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「じゃ、私着替えてから帰るから」
「あ、うん! その……本当にありがとう」
「も〜ほんとに。あんまり無茶しちゃだめだからね」
「ご迷惑かけます……本当に……」

 ぺこぺこ頭を下げる緑谷くんに、また明日ね〜と手を振った。歩きながら、ぐぐ、と伸びをする。時間経つ毎に気怠さが増してる気がする。今日は帰ったら爆睡だな。

「あ、せんせ」
「……ああ、緑谷の様子はどうだ」
「ん〜ぼちぼちって感じ。です」

 前方から歩いてきた相澤先生にやほほと声をかける。入学2日目にして保健室常連の緑谷くんについて、少し頭を抱えているようにも見える。性格は良い子だけどまあ問題児だよね。

「HR終わってるから着替えたらそのまま帰っていいぞ。連絡事項は特になし」
「はあい」
「はい、だ緩名」
「はい! ばいばい!」
「全く……気を付けて帰れよ」

 猫背の背中にも手を振って、更衣室へと向かう。先生、絡みにくいようで絡み易いようでそうでもないな。



「お、緩名も帰ってきたー!」
「磨ー! お疲れー!」
「おっ」

 教室の扉を開けると、随分と賑やかに出迎えられた。赤毛の上裸くんと三奈、それからなんかいっぱいいる。姿が見えないのは緑谷くん、爆豪くん、轟くんくらいかな。

「ちょうど磨ちゃんの話してたんだよ!」
「緩名の個性、なんでもありでスゲーぜ!」
「結局どんな個性なんだ!?」
「圧がすごい」

 複数人にわっと詰め寄られて、万全じゃない身体がふらついた。いや、万全でもふらつくな。流されやすい日本人なもので。

「緩名磨です。個性は『バフ』です。デバフも可能です。人間、物問わず強化とか劣化が出来ます。よろしくお願いします」
「わあ、磨がロボットみたいになった」
「合理的ね」

 蛙っぽいかわいらしい蛙水さんが口元に指を添えて小首を傾げる。仕草がかわいい。

「俺ぁ切島鋭児郎!」
「上裸のね」
「上裸……」
「こっちなんて全裸だよ!」
「透のは最早癖じゃん」

 あ、切島くんのも癖なのかな? って思ったけど、どうやら個性の関係で布面積が少ない方が都合がいいらしい。慌てて訂正された。

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「梅雨ちゃん、かわいいわ」
「嬉しいわ、磨ちゃん」
「ふふ、ケロケロ」
「ケロ、真似されてしまったわね」

 けろけろと笑う梅雨ちゃん、めっちゃかわいい。2人してケロケロ笑い合う。カエルの輪唱みたいになった。
 自己紹介をしていなかった数人が自己紹介をしてくれて、やっと全員の名前を把握出来た。記憶出来たかはちょっと怪しい。入学2日目なんてそんなもん。

「お茶子ちゃんすごい! 指に肉球付いてる! かわいい!」
「えへへ……照れますな」
「照れてるのもかわいい」

 ぷにぷにの肉球がかわいくてぷにぷにする。5本の指を一気に触ったら身体が浮かんで楽しい。無重力ってこんな感じなんだ〜すごい。

「緩名の個性って、どこまで強化できるんだ?」
「尾白すげえ強かったもんな!」

 浮かんだ身体を瀬呂くんのテープで固定してもらってふわふわを楽しんでいたら、私を褒める言葉が聞こえたので、空中を泳いで障子くんに着地した。そろそろ酔いそうだったし、ちょうどいいタイミングでお茶子ちゃんが個性を解除してくれる。しごできしか勝たん。峰田くんがなんで障子ばっかり! と奇声を発している。いや、私が峰田くんに乗ったら圧死するでしょ、そもそも。

「んん、身体強化はわりとその人由来なとこあるから……尾白くんの元々が鍛えられてて動ける人だったから、更に、って感じ」
「尾白も普通にすげぇよな! こう……武術ーって感じでよ!」
「あはは……いや、でも緩名さんのバフ、かなり凄いよ」
「俺もされてみてえ! 楽しみだな!」
「ま、そのうち機会あるでしょ」

 そのうち、っていうかすぐしそう。コンビネーションとか大事っぽいよね、ヒーローって。

「見てみてー、いま私が一番高い」
「小学生みたいなこと止めなさいて」
「いいなー。ところで緩名さ、今度飯行かね?」
「えーいこいこ」
「マジ!? やりぃ!」
「障子の上でナンパすんなー、可哀想だろ」

 障子くんの上でピースしたら瀬呂くんに窘められて上鳴でんぴくんにナンパされて切島くんに窘められた。窘められすぎ。人生2週目なのに大人しくないって? ある程度の精神が肉体年齢に引っ張られてるからね。じゃないと幼稚園とか地獄じゃん。地獄だった。

「障子くんも一緒に行くもん、ねー」
「!? いや俺は……」
「コラコラ、困らすな」
「ちぇっ、2人じゃないのかよー」
「先生に反逆して放課後マックでだべったろ」
「反骨精神強すぎだろ……」

 万年反抗期かもしれない。やば。
 その後? しんどいから普通に帰って寝た。




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