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「いくぞ!!」
「おお!!」
「はい!!」
「ああ」

 引き続き溌剌としたエンデヴァーさんに意気揚々と応えたら、気付いた時にはめちゃデカ日本家屋居た。なんで?

「わあ、立派なおうち〜」
「何でだ!!!」
「姉さんが飯食べに来いって」
「何でだ!!!」

 めちゃデカジャパニーズハウス、轟家らしい。まじでめちゃデカだ。帰省のバスの中では外側しか見えなかったけど、まさかこれ全部轟家だったとは。やっぱり上位のヒーローって金めっちゃ持ってんなと思ったら、爆豪くんが何でだbotになってしまった。まあ気持ちはわかる。

「めちゃくちゃ金目の物多そう」
「緩名さん!!」
「友達を紹介してほしいって」
「今からでも言ってこい! やっぱ友だちじゃなかったってよ!!」
「かっちゃん……!」
「あはは、爆豪くんと轟くん友だちじゃなくてマブだもんね」
「そうなのか」
「違ェわ!!」
「緩名さん……! ややこしくしないで!」
「あっはっは」

 賑やかだ。緑谷くんが楽しそう。ツッコミ大盤振る舞いしてる。
 ガラ、と扉を開けたエンデヴァーさんに続いて中を覗くと、明るい女性の声が聞こえた。

「忙しい中、起こしくださってありがとうございます! 初めまして、焦凍がお世話になっております! 姉の冬美です!」
「おお」

 人あたりのいい笑顔で迎えてくれたのは、轟くんのお姉さんらしい。同じく帰省の時に一瞬だけ見たけれど、エンデヴァーさんと轟くんからは想像できない愛想の良さだ。お顔も、エンデヴァーさんとはそこまで似てない気がする。やっぱママ似かな。ペコペコする緑谷くんにキラキラした笑顔で答える姉ろきさん。ふーん、かわいいじゃん。

「ここめっちゃ脛打ちそう」
「ああ、ガキの頃はたまにやったな 」
「んね、打つよね」

 The日本家屋〜って感じの高い玄関、なんて言うんだっけ。忘れたけどそこを上がって、靴を揃えて、私の顔を見てあっ! と声を上げたお姉さんに向き直った。

「初めまして、緩名磨です」
「磨ちゃん……あ、緩名さん! 焦凍からいろいろと聞いてます! ずっと会いたかったの」
「え、やった〜」

 手を差し出せばぎゅっ、と両手で握られた。少しひんやりとした温度は、髪色からも氷の方の個性なのかな? 轟くんからなに聞いたんだろ。轟くんとはマブだし悪い話はされてないと思うけれど、学校生活でのちょっと悪い遊びとか、俗物的なものを教えこんでる所があるので若干不安だ。物理的に冷たい手を握り返した。やっぱりひんやりだ。

「突然ごめんねぇ、今日は私のわがまま聞いてもらっちゃって」

 お姉さんに案内されて、長い廊下を進む。庭がめっちゃすごい。定期的に手入れされてるんだろうなあ。家の中に池あるのってどんな気分? 錦鯉とかいるのかな。

「ねえねえ、お風呂温泉?」

 最後尾を歩くエンデヴァーさんを見上げる。これだけ立派なお家だし、ワンチャン露天風呂とかないかな。

「……普通の風呂だ」
「え〜、檜?」
「? ああ」
「めっちゃいい〜! ここの子になろっかな」
「ハッ、やめとけ」
「こらっ」

 温泉旅館気分味わえて超良くない? と思ったけれど、爆豪くんに鼻で笑われてしまった。いろいろ微妙な否定じゃん? エンデヴァーさんも反応に困って……というか、さっきまでやる気満々だったのが、めちゃくちゃ燃え尽きたような感じになっている。どしたん? 話聞こか?

「すぐ準備してくるから、すこしだけ待っててね!」
「あ、私も手伝う〜」
「えっ……じゃあ、お願いしてもいい?」
「もちろん」
「俺も、」
「え〜、お姉さんと話したいからやだ」
「……悪ィ」
「バッサリいった……」
 
 食卓の上には取り分け用のお皿が並べられていた。どうやら晩ご飯は作り終えているらしく、あとは運ぶだけらしい。お姉さんが別の部屋へ向かうのを見て、私も後を追う。いやあ、流石にね、お手伝いしなきゃって思うじゃん。善人だから。で、轟くんのお姉さんと話してみたくもあるし。着いてこようとした轟くんをバッサリいくと、しゅんとしていた。かわいい。その様子を見て、お姉さんがふふ、と小さくはにかむ。うーん、美形だな。あと家がでけぇ。

「あっ、ごめんなさい。焦凍と仲が良いんだなと思って……」
「ふふ、仲良しですよ〜」

 仲は良い。A組だいたいみんな仲良いけど、轟くんとは席が近いのもあるし、その中でも仲良しな方だ、と思う。なんせ私の一番になりたいくらいだもんね。そりゃ仲良しを自称してしまう。ふふん、と胸を張ると、お姉さんがくすくす笑った。

「わあ、めっちゃ豪華」
「頑張りました!」
「すご〜い、拍手〜」

 キッチンに入ると、洋風の作りになっていて、ここもここでリビングが備わっていた。広い家特有食卓いっぱい問題。その上には、麻婆豆腐や竜田揚げ、餃子など出来たての料理が大皿に盛られていた。お姉さんこれひとりで運ぶつもりだったの? 多ない!?

