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 年明け初日からインターンに明け暮れていた冬休みはあっという間に終わって、本日、ちょっと久しぶりの登校日だ。泊まりに来た三奈にミルコのこととか、轟くんのこととか、はぐらかしながらも根掘り葉掘り聞かれたせいで若干まだ眠い。はぐらかしながら、って言いつつもデコチューまではしっかり追求されたし。まあ元から相談するつもりだったからそれはいいとして、三奈のそのままボルテージ上がり続けて気絶するんじゃないかってくらいのハイテンションにはちょっと引いたけど。しかも覚醒は三奈からの熱すぎる抱擁だ。ヒーロー科女子の中でも抜群の身体能力を誇る三奈の腕に抱き殺されるかと思った。そのままじゃれて朝から二人でストレッチをしたので、身体の方は温まってるけども。なんせ今日は始業式も通常授業もすっ飛ばして、インターンの実践報告会だ。実技授業オンリー。そのため、通常の授業よりは始業がちょっとだけ遅い。だから三奈も泊まりに来て話せたみたいなとこある。とはいえ、A組はみんな真面目だ。私と三奈の用意が終わって共有スペースに降りた頃には、もう既にほとんどの生徒が登校していた。

「おー、緩名、芦戸、はよ」
「おはよん」
「切島たち遅くなーい? 寝坊?」
「いやお前らに言われたかねーからな?」

 ちょうど登校しようとしていた切島くん、上鳴くん、瀬呂くん、爆豪くんのおなじみメンツと鉢合う。仲良しねあなたたち。どうやら私たちで最後のみたいだ。まあ朝ごはん食べに来た時に既に準備終わってる子多かったし。いうても全然余裕で、なんならちょっと早めに着くくらいの時間だ。

「今日もそれなん?」
「んー、ぬくい……」

 昨日貰ったフリースを、今日も制服の上から被っている。長い襟を引っ張ると口元まで隠れるからマフラーいらずだ。轟くんのものだからか、三奈の視線がもうまりもっこりレベルのニヤつきになってる。女子の顔か? トントン、とつま先を蹴ってローファーを履いて寮を出たら、爆豪くんに持っていたコスのケースをひったくられた。

「ん、どしたん爆豪く……え、あっまたっ、……あ゙あ〜」

 なんだなんだ、と思えばまた萌え袖をギュッと結ばれる。なんで? このままだと伸び伸びになってしまう。昨日よりはまだ結び目は緩かったようで、ぶんぶん振っていたらなんとか綻びが出てきたから、三奈にあー、とお願いする。そんままでよくない? じゃないんよ。危ないだろ!

「また結ばれてやんの」
「かっちゃんこれお嫌いー?」
「ダラダラしてうぜェだろが」
「えー、磨の萌え袖いつもじゃない?」
「な」
「そうだぞ〜! いつも萌え袖だし」
「ハッ、いつもうぜェわ」
「ひど! 悪口!」

 多少のあざとさはむしろスパイスだろ! 結局三奈じゃなくて瀬呂くんが解いてくれた腕を、隣の三奈に絡ませると、爆豪くんがまた鼻で笑った。つまむぞ。



「明けましておめでとう諸君!」

 教壇に立ち、身振り手振りがより進化した飯田くんが本日も進行だ。百が隣でお淑やかに頭を下げる様は、なんかお正月番組っぽくてこれはこれでいい。一人はみごのようで悲しかったから百の席に座って、前の席の峰田くんの頭に拾ってきたお花を差し込んで飾りながら、飯田くんを見守った。

「今日の授業は実践報告会だ! 冬休みの間に得た成果・課題などを共有する。さぁ皆、スーツを纏いグラウンドαへ!」

 飯田くんが言い終え、スーツケースを手に立ち上がった瞬間、ガラッと扉を明けて先生が入ってきた。今日も顔色が悪〜い。今日は空回りしてねー、なんて上鳴くんの台詞に速攻で空回っていく飯田くん。あまりにもフラグ回収が早すぎて雑だ。おもしれー男。A組ナンバーワンおもしれー男の姿を目を丸くして見ている先生に、あけおめ、と昨日言いそびれた挨拶をして横を通ろうとすると、緩名、と軽く引き止められた。

