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「こんこんこん、失礼しまーす」
「おい、ノックを口で言うな。返事を待て」
「Oh!よく来たなリスナー!どうした!」
ガチャ、と実況席のドアを開ける。小言を言ってきた相澤先生と、迎え入れてくれたマイク先生が私の格好を見て一瞬言葉を止める。私の格好、仲間はずれはやだー!と駄々を捏ねて百に作ってもらったチア服だ。かわいいでしょ?
「せんせー見て見て、かわいくない?」
「お前、何でそんな格好してんだ」
「YEAH!超絶シヴィーな!」
かわいい?って聞くとかわいいかわいいとマイク先生は褒めてくれる。先生もかっこいいー!と言うとYEAH!と返ってくるのでいえー!とコーレスで遊ぶ。マイク先生、絡みやすくて面白いよね。あと声が好み。
「なんか峰田くんと上鳴くんに騙されたらしいですよ。メイドイン百」
「あいつら……」
頭を抱える先生。下心には大分悩まされているらしい。それより。
「先生かわいいって言ってー」
「あーかわいいかわいい」
「やった〜」
かわいいと言わないと私が引かないのを知っているので、超合理主義な先生はわりと適当に褒めてくれる。自分から褒めるの下手だけど求めたらくれるよね。あと声が好み。先生達声かっこいい。
「HA!この時期にここまでお前に懐いてる生徒も珍しいな」
「こいつは誰にでもこんなんだろ」
「後で三奈達に自慢しよ」
「面倒臭いことになるからやめなさい」
頭を差し出すとぐりんぐりんと包帯塗れの手が撫でてくる。これも躾けた。人目の少ないとこでしかしてくれないけど、逆にそれも怪しくない?まあ一番怪しいのは先生の風貌だけど……。
「あ、ねえ出店回ってきていい?」
「本題はそれか。本戦始まるまでに戻れよ」
「やったー!先生いちご飴買ってきたげるね」
「いらん……いちご飴?りんご飴じゃないのか」
「ジェネギャ……」
いちご飴を知らない相澤先生にマイク先生が爆笑してる。うるさい。行ってきまーす、と手を振って、実況席を出た。
「あ、オー……八木さんだ」
「おや、緩名少女……ずいぶんと買い込んだね」
「たこ焼きと、イカ焼きと、いちご飴とりんご飴とわたあめとベビーカステラとチョコバナナ!」
「ははは、賑やかだ」
両手いっぱいに食べ物を下げていると、スタジアムの入口付近にオールマイトを見つけた。たこせんは食べたかったけど個包装が難しいので見送りだ。時間に遅れると嫌なので、客席で食べることにする。
「八木さん、相澤先生のとこ行く?」
「相澤くん?特に用事はないけど、どうかしたのかい?」
「相澤先生がいちご飴知らないから買ってきたの、渡しに行くのがめんどくさい」
「はっはっは!それじゃあ、私から渡しておこう」
「わーい!ありがとうございます」
NO.1ヒーローを使いっ走りにしてしまった。すごい罰当たりな事をしてる気がする。緑谷くんに怒られそう。
「あ、そういえば、ベビーカステラ、オールマイトなんですよ」
「へえ、それは知らなかった。私の知らないグッズ、いっぱいあるからなあ……」
「緑谷くんとか、オールマイトオタクの方が詳しそ〜」
「彼は……うん!筋金入りのオタクだな」
はい、とオールマイト焼きを一つかなり背伸びしてオールマイトの口元に差し出せば、少し照れながらも食べてくれた。共食い完了。照れてるオールマイトかわいいね!オールマイトにあーんしちゃった。後で緑谷くんに自慢しとこ。
「緩名少女は緊張しないのかい?」
「トーナメント?んん〜……正直、しないかも」
「うん、緊張に強いと言うのは良い事だ!」
緊張に強いで合ってるのかは分からないけど、褒められたのでそれで良し。頑張ってね、と激励をもらって、いちご飴を託してオールマイトとバイバイした。
「うお、緩名屋台行ってきたのか」
「ちょっと買い込みすぎちゃった」
客席に戻ると、かなりの人数が戻ってきていた。レクリエーションももうそろそろ終わりそうだしね。これが終わると、セメントス先生が舞台を作っていよいよトーナメントだ。もう観客の気分満々だけど、私も出場者なんだよね。
切島くんに食べる?と聞くと、食べる!と即答。いい笑顔だ。出店のおじさん、タダも同然でいっぱいサービスくれたから、私一人じゃ普通に食べきれないので、クラスの皆に分ける。美人って得だ。神様ありがとう。
「百!わたあめ!」
「まあ!これがわたあめと言うものなのですね……!」
わたあめを食べたことがないらしい百にわたあめを渡すと、キラキラした目でふわふわを見つめていた。かわいい。ちぎってお上品に口に入れると、驚いたように口元を抑える。かわいい。ほわあ……と見守りムードが出来た。砂藤くんにもわたあめをおすそ分けする。わたあめでも個性発動できるんだろうか。
「障子くんたこ焼き好き?」
「ああ、好きだ」
「私のこと好き?」
「!」
障子くんたこ焼き好きなんだ。かわいいな。美味しいよね。ついでに聞いたら目を見開かれた。いや、ごめん。冗談です。真剣に困った表情をされて、私が申し訳なくなった。
「緩名〜障子困らせたら駄目でしょ」
「すみません、つい癖で……」
「も〜!磨すぐ私のこと好き?って聞くよね!」
「愛情に飢えてるのかも」
「俺が埋めてあげよっか」
「オイラでも」
「あ、ノーセンキューです」
瀬呂くんと三奈につんつんされる。上鳴くんと峰田くんにはノー!と掌を突きつけておいた。
「ばっくごーかっちゃん」
「ンだよ」
「見て、オールマイト焼き」
さっきオールマイトも食べてたよ。共食いしてた。そういうと微妙な顔をしながらも受け取っていた。オールマイト焼きは中にカスタードが入ってて、甘くて美味しかった。
「あ、常闇くんりんご好きだよね?」
「……ああ」
「待って!警戒されてる!もう私のこと好きか聞かないから!」
「オレハ磨チャンスキダゼ!」
「ダークシャドウくんと結婚しようかな……」
「緩名チョロすぎでしょ」
ベビベビりんご飴って言う、めっちゃちっちゃいりんご飴をサービスでもらったから常闇くんにおすそ分けした。ダークシャドウくんも喜んでた。決めた、ダークシャドウくんと結婚する。
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