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「ねえ、お餅入れたい」
「最高!」

 というわけで、じゃれついてきていた三奈を引き連れてキッチンへ。お正月の角餅が手付かずのものがたくさんあるので、なんかまあ……適当にいっぱい切っていこう。あ、硬い。

「思ったより硬いんだけど」
「ね、私たちみたいなか弱い乙女には無理だわ。……切島くーん!」
「お、どしたー?」
「ちょっと手伝ってー」
「イイゼ!」

 素直に力自慢を借りることにする。一番近かった切島くんを呼ぶと、素直に寄ってきてくれた。よしよし、グッボーイだ。

「なんか適当に、八等分とか六等分とかに切ってー」
「大きさバラバラでもいいのか?」
「ん、いいよ、適当で」
「任せろ!」

 そろそろ〆もいきたいところだ。う〜ん……米か麺。どっちがいい? と聞くと三奈が麺、切島くんが米で割れた。どっちでもいいんだけど、うーん……。迷った時は、と二人でジャンケンしてもらう。三奈の勝ち。麺で。

「〆麺でいいでしょー?」
「うぇーい!」
「なんでもいいぜー!」
「手伝うぞ」
「茹でるだけだし大丈夫〜」

 障子くんがお手伝いに立ってくれたけど、言うても先に軽く茹でるだけだ。切島くんが切ったお餅第一陣を持って行ってもらった。

「そんな切る?」
「まああったらあったで食べるでしょ」
「よし、切島全部いっちゃえー!」
「オウ!」

 三奈が煽って、結局切島くんは一袋丸ごと餅を切った。うーん、まあ、余ったら揚げ餅にでもするか。鍋後はB組も合流予定だし。

「麺入れまぁす」
「サンキュー!」
「ちょっと蓋して煮てね〜」

 ドパパ、と湯掻いた麺を三つの鍋に投入していった。〆、食べない人もいるじゃん。といっても、食べ盛りのヒーローの卵たちはみんな食べるみたいだけど。この後デザートもあるのに。
 それぞれ移動して席が変わっているので、ちょっとさまよって一人餅フェスティバル開催中のお茶子ちゃんの隣に座った。

「お餅おいし〜」
「麺もおいし〜」

 ふう、とひと息つく。磨ちゃんのも入れるで、と言われたので、餅マスターにお願いする。お鍋のお餅はすぐ溶けて行方不明になるけど、お茶子ちゃんに任せてたらめちゃくちゃいいタイミングでお皿に入れてくれるんだよねえ。



 そろそろ鍋パもたけなわ。食べ終えた子たちが片付けをしてくれている時に、ポケットに入れたスマホが震えた。スマホを見ると、一佳から「そろそろそっち向かうな」と来ていた。

「一佳たち来るってー」
「お!」
「ちゃっちゃと片付けちまうかー」
「あ、お餅余ってもうた……」
「ああ、じゃあ揚げちゃお揚げちゃお」
「磨ちゃん大好き!」

 大好きいただきました。お茶子ちゃんがルンルンで切りすぎて余ったお餅を持ってくるので、後片付け組がお皿を洗ってる横で水分を切った餅をちゃっちゃか揚げていく。爆発注意。テーブルの上を綺麗に片付けて、手持ち無沙汰になったらしいお茶子ちゃんと、調理の様子が気になるらしい猫みたいな轟くんが私の両肩を占拠した。跳ねるから気を付けてね、というと両肩でああ、うん、と頷く。ちょっとかわいいな。

「……緩名たまに母ちゃんみてェだよな」
「デカイ子持ちのな」
「誰が母だ」
「おもち……」
「ケロ、お茶子ちゃん眠そうね」
「B組来たよー!!」

 どうやら満腹で暖かくなったお茶子ちゃんは眠たくなっているみたいだ。通りでちょっと幼児帰りしてると思った。揚げ餅が集合体で若干気持ち悪くなってきたところで、B組の来訪が告げられた。唯ちゃんが小さくしたソファを、レイちゃんが浮かして運んでいる。便利すぎない?

「よっ、磨」
「おばんどす〜」
「なにしてんの?」
「餅揚げてる」
「子連れで?」
「や、だから母じゃないんよ」

 揚げた餅をバットに移して、油を切る。切奈と一佳がカウンター越しに覗き込んで来たので、菜箸で摘んだ揚げたての餅を一つ差し出した。あっつあつだよ。差し出された餅を見て、切奈が物間ー、と物間くんを呼んだ。お茶子ちゃんと轟くんは私から離れて、お皿やコップの準備を手伝っている。子どもの独り立ちって早いんだなあ……。

「なんだい?」
「はい、あー」
「……ハァ!? まさかだけど君それを食べさせようとしてるわけじゃないよねェ!? 来て早々ちょっともてなしがなってないんじゃ、」
「えい」
「アッツ」
「やると思った」
「ウケる!」

 物間くんのいつもの発作が始まりそうだったので、とりま突っ込んでみた。軽く塩振っただけだけど、それなりに美味しいはず。揚げ出しにしてもよかったけど、それだと爪楊枝でつまめないしね。手軽さ重視だ。物間くんは口を手で抑えて、はふはふとしながら必死の顔をしている。ウケた。

