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『去ねヤ人類! 俺タチがこの世界のスカイネットだ!』
「スカイネットて」

 青山くんから飛び出すレーザーが、剣のように鞭のようにしなってなかなか物騒な発言をする訓練用ロボたちに突き刺さっていく。微妙にシャレにならん発言するんだよね、雄英のロボって。オールマイトにもらったわたがしをちぎって食べながら、インターンの成果発表会だ。透がレーザーの光を曲げて、三奈がドパッとロボたちを溶かしていく。改めて思うけど光も酸もかなり怖いよね。光とか悪魔の実だったら最強格じゃん。

「こーんな」
「感じでーす」

 意気揚々と成果を見せつける三奈と透、それから副反応を食らってる青山くんにパチパチと手を叩いた。三奈が踊るように酸を振り払ってるけど、地面がちょっと溶けてる。こええ。アシッドマンは切島くんからパチッたらしい。へえ〜。

「わたがし飽きてきた、あげる」
「いやいらねー?」
「人に食いさし渡すなや」

 半分ほど減ったわたがしを瀬呂くんに押し付けようとすると、爆豪くんにゴツンと拳で頭を打たれた。指曲げた固いとこで。地味痛シリーズだ。瀬呂くんはヘルメットしてるからいらね、って断ってくるから、仕方ないのでちぎっては爆豪くんの口に放り込むことにする。いらねェ! ってキレつつも口に入れられたら食べるところ、お行儀いいよね、爆豪くん。

「この調子で各々、インターンの経過を見せてくれ!」

 その言葉を合図に、次の組み合わせに移った。



「アシッドマン触ったらどうなる?」
「んー、溶ける!」
「だって爆豪くん、ジュワッてしてみて」
「アホか溶けるわ」
「ぐえっ」

 それぞれのレベルアップを見ながら、戻ってきた三奈の口に最後のわたがし一掴みを放り込んだ。余り物〜、と言いながら膨らむピンクの頬をむにむに。余り物には福があるんだい。
 三奈の酸、ロボをも溶かす強酸だし、まあそりゃ人間程度溶けるよねえ。戯れにヘッドロックをかけてくる爆豪くんの腕にギブギブ、とタップをすると、少しだけ力が弱まったものの、回された腕はそのまま少し下がっただけだ。肩にだらりと乗せられた爆豪くんの腕は、安全対策で今は籠手が外されていた。……なんかね、最近爆豪くんのボディタッチが増えた気がしてる。インターン一緒だったからかもしれん。ワンチャン私で暖とってる。まあ特に気にする間柄でもないので、そのまま爆豪くんの方へ体重をかけた。

「重ェ」
「はい絶対嘘」

 この私が重たいはずもない。虚言乙。非難を込めて見上げると、赤い瞳が見下ろしてくる。やるならやるぞ。代打はわたがしのベトベトと戦って珍しく険しい顔をしている轟くんだ。洗って来なさい。わたがし人生初なんか? 轟くんから視線を戻して、再び無言のまま爆豪くんを見上げたら、いい加減視線がうざくでもなったのか頬を掴まれて前を向かせられた。首痛〜。

「前見ろ」
「うーい」

 転換時間だったからよそ見していられたけど、前を向いたらちょうど切島くんがロボと対峙していた。防御力がさらに上がっている。爆豪くん曰く、「倒れねーってのはクソ強ェだろ」らしい。たしかに、耐久パの攻略はなかなか骨が折れるもんなあ。切島くんとのコンビネーション、傷付く先から治していく無限ゾンビアタックが出来そうだ。籠城向きだから使い所は難しいけど。
 切島くんにパチパチと拍手を送って、次の組。お茶子ちゃんと梅雨ちゃんを見ていると、あ。

「被った」

 お茶子ちゃんのリストバンドから伸びたワイヤーを見て、見事にダダかぶりだ。ま、そういうこともある。



 爆豪くん、轟くん、緑谷くんの三人よりも、少し後ろに立ち、ポジションに着く。今日は事務所毎ではあるが、個々の成果報告でもあるので、三人にはなにもしない。バフかけちゃったら分かりにくいからね。私たちだけ四人で多いからか、さっきまでの面々よりもちょっと……いや、かなり、ロボの量が多い。これ壊すの背徳感あるな。金のにおいがするもん。アニスちゃんの秘奥義か?

『ヒーラー死すベシ!』
「物騒じゃない!?」

 景気良く破壊活動に勤しむツートップの二人とは違って、私は経済のことも考えられる優しい子なので、呪詛を吐きながら飛びかかってくるロボたちに、劣化のデバフとスピードを遅くするデバフをかけた。ぷすん、と小さな音を立てて、機能を停止し、緩慢に地面に落下していくロボットたち。……慣性の法則とかマジでどうなってんだろ。底上げと、同時発動。学んだことは発揮できているけれど、ド派手な戦闘向きの人たちに比べたら普通に地味だ。いいもん。
 大量の鉄の塊に囲まれていて辺りの様子を伺えないので、飛び上がってデバフでショートし、動かなくなったロボたちを踏み台にする。まだ撃ち漏らしが数匹いたようだ。動作の遅い子たちなのかな。ロボにも個体差あんの? 頭上斜め上には、緑谷くんの黒鞭の塊が見えた。う〜ん。派手。デーハードヤドヤクロムチや。

『セめて……弱ソウな奴だけでモ……』
「ド失礼」

 ボロボロのロボが、なんともまあ失礼なコトを吐きながら向かってくる。黒鞭の活用法、いいな。さっきのお茶子ちゃんに触発されたのもあるので、真似っ子だ。軽量化のバフを掛けたロボに、リストバンドから伸ばしたワイヤーを引っ掛けた。

「アッ」
「ダダかぶりや……!」

 そのまま飛び上がって、ぐるんとロボを打ち上げて地面に叩きつけた。なるほどね、地面にぶつける寸前に軽量化を解くのか。うーん、お茶子ちゃんならコスパがいいけど、私がするなら微妙にコスパが悪い感じある。こういう機械相手なら普通にデバフかける方がいいな。ドカン、と小爆発を起こしたロボから目を離して、すたっと綺麗に着地した。10点。

「磨、麗日とダダかぶりじゃん!」
「んーにゃ、今私がパクっただけ。ワイヤーは被ったけど」
「ああ、確かにあまり緩名らしくなかったな」
「え、そう?」

 三奈に指摘されるけど、今の使い方はパクリのパクリのパクリくらいだ。あと多分もうしない。手数は多い方がいいから、一応の確認だ。とはいえ、私らしくない、とはなんだろう。障子くんの言葉に首を傾げると、跳ねているぞ、と障子くんの手が頭に触れて、そのまま数度髪を梳かした。跳ねてたみたいだ。

「緩名は最小限の力で効率良く回していることが多い印象だ」
「あ、わかる」
「それなー」
「はあん、ほどなる……?」

 確かに言われみればそうかもしれない。無駄が嫌い、とかではないけど、あんまりコストが嵩むことはしてないかも。そもそもが武闘派じゃないからっていうのもある。わかるようなわかんないような。微妙によく分かっていない私を見てか、上鳴くんが補足するようになんつーか緩名って、と声を上げた。

「カントリーマアムみたいなやつだよな」
「ハ?」
「なに言ってんの?」
「意味わからん」

 全然補足じゃなかった。どういうこっちゃ。




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