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あっという間に2週間。時間が過ぎるのは歳を取るほど早い。雄英体育祭、本番当日だ。
「たこ焼き食べたかったな〜。買いに行ってもいいのかな?」
「競技の合間とかお昼休みならいいんじゃない?」
「クレープもあったよ!わたあめも!」
「えっ最高〜!後で買いに行こ!」
三奈と透と出店に思いを馳せながら、入場を待つ。今日はコスチュームじゃなくて体操服だ。公平を期すためらしいけど、コスチュームは今大幅改造中なため、超助かる。
「緑谷」
「轟くん……何?」
ワチャワチャしていたら、珍しい人が珍しい名前を呼んだ。対峙する二人に、視線を向ける。
「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」
「へ!?う、うん……」
轟くんの急なマウントに、緑谷くんもタジタジだ。喧嘩か!?
「おまえオールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが……おまえには勝つぞ」
わあ、火の玉ストレートな宣戦布告。まあ、緑谷くんがオールマイトに目をかけられてるのは、ちょっと見てれば分かっちゃうよね。轟くんもオールマイトファンなのかな。俺が来た!って言ってる姿、あんまり想像付かない。
「おお!?クラス最強が宣戦布告!?」
「急に喧嘩腰でどうした!?直前にやめろって……」
「いいぞ!やれやれー!」
「磨は煽らない」
「……仲良しごっこじゃねえんだ。何だっていいだろ」
闘争心剥き出しだなあ。必死になるのは分かるけど、そこまで追い詰められたようになるのはなんでなのかね。よっぽどオールマイト強火同担拒否推ししか勝たんなのかな。
「皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって……遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く!」
「……おお」
「……っ」
緑谷くんの宣戦布告。弱々しくてオドオドした感じが表面に出てるけど、根っこの所が真っ直ぐというか、強いよね。凄いなあ。引けを取らないように、は難しいけど。せめて並べるくらいには、私も頑張ってみよう。
『ヒーロー科!1年!!A組だろぉぉ!?』
マイク先生のマイクパフォーマンスをバックに入場する。めっちゃ人多い。スタジアムを見渡すと、最前に座っている男の人と目が合ったので、ウインクして手を振っておく。サッと頬に赤みが増していた。なんせ私、顔が良いもので。
「磨、余裕だね……」
「ん?緊張してるしてるー。響香はどなの」
「ウチ、こういうん苦手だ」
「ま、すぐ慣れるよ」
それにしても、ヒーロー科以外紹介まで適当だ。ほんとにヒーロー科がメインなんだね。
「選手宣誓!」
ピシャン!と壇上のミッドナイト先生が鞭を振るう。今年の主審らしい。18禁ヒーローはむしろ振り切っててありだと思う。
「選手代表!1-A爆豪勝己」
「え〜〜かっちゃんなの!?」
「あいつ一応入試一位通過だったからな」
「ヒーロー科の入試、な」
爆豪くん、首席なんだ。まあ優秀だもんね。才能のある人が更にストイックだと、優秀になるを体現してるなあ。
「せんせー。俺が一位になる」
「絶対やると思った!!」
「あはははは爆豪くんえっぐ!さいこー!」
ブーイングが湧き上がる中、込み上げてくる笑いを耐えずに拍手する。清々しいほど自信家だし、それを裏付けするだけの実力もあるんだろう。あー、体育祭、めちゃくちゃ楽しみになってきた。せめて跳ねの良い踏み台になってくれ、と首を落とす仕草をする。いやー、面白いな。めちゃくちゃ好きだわ。
爆豪くんが戻ってきたところで、早速第一種目の発表があるらしい。早速?まあ妥当。
「さて運命の第一種目!今年は……コレ!!」
バン!とルーレットが止まったのは、『障害物競走』。ここで結構振り分けられると思うけど、さてどうなるか。
みっちみちのゲートに詰められて、スタートを待つ。運良く真ん中より前の方に位置したけど、人が多すぎる。もうこの段階から篩にかけられるんだろうな。コースさえ守れば何をしてもいいらしい。非常に雄英らしいルールだ。スタートランプが、点灯していく。身体と両足に個性をかけて、準備した。
「スターーーート!」
合図と共に飛び上がって、人を踏み台に跳ねていく。めっちゃ軽くしてるからそんな重くないとは思う!ごめん!スタートゲートを跳び出す頃に、パキパキと地面が凍りついて、足まで凍らされて身動きの取れない人達が立ち止まった。轟くんだ。私の足場は人なのであんまり関係はない。クラスの皆は、誰一人凍らされずに飛び出して来た。よしよし!
「わあ、でっかいロボ」
「入試の仮装敵!?」
峰田くんが吹っ飛ばされたロボットは、どうやら一般入試の内容らしい。へえ、一般入試ってそんなことしたんだ。
『さぁいきなり障害物だ!!まずは手始め……第一関門、ロボ・インフェルノ!』
でっかいのいっぱいだ〜。お金って感じ。みっちみちに詰まってる。
さっきと同じように轟くんがロボを凍らせて倒した。不安定な体勢で凍らされたせいで、その下を通り抜けようとした生徒の方へと倒れてくる。危ないことするな!もう!
『1-A轟!攻略と妨害を一度に!こいつぁシヴィー!!』
喋るロボット、口が悪くてかわいい。雄英の遊び心いいよね。一台くらい持って帰りたい。
ボムボム音を立てて爆豪くんが上から突破して行くのを見て、私もロボットに手を触れた。ロボに対して『劣化』を発動させる。
『A組緩名!触れただけでロボットを攻略ー!?どうなってんだありゃ!』
『ロボに対してデバフをかけたな。繊細な機械は直ぐショートするから、あいつには相性が良い』
バチン、と音を立てて、動きの悪くなったロボット。そう、私、機械なら壊すの簡単なんだよね!直すのは無理だけど。強化しても直りはしないし。ぽん、ぽん、と触れながら走り抜ける。ショートさせただけだから直しやすいし、雄英の経費のこともちゃんと考えてる優しい私なのであった。
『ファンサービスも抜かりねぇ!』
『何余裕噛ましてんだあいつ……』
寄ってきたカメラにピースピースしてると、第二関門にが見えてきた。余裕かましてる訳じゃないよ。ファンサービス、大事でしょ!
『オイオイ第一関門チョロいってよ!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォール!!』
これ、普通にリタイアする子多いんじゃない?底は……ネットが張って安全対策はしてるけど、まあ怖い。前世の私なら早々にリタイアしてた。ま、これもわりと行ける。
「よーいしょ!」
体重を出来るだけ軽く、足を強化して跳躍力をアップ。軽く助走を付けて、穴ぼこに浮かぶ島をぴょん、ぴょん、と跳び渡る。なんか今日、跳んでばっかなんだけど。跳躍とか飛翔個性だと超有利だね。ああ〜、風とかにも個性使えないかなあ。
『緩名、ウサギみてえに跳ねて渡る!』
なんてアナウンスされたので、これはもうやるしかない、と両手を頭にかざしてウサギの耳を作った。やっといてなんだけど、ちょっと恥ずかしかった。
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