「あ、うま」
「おかきより手前のサクフワで、お餅のトロトロも残ってて塩味がおいしい!」
「麗日って食レポタイプなん?」
「いや、餅限定」

 いくつかに爪楊枝を刺すと、女の子たちがかっさらっていく。私も一つ味見。……うん、熱いけど美味しいわ。お皿に盛るのもめんどくさいし、そこまで凝らなくてもまあいいでしょ、ってことで、バットのまま轟くんに託す。

「緩名、俺も」
「ん? おたべ〜」
「ん。……あ」

 好きに食べればいいがな、とバットの上のひとつに爪楊枝を突き刺すと、轟くんがバットを持ったまま私の前にかがんだ。あ、と小さな口を開いて、待ちの姿勢だ。食べさせろってことか。俺もってそっち?

「熱いよ〜」
「ああ」

 一応フーフーして、轟くんの口に放り込む。満足したのか、轟くんは少しだけ眉尻を下げてみんなの輪に戻って行った。切奈と一佳が、面白そうにニヤついた視線を投げてくる。

「は〜ん」
「なるほどぉ?」
「今日はその手の話散々したから店仕舞いで〜す」
「えー」

 もう今日は恋バナ系、いい。お腹いっぱいだ。人の聞くなら全然いいけど。二人を追い払って、ついでに無言になってる物間くんも連行のため背中を押した。未だに静かだけど、この人衝撃に弱くない?

「……普通人の口に突っ込むかい?」
「物間くんうるさいからさあ」
「うるさくありませんけどォ!?」
「森久保ォ!」
「いや誰だい」

 ォ! って言ったら森久保だろうがよ。吹出くんならわかってくれるけど物間くんには通じなかったようだ。やれやれ、と半目になって見つめると露骨にイラッとされる。物間くんってめちゃくちゃ単純だよね。上鳴くんとは違うベクトルで扱いやすいわ。はいはい、と背中を押して、ソファの密集地帯へ案内する。……唯ちゃんが持ってきてくれたのはありがたいけど、ソファありすぎてわけわからんくなってるな。微妙に足りてないし。セロ上の間に吹出くんを見つけたので、爆豪くんの隣に物間くんを押し込めて、吹出くんの足元に座った。直ラグ。

「ちょっと、よりにもよってここかい?」
「ア゛ァ!?」
「ちょいちょい、秒で地雷作り出すじゃんおまえ」
「吹出くん元気〜?」
「元気〜!」
「聞いてないな?」

 爆豪くんと物間くん、控えめに言って相性最悪だもんね。破局カップルレベルだ。当然文句が吹き出すけれど、基本スルーの方針で行こうと思う。親睦会だし? 切島くんとか泡瀬くんが宥めてくれるでしょ。The人任せ〜。

「ていうか緩名さんバズってたじゃん! ミルビア!」
「うわでたー」
「ニュースサイトであれ見た時ビビったよな」
「万バズおめでと」
「ありがと〜なんかくれ」
「露骨にたかるじゃん」

 お祝いされたからたからねばと思って……。あの写真の顔、自分的にはちょっと流石に照れるから掘り返されたくないんだけど、まあそりゃ話題にはあがるよね。吹出くんの膝にもたれかかると、ポニーちゃんが隣のソファから乗り出してきて私も見ました! とニコニコの笑顔だ。うっ、邪気が祓われる。

「っていうかなんなんあの顔」
「トロ顔きまし」
「俺らといる時あんなかわいい顔しねぇじゃん、な」
「……は? 私はいつもかわいいが?」
「うーわ揚げ足取り!」

 取られる足を揚げた上鳴くんの膝にチョップ。私はいつでもかわいいのである。

「だってミルコかっこいいじゃん。好きじゃん」
「好きだけども」
「緩名の好みはミルコかー?」
「まあ正直顔もめちゃくちゃ好き」

 勝気な美人なんてみんな好きでしょ。遠くで峰田くんが肯定するようにウンウン頷いていた。あの人はあの写真をズリネタ報告してきたからしばらく口を聞きたくないけども。最悪すぎる。
 ラグの上だと少し座り心地がおかしくて、膝を抱えてもじもじと調整すると、唯ちゃんがお菓子のお皿を持って隣に座る。

「ん」
「わあい! あ〜ん」

 細い指に摘まれたハッピーターンに喜んで口を開ける。うわ、久しぶりに食べるとやっぱり美味しい。お菓子のチョイス、クラスで微妙に違いが出るよね。足を崩して、隣の唯ちゃんの肩に頭を預ける。今度は年々面積が小さくなっているカントリーマアムを差し出されて咀嚼する。三奈のピンクがかった金の瞳孔がギュウウウ、と細くなって険しい視線を送ってくるけれどそっと見ないふり。どこのガチ恋粘着獣だあんたは。

「ミルコが好みっつーか」
「美人に弱い?」
「それだ」
「まァ? 小大は美形揃いのうちのクラスの中でもとりわけ整っているからね!」
「急にイキイキしだしたぜこいつ」
「美形でいったらA組も負けてねェぜ!」

 なにやら他人の褌で争い出した外野がうるさいけど、唯ちゃんといっぱいイチャイチャした。



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