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 あの後の三奈とのお泊まり会では、それはもう根掘り葉掘り聞かれて……話すことで、自分の感情も整理出来た。今のところ、恋人彼氏彼女にあたる存在を作るつもりはないし、誰かにそういう感情を抱いてもいない! そりゃあさ? 轟くんみたいなイケメンが親密な態度取ってきたらすぐトキメキもするし、他の誰のも食べないのに私が作ったチョコだけ食べて行った爆豪くんにもドキドキはしたし、相澤先生のがさついた指が頬に触れる痛みにもちょっと心がむずむずしたり、する! 心操くんみたいな、あんなダウナーで、一生懸命な男の子にあんな告白されたら……あんな、あんなね!? なるじゃん! と三奈に話せば逆ギレぇ! と笑いながら抱き着かれた。そう。まあ、とにかく、そういうわけなのだ。状況整理終わり。

「緩名、またチョコか?」
「事務所の人たちにかな?」
「そ!」
「糖尿目指してンか」
「事務所あてのですぅ〜私は食べませんん〜」

 インターンの休憩時間、学校の課題を黙々と進めてる途中に紙袋に詰めてきたチョコレートを取りに行くと、袋の中身を覗いてきた三人が三者三葉に口を開く。爆豪くんにはケツアタックをしておいた。

「手作りか?」
「いや、既製品! ……あ、バーニンさ〜ん」

 流石にね。既製品だ。渡しそびれた時怖いし。タイミングよく休憩室を通りがかったバーニンさんを呼び止めると、んお、なんて声を上げて立ち止まった。

「はいっ、私からのチョコでぇす」

 小さなボックスを両手で持って、語尾にハートでも付く勢いでかわいく差し出すと、バーニンさんは微妙〜な顔をした。なんでやねん。

「おー……アリガト」
「え、なんで微妙な反応なの」
「同性からブリブリされてもこうなるでしょ」
「そ? ……異性からぶりっ子される方がやじゃな〜い?」
「そりゃそうだ」

 萌たゃはぶりっ子属性が苦手。知ってた速報。まあしっかり受け取ってくれたのでよしとしよう。

「磨なら手作りかと思ってた」
「あ〜、ねえ。手作り、流石に抵抗ある人多いかなあって」
「ウチの男どもがそんな繊細かァ……?」

 バーニンさんの片眉がくいっと上がる。いやまあ、そこらへんは人によるでしょうし。万が一食中毒とかあったらやだし。なんて思っていると、後ろから少々間伸びした声が聞こえてきた。

「俺は手作り嬉しいよォ」
「ゲ」
「あ、キドウさんおかえりなさ〜い」
「はいただいま」

 宿直上がり前のパトロール終わりで、いつもよりちょっぴりくたびれたキドウさんにもはい、とチョコを渡す。笑顔で(見えないけど)受け取ってくれた。やっぱり優おじ。

「じゃあ来年は手作り持ってきちゃおっかなあ」

 なんて気が早いけれど。手作りの方が手間はかかるけどコストが浮く! 量産すればラッピングがめんどいだけで楽だし、プロヒーローたちからのお返しも期待できる。それとなく欲しいものリスト事務所に貼っておこうかな。いや流石に冗談だけども。

「そりゃァ楽しみだ」
「ハ〜……気ぃ早ッ!」
「たしかに」

 バーニンさんが笑う通り、たしかに気の早い話だ。来年のことを言えば鬼に笑われてしまう。赤いハート型の小箱を開けて、バーニンさんは中のチョコを摘み上げる。一応全部リキュール不使用のものを選んだけど、来年はもうちょっと凝ってもいいかも。

「ホワイトデーはよろしくお願いしまぁす」
「……返却アリ?」
「後輩の気持ちを踏みにじるなんて正気スか?」
「クソ生意気〜!」
「ひあははは」

 ごくん、とチョコを飲み込んだバーニンさんに首元を持たれて固められてしまった。じゃれ合い。んじゃ俺からはこれをあげよう、なんてキドウさんに飴を貰った。……まさかホワイトデーこれでチャラとかじゃないよね? じいっ、とバーニンさんと一緒に猫目になって見つめると、慌てながらイヤ、イヤ、違うから、と焦っていた。かわいい。

「冗談冗談、お返しとか全然大丈夫ですから」
「磨が言うと冗談に聞こえないな!」
「その分エンデヴァーさんからガッポリ貰うんで」
「最近の学生恐ろしいな……」

 冗談、本当に冗談だ。あわよくば程度だし、実際しっかり返されたらちょっと焦る。胸を撫で下ろしたキドウさんが、さっきまで進めていた私のテキストを見下ろした。

「うーわ、これ高一だっけ」
「どれどれ? ……こんなんやった記憶ねェよ俺」

 チョコに釣られてやってきたサイドキックのみなさんまでが課題を進める轟くんたちの元へ集り始める。バレンタインが開ければ、もう学年末試験も近い。赤点なんて取っていられないので、インターンの隙間にもね、お勉強だ。成績落としたらインターンの参加日数も削られる可能性が高いので、しっかりこなさないとなのである。学校の勉強に、病院でのインターンで教わったことの復習。この身体の頭脳が優れていたからまだ耐えられているけれど、前世の私だったら潰れてるかもしんない。

「あ、そうだ、ここ結局わかった?」
「いや、解けなかった」
「さっきA組のグループで共有したから、八百万さんや飯田くんが見てくれれば……と思って」
「あ〜ね?」
「趣味問多すぎンだわコイツ」
「んね〜、むずすぎ」

 エクトプラズム先生の趣味に偏った問題が、今回はなかなか手強かった。理系に強い爆豪くんも、満遍なく賢い轟くんと緑谷くんもいるのに勝てない。もはや飛ばしていいとは思うんだけど、ヒーローって負けず嫌いだからさ。解けるものなら解きたいよねえ? 私はわりと早々に投げ出した。

「ねー、バーニンさんこれわかる?」
「どれ、………………」
「……」
「……分からん!」
「沈黙長かったねえ」

 他のサイドキックの人たちにも目がそらされる。そこまで期待はしてなかったけれども、助けの手はなかったみたいだ。知ってた。脳筋ってわけじゃないし、トップ事務所のヒーローたちは日々頭使っているけれど、数年前に習った数学の応用問題なんて解ける方がびっくりするもんねえ。ドキドキ☆エンデヴァー事務所抜き打ちテスト〜!なんてあったりしないかな。……しないか。芸能人じゃないんだから。でもやってみてほし〜。

「ビアンカちゃんって意外と雄英生だよなあ」
「意外とってなに!」
「インターン組で一番誰かしこい?」

 バーニンさんやキドウさんが仕事に戻っていっても、入れ替わり立ち代わりでサイドキックの人たちが寄ってくる。すっごい高校生みたいな質問されてしまった。

「総合順位なら……爆豪くん?」
「え! マジかよ意外」
「いやでもバクゴー事務書類意外と丁寧だもんな」
「誰が意外だ! ァア!?」
「凄んでる凄んでる」

 凄んでるけど睨みつける猫ちゃんみたいな扱いされてる。NO.1ヒーローの事務所は、ヒーロー以外の職員も強いから爆豪くんも私も猫ちゃんみたいなもんだ。

「いうても団子だよ、みんな賢いもん。私も」
「ハァ〜ア、意外だ……」
「だから意外とってなに!?」

 喧嘩売ってる? と頬を膨らませてサイドキックの人を見上げたら、赤くなった顔にギュンと皺を寄せていた。……ちょっと人に見せられないお顔になってる。
 超難問はエンデヴァーさんが解いてくれた。意外!



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