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「あんなことはあったけど……なんだかんだテンション上がるなオイ!活躍して目立ちゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」

 昼休み。切島くんが燃えている。それはそれは熱く。USJの時も真っ先に飛び出していったし、情熱とパッションとやる気に満ち溢れてるよね。生命力だ。髪も赤いし。根元がほんのり黒く見えるから染めてるっぽいけど。

「体育祭かあ〜」
「磨はあんまノリ気じゃないの?」
「そういうわけじゃないけど……私、サポートの方が得意だからさ」
「あら、磨さん、体力テストで4位ではありませんでしたか?」
「まあまあまあ、そうだけどね」

 ぐでん、と机に伏したら、響香と百が小首を傾げた。体力テストは一人で出来ることだけど、体育祭は勝ち上がれば最後は毎回トーナメント、対人戦だ。運動神経が良くても、力を強く出来ても、基礎がなければ戦うのって難しいじゃん。対人格闘なんて全くやったこともないズブの素人だ。筋肉もないし特別付きにくくもある。向いてなくない?そこまで勝ち上がれるかも分かんないけど。
 うあー、と唸るとくすくす上品に笑いながら百が頭を撫でてくる。もしかしてママ?響香が呆れたように笑った。

「皆!!私!!頑張る!!」
「おおー!けどどうした、キャラがフワフワしてんぞ!」

 バッ、と拳を振り上げるお茶子ちゃんを見て、よしよし、と頷いた。よし、私も、まあそれなりに頑張る!

「尾白くんに対人戦習おっかな……」
「俺!?」

 お弁当のウインナーを飲み込んでから呟いたら、尾白くんが反応した。聞き耳か?ましらお。



「わあ、人がゴミのようだ!」
「やめなさいって」

 べし、と瀬呂くんの軽いチョップが落とされた。ここで言わなきゃどこで言う。A組の前に溢れかえる他クラスの生徒達。扉前にいるお茶子ちゃんが出れない程だ。

「何ごとだあ!!?」

 わ、猫耳の人もいる。かわいい。いいな〜。ウサギとか猫とか犬とか、かわいいよね。

「出れねーじゃん!何しに来たんだよ」
「敵情視察だろザコ」

 今日も爆豪くんはド辛辣。そんな彼は緑谷くんに「かっちゃん」って呼ばれているらしい。呼ばれ方かわいすぎてうけちゃった。腰パンなのに。

「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてえんだろ。意味ねェからどけモブ共」
「知らない人の事とりあえずモブって言うのやめなよ!!」
「爆豪くんやばすぎてうける」
「緩名もわりと同レベよ」

 瀬呂くんに突っ込まれた内容にショックを受ける。私あんな酷くないよね?口悪くないもん。

「どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
「ああ!?」

 人混みの中から、背の高めな男の子が出てきた。目の下には濃いめの隈。ダウナー系ですね。

「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、けっこういるんだ知ってた?」
「そうなの?」
「まあ、そうね……」

 コソコソと瀬呂くんが答えてくれる。そうなんだ。一般入試のこと、全く知らなかったから。

「体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって」
「へえ!がんばれ〜」
「……」
「緩名はちょっと黙ってような」
「むぐ」

 紫の男の子が表情の伺えない顔で私を見た。応援したんだけどな〜。隣から伸びてきた大きな手に口元を覆われた。焦ってやんの。

「……その逆もまた然りらしいよ」
「!」
「敵情視察?少なくとも普通科は調子のってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー……宣戦布告に来たつもり」
「?」

 ヒーロー科の定員、一般入試18人、推薦入試2人。私の特推は置いといて、合わせて1クラス20人。もし普通科から編入したって、その元いた20人は追い出されないよね?関係あるのかな〜。

「隣のB組のモンだけどよう!!」

 またなんか来た!千客万来。

「敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!エラく調子づいちゃってんなオイ!!本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」

 クレームいただきました!ありがとうございますー!喜んでー!流石ヒーロー科、それからヒーローを目指す学生たち。血の気の多い人が多くて面白い。ガツガツした雰囲気、私好きだあ。

「待てコラどうしてくれんだ!おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!!」

 無言で人波を掻き分けようとした爆豪くんに、切島くんが焦る。

「関係ねえよ……」
「はあーーー!?」
「上に上がりゃ、関係ねえ」

 確かに!爆豪くんは本当に、上しか見てない感じあるよね。向上心の塊。ストイックの鬼だ。

「そうそう!それに君たち!」

 瀬呂くんの腕をひょいと抜けて、爆豪くんの隣に並ぶ。ビシ!と指を突きつけようとしたけど、失礼だからと思い直して手のひらを向けた。なんか間抜け。

「爆豪くんは調子乗ってる訳じゃないよ!元から性格が悪いだけなんだから!生まれた瞬間からのナチュラルだよ!舐めないで!」
「てめェが一番舐めとるわボケ女ァ!」
「いたぁ!?フォローしたじゃん!なんで!?」

 頭のてっぺんをわしづかまれた。ギリギリミチミチと音が聞こえる。痛い痛い、頭割れる!爆豪くん自分の握力知ってる?ほぼゴリラだよ?か弱いかわいい女の子の頭なんてすぐかち割れるんだよ?そう言うと一層目を釣り上げた。ほぼ直角だ。顔芸器用すぎてウケる。笑いそうになったらほっぺを潰された。

「む゙ゔぅ゙ぅぐあっ」
「てめっ噛み付こうとすんな!犬か!」

 やられてばっかの私じゃない。口の前にある手に噛み付こうとしたらドン引きした様子で手を離された。ヨシ!

「ま、お互いがんばろ〜。えいえいおー」

 すたこらと去っていく爆豪くんを見送って、私達のやり取りを見て1歩引いた他クラスの生徒たちにエールを送った。いや、ガチ引きかよ。



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