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 ホログラムで投影されたNO.1ヒーローを見て、金のかかることするなあ、としみじみと思った。
 特別推薦枠の為、余程の事をしでかしていない限り落とされることはない。オールマイトの語りをBGMに、なんの緊張感もなく手にした合格通知に目をやった。前世の時はそれなりに必死に勉強したから、なんとも手応えのない高校受験に気が抜ける。推薦とはいえ試験がなかった訳ではないし、勉強量で言えば今世の方が上回るけれど。

「高校生か〜」

 やっとか、という気もすれば、早いような心地もする。私の進む学科は、高校卒業後すぐ働いている人が多いから、刻一刻と近付いてくる労働と言う概念が怖い。出来れば働きたくないし、不労所得で暮らしたい。地主の子どもに生まれるか宝くじ当たって悠々自適に自堕落に暮らしたい。それが無理ならせめて気楽な学生生活を過ごしたいな〜、というのは淡い夢なのかもしれない。選んだのは自分だけど。選ばざるを得なかったというか。

 生まれ変わった世界は、凡そ前の世界と同じだったけれど、前の人生にはなかった物が2つ、存在した。1つは「個性」、それからもうひとつが、そこから派生した職業、「ヒーロー」だった。
 ヒーローという存在に大した興味もなかったし、将来の職として選択肢にも入っていなかった。もう少し幼い頃に亡くなった母親はヒーローだったけれど、なんか大変そうだな、くらい。あと漫画とかアニメっぽい。オールマイトはアメコミっぽい。それぐらいしか感想がない。
 今も興味はさほどないんだけど、そんな私が名門であり高倍率、超難関校の雄英高校ヒーロー科に入学するなんて、ほんの少しだけ罪悪感がないわけでもない。わざわざ私の通う中学まで校長と名乗る二足歩行する鼠と一見不審者の教師、それから何か凄いらしい小さなおばあさんがスカウトしにやって来たので、話ぐらいはと聞いただけだ。小さなおばあさん、リカバリーガールは、個性に少し似ている所があるので、入学後手解きをしてくれるらしい。
 そして話を聞くうちに、流されるように特別推薦を受けることに。だって学費全額免除!加えて毎月半月分の食堂での昼食券!家から電車で乗り継いで40分弱。学力試験はあるが今の学力なら問題ないだろうと判断を下され、実際特に問題もなかった。祖母と2人暮らし、貧乏ではないが裕福でもない私にとって、学費の免除に食費補助は大変ありがたい。若干の渋りを見せた私に、根津校長は、卒業後の進路がヒーローでなくても構わない、とまで言っていたので、それならまあと特別推薦を受けることに決めたのだ。横にいた髭の先生は、苦い顔をしていたが。
 面接に赴いた時についでのように行われた実技試験も、ま、大丈夫だろう。というお墨付き。結果は後日と言われたが、その時点でまあ合格だろうなと予感していた。



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