「ん?」
「寒いならせめてジャージにしとけ」
「はあい」

 昨日は敷地内とはいえ学校外だったし、流石に今日はなんか言われるかな、と思ったけれど、なんかやんわ〜りと許可されているようないないような感じだ。服装面では雄英、緩くてよかった。

「あと、峰田を花畑にすんな」
「……かわいいでしょ〜」
「ったく……」

 峰田くんは女子からいじられて幸せそうにしてるから大丈夫じゃないかな? たぶん。声には出さず、手だけをバイバイ、と振って少し遠くなったみんなの背中を追いかける。……あ、先トイレ行っとこ。三奈に持ってっといて、とコスケースを託すと同時に、相澤先生を呼び出す校内放送が聞こえた。
 トイレから戻って更衣室へ入ると、着替え途中の三奈がなんかめちゃくちゃはしゃいでた。昨夜も見たやつ。

「どしたのあれ」
「さァ、いつもの癖でしょ」
「あーね、癖だね」

 響香に尋ねると、呆れたようにクールに答えられた。あーね。クセじゃなくてヘキの方だ。キャピ三奈さん。

「本当に、違うんだ」
「え……?」
「これは、しまっとくの」

 そう言ってお茶子ちゃんが、なにかを大切に両手で包み込んでいた。いつもは朗らかで麗らかなお茶子ちゃんが、丸みを帯びた瞳の先まで、どこか落ち着いた女の子になっているように見えて。無意識に胸の中で芽生えた、ズキン、と痛むように覚えた焦燥に、首を傾げた。



「ねえ緑谷くんちょろちょろ出てるけど大丈夫?」
「不快」
「エ〜?」

 着替えて男子組と合流すると、なんか緑谷くんがかくついていた。頭には爆豪くんのトサカがぶっ刺さって血の名残がある。うける、大丈夫なんかな。爆豪くんには一蹴されてしまったし、あとで治したげよう。

「あっ緩名おまえ! 花剥がすの大変だったんだからな!?」
「ええ、やだった?」
「最高でした……」
「わ〜た〜が〜し〜機だ!」

 お花の名残がある峰田くんがぴょんこぴょんこ跳ねて訴えてくるけれど、悦だったみたいだ。なんか、快楽を与えたのかと思うとそれはそれであれだな。爆豪くん流に言うと「不快」。やったの私だけど。

「Heyガイズ! 私の渾身のギャグ受け流すこと水の如し」
「あ、お花残ってた! 爆豪くんにあげる」
「いらねえ」
「え〜、じゃあオールマイトあげる〜」
「あっ、ありがとう緩名少女。……じゃなくて!」

 今日の基礎学は、相澤先生だったはずだけど現れたのはわたがし機を抱えたオールマイト。わたがしできる時のぱちぱちした感じ、好きなんだよね〜。かわいい。ザラメたべたい。

「相澤先生は?」
「相澤くんは本当今さっき、急用が出来てしまってね」

 同じように浮かんだ疑問を誰かが口にして、ふぅん、と納得する。相澤先生は個性柄よく駆り出されてることがあるので、今回もそんな感じだろうか。忙しいなあ。……急用。急用ねえ。今までもあったことなのに、なんとなく心がザワつくのはなんだろう。虫の報せっていうのかなあ。気のせいだったらいいんだけど。

「緑谷く〜ん、それ治すよん」
「あっ、ああ、緩名さん、アリガトウ!」
「ロボっててうける」

 ずぽっ、とぶっ刺さったトサカを抜くとまた流血。まじで死ぬのでは? と思いながらも緑谷くんはピンピンしていた。強〜。少し屈んでくれた緑谷くんの頭に手を触れて、回復力を高める。表面的に切れてただけみたいだし、ちょっとその部分禿げるくらいで大丈夫だな。緑谷くん毛量多いからいけるいける。ついでに垂れた血をハンカチで拭ってあげた。

「ハンカチ貸したげる」
「あっ、ありがとう」
「うなぎパイおごりね」
「微妙なチョイスだなあ……」
「うなぎパイうまいかぁ?」
「俺は好きだぜ」

 うなぎパイ否定派瀬呂くん、静岡県民から追い出されそう。普通に美味しいじゃんね。



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