「料理いつも作ってるの?」
「だいたいは私だけど、夏……焦凍のね、兄なんだけど、夏も交代で作ったりしてるよ!」
「ほえ〜」

 配膳の前に、キッチンで並んで手を洗う。轟くんよ料理偏差値は赤ちゃんレベルだけど、ちょっとの進歩は見えてきてる。

「と……焦凍くんは、最近卵割れるようになりましたよ」
「ふふふ、緩名さんとベビーカステラ作ったんでしょ?」
「あ、そうそうそれそれ。え、お姉さん知ってんの?」
「実はね、焦凍が、今日あったこととか、よくメールしてくれるの」
「え、めっちゃマメ〜」

 轟くん、と言いかけたけど全員轟だったわ。ヒーロー名とはまた少し違う響きで轟くんを呼んで、轟くんの成果報告をするとお姉さんがニコニコした。へえ、轟くん、めちゃくちゃマメだ。流石に毎日じゃないようだけど、なにかあったら報告してくれるらしい。楽しそう。

「緩名さんとのことは、焦凍からたくさん聞いてるの! それで、いろいろと一度お話してみたくて……」
「あ〜ね! 焦凍くん、変なこと言ってない?」
「……緩名さんはよく呼び出される、って言ってたかな?」
「ウワいらん報告じゃん」
「ふふ」

 まあたしかによく呼び出されるが。別に毎回悪いことをしているわけではない。マジで。注意されることもたま〜に、たまのたまにあるけど、基本は連絡事項……なはず。あんまり自身はない。取り出したお盆にお姉さんが料理を乗せていくのを見て、私も竜田揚げに手を伸ばした。

「あひゅっ」
「あっ、つまみ食いしない!」
「ふへへ。あ、うま〜」

 小さい欠片を口の中に放り込む。まあまあめっちゃ熱かった。反射でお姉さんが私を叱って、かと思えばそんな自分にびっくりしたかのように眼鏡の奥な瞳を見開いた。それから、ふにゃっとした笑顔になる。おお。

「……ウチのね、弟たちって、基本的に真面目で、つまみ食いしない、なんて注意をすることが今までなくて」
「あ〜、ぽいぽい」

 や、もう一人の弟は知らないんだけど。少なくとも轟くんはそう。お行儀がいいんだもんなあ。竜田揚げうま〜。

「それで、私、小学校の先生をしてるんだけど、なんだか緩名さんって生徒たちみたいで……」
「え、私ヤバ!?」

 小学生と同等!? まあたしかに、初めて来る友達ん家で、初めて合う友達のお姉ちゃんのご飯つまみ食いしてるのは若干のヤバではあるかもしれない。一応自覚はね、ちょっとはある。

「あ、違うの違うの! なんていうか、その、無邪気でかわいくて……ふふ、ちょっと、嬉しくなっちゃった」
「な〜る」

 馬鹿な子ほど可愛いではないけれど、注意ってわりと愛情の行為なことも多いしね。お姉さんの顔は本当に嬉しそうにはにかんでいるから、少なくともマイナスの感情ではない、と思う。よいしょ、とお盆を持ち上げて、足で襖をあけて、そういえば、と振り返った。

「ねえ、ていうか名前でいいですよ」
「えっ、本当!?」
「うん。最初磨呼んだっしょ〜」
「うん、実は、つい……焦凍から話を聞いてて、勝手に親近感が湧いちゃってたの」

 私も是非名前で! と言ってくれたので、冬美さんと呼ぼう。ちゃんでもありかもしんない。なんか若いし。年齢知らないけど。小学校の先生ってことは大学は出てるだろうし、何歳くらい轟くんと離れてるんだろ? まあ女性に年齢聞くのもなあ、って感じなので後で轟くんに聞いとこ。

「おまたっせ〜」
「足で開けンな! 人ン家だぞ!」
「手塞がってたからつい……」

 爆豪くんにめちゃくちゃド正論噛まされてしまった。つい。少しエンデヴァーさんの面影を感じる白い髪の、多分轟くんのお兄ちゃんが、目を丸くして私を見ていた。



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