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 糊の利いたブレザーは、少しだけ気が引き締まる。中学はセーラーだったから、前世ぶりのブレザーだ。鏡に写る前の自分よりもずっと綺麗な顔は、見慣れはしたが未だに自分だと言う感覚が薄い。美人は得なので、ありがたく受け入れてはいる。

「相変わらずでっか」

 合格手続きぶり3度目の雄英高校。一見すると大手のオフィスビルみたいにも見える、綺麗な校舎に見上げるほど大きな門。高校ってこんな感じだっけ?移動教室面倒くさそう。
 すでに若干迷子になりつつも自分のクラスを目指す。この個性社会、色んな見た目の人がいるからかドアまでデッカイから近付くとわりとすぐに見付かった。教室の前にはもさもさ頭の男の子。緊張するよね〜、分かる。

「おはよ。先入るね〜」
「エッ!?……あああ、はい、っ!」

 なかなか入らない男の子に挨拶して、その横を通り抜ける。挙動が怪しいけど大丈夫かな。ヒーロー目指してる人って溌剌としてる陽が多いと思ってたけど意外とそうでもないのかも。っていうか教室内うるさ。入学初日からはしゃげるの凄いな。これは陽だわ。陽なのか? インテリとヤンキーが喧嘩してるのウケるね。漫画みたい。
 窓側の一番後ろ、ひとつぽっこりはみ出た席に鞄を置いて腰かける。え?はみ出しものじゃん。私可哀想。でも窓際最後尾は学生としては最高の席だ。やったー。

「緩名磨です。よろしく〜」
「八百万百と申します。緩名さん、よろしくお願い致します」

 前の席の、ピンと背筋を張ったポニーテールの美少女に声をかけると、キリッとした表情を和らげて挨拶を返してくれた。良い子そう。あとなんかお嬢様っぽい。
流石に入学初日、いくらこれからヒーローを目指す生徒たちだとしても幾らか緊張感の漂う教室に、低い声が響いた。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 ここは、ヒーロー科だぞ。そう言い切って一息にゼリー飲料を飲み干した寝袋の不審者。少しだけ見覚えのある髭面。うわこの人担任なのかな?普通に奇行じゃん。怖いんだけど。

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

 のっそりと寝袋から立ち上がったその人。よく見れば鍛えられいて体格がいいのも分かるけれど、やっぱり一見では不審者だ。あと実技試験の相手がこの人だったからなんかやだ。

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 やっぱり担任か。あんまりよろしくしたくないなと思いながら見ていると不意に目が合った気がして、慌てて少し反らした。



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