにぴょろっと勢いなく射出された。これはこれで使い道ありそうだね。その隙に身体能力にバフ盛りして、青山くんのおへそのベルトの一部を強めに劣化させる。全部壊したら可哀想だしね。緩んだベルトがズレて、慌てて抑える青山くん。

「アアッ、僕の大事なベルトぉ……!」
「隙あり」
「ンアアッ!」

 青山くんを軽くして、ドロップキック。軽い身体はふわっと飛んで行って、あっという間に場外へ。軽くしたから着地も痛くないはずだ。勢いだけはよかった。

「青山くん場外!二回戦進出緩名さん!」
「やった〜」

 秒でケリがついた。蹴りだけに。私の個性、見た目の変化あんまりないし、なんとなくふわっとかけてるだけだから分かりにくいよね。もうちょいアピールしたらよかったかな。とりあえず緩くピースして、舞台を降りる。

「レーザーが弱体化したぞ……」
「相手の子の身体も、吹っ飛び方おかしくなかったか?」
「恐らくバフかデバフか……何かしらしたんでしょうね」
「『バフ』の個性か……。便利だな。それに容姿も良い」
「めちゃくちゃかわいいよなあ」

 聴力にバフをかけて耳をそばだてると、ザワ……、ざわめく現役ヒーローたちの声が聞こえてくる。将来ヒーローになる!と確固として決めているわけではないが、選択肢は多い方がいい。活用出来るチャンスはなるべく活用しておきたいよね。



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