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色々と波乱のあった翌日は臨時休校だった。まあそりゃそうなるよね。保健室で寝すぎてリカバリーガールに叩き起され、安全のためにと先生に家まで送ってもらった私は、身体に残る倦怠感を払拭する為に昼まで寝た。寝すぎて逆にだるかった。
「皆ーー!朝のHRが始まる!席につけーー!!」
「ついてるよついてねーのお前だけだよ」
「磨さん、大丈夫でしたか?」
「うん。寝すぎてねむいくらい」
飯田くんめちゃくちゃ元気だな。元気にから回ってる。前に座る百と話していると、ガラッと教室の扉が開いた。臨時の先生とか来るのかな。
「お早う」
「相澤先生復帰早えええ!!!」
「ミイラ男だ」
入ってきたその姿に、目を丸くする。全身包帯だらけ。いやあ、重傷すぎるでしょ。歩く足取りもヨロけておぼついてない。顔面までぐるぐるに包帯が巻かれているから、前も見えにくそう。ご飯とかトイレとかどうするんだろ。
「俺の安否はどうでもいい。なによりまだ戦いは終わってねぇ」
「!?」
「戦い?」
「まさか」
「まだ敵がーー!!?」
先生の意味深な発言に、教室内が不穏な空気に包まれる。
「雄英体育祭が迫ってる!」
「クソ学校っぽいの来たあああ!!」
体育祭、体育祭か……。運動はわりと得意だけど、この学校の体育祭は普通じゃない。ヒーローに疎くとも、毎年テレビで放送されて異様に盛り上がっているから、だいたい知ってる。ちゃんと見たことはないけど。
「待って待って!敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
確かに。当然の疑問だ。侵入経路とか、もう判明したのかな?対策も取れる的な。警備が例年の5倍らしい。この体育祭だけでまた半端ない金額が動きそうだなあ。お金のことばっかりって?生きていく上でお金は大事なので。
「何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。敵ごときで中止にしていい催しじゃねえ」
「いやそこは中止にしよう?」
チャンス?
「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した……。そして日本に於いて今、「かつてのオリンピック」に代わるのが雄英体育祭だ!」
そういえば、そう。この世界にはオリンピックがある。もうほぼ風前の灯というか、死んだイベントって感じになっているけど。前世では、オリンピックはバンバン開催していたし、それなりに、めちゃくちゃ大きく盛り上がっていた。考えても仕方ないし、知ったところでだから何?になってしまうからあんまり考えなかったけれど、この世界は、私の生きていた世界の未来なのか、はたまたパラレルワールド的なのの、どっちなんだろう。未来だとしたら、探せば前世の私の戸籍とかあるのかな。死因、全然覚えてないけど、判明したり?まあ、今更どうでもいい。
「当然全国のトップヒーローも見ますのよ。スカウト目的でね!」
「はあ〜スカウトかあ」
「卒業後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」
「そっから独立しそびれて万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」
普通に私もそうなりそう。サイドキック、めちゃくちゃ向いてない?なにせ支援特化なもので。独立とか経費とか事務作業とか代表仕事とか諸々しなきゃ駄目っぽいんでしょ?世間話程度にだけど、雄英の保険医にでもなるかい?HAHAHAなんて鼠校長にも誘われてるし。
「時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓ける訳だ。年に一回……計三回だけのチャンス、ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」
なるほど。なんとなく皆がキリッとしたのを感じ取って、私も少しだけ背筋を伸ばした。
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