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「なあにあれ。不祥事?」
「なんでまたマイナス方面へと……でもマジでなんだ?」

 朝、たまたま出会した瀬呂くんと並んで登校していたら、正門の前が人で溢れかえっていた。見たところマスコミ関係。うわあ。

「うげろぉ」
「こら、緩名かわいいんだからそんなことしない」
「顔かわいくてもゲロくらい吐く吐く」
「かわいいは否定しないのね……」

 そりゃあこの身体の顔がかわいい自覚は十二分にあるからね。辟易しながらも人の波に近付くと、オールマイトコールが聞こえてきて、ああ……と瀬呂くんと顔を見合わせる。通してくれるかな。

「あ、ちょっと君、ヒーロー科の生徒だよね? オールマイトの授業について……」
「あ、パスで〜」
「同じくパスで〜」

 マイクとカメラを向けられて、サッと瀬呂くんの後ろに隠れる。片手を上げて、じゃ! と切り抜けた。人波にブロックされそうになったけれど、瀬呂くんのおかげでなんとか通り抜けられる。オールマイトの人気を改めて分からせられた。

「朝から災難だったなー」
「瀬呂くんいて助かった〜まじ感謝ありがとうの極みだわ」
「ドーイタシマシテ」
「照れた?」
「ちょっとね」
「へへ〜」

 キャッキャしてたら付き合ってんの!?と三奈が飛んできた。恋バナ、好きそ〜。



「急で悪いが今日は君らに……」

 朝のHR。問題児2人へのお説教の後、唐突に切り出された議題に、緊張感が走る。

「学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たー!!!」

 平和で学校っぽい内容に、ワッ!と皆が盛り上がる。ほとんどの生徒が我こそはと手を挙げて自分を主張していた。マジ?学級委員でこんなに盛り上がることあるんだ。人より多い今までの学生生活の記憶では、押し付け合いが9割だった気がするんだけど、ヒーロー科ともなると違うんだなあ。

「僕、三票ー!!!?」

 飯田くんの学級委員長っぽい主張により投票で決めた学級委員長は、だいたい皆自分に投票する中三票を獲得した緑谷くんになったみたいだ。頑張れ。ちなみに私の投票先は飯田くんだ。インテリメガネの学級委員ってめちゃくちゃ定番でテンプレだけど実際なかなか見ないよね。残念。飯田くんは一票入っていたことに震えるほど喜んでいた。賑やか〜。副学級委員長になった百は悔しがっていた。百でもありだったな。



「爆豪くんヤバ。赤。地獄の沼じゃん」
「あ?ンだテメェ」

 お昼休み。フラフラと食堂に行ったら一人で席に着く爆豪くんを見てその隣に並んで座った。ぼっち飯だ。私もだけど。あんまり絡んだことないピーポ、特に絡みにくそうな人だと絡みに行きたくなるよね。爆豪くんの手元の丼の中を覗き込むと、マグマみたいなドス黒い赤色で満ちていた。ラーメンっぽいけど赤すぎで地獄じゃん。平気でそれを啜る爆豪くんに、今世で一番ゾッとした。まじかよ。

「やば、将来絶対痔になるよ……」
「ハッ、んな軟弱なケツしてねえんだよ」

 ご飯時に出す話題ではないけど、辛いもの食べるとお腹の心配しちゃうよね?最早辛いものってレベルを超えてる気がする。興味本位で1口……、と言えば誰がやるかバァカ!と舌を出された。舌まであっけ〜。ボムボム怒ってばっかいるなと思ってたけど、わりと普通に会話してくれるな。

「テメェ、個性なんだ」
「ん?」
「あの氷野郎の、溶かしてただろ。それだけじゃねえ。猿にも、クソナードにも使ってた」
「ああ、『バフ』だよ。バフって言ってるけどデバフも可能です」
「……個性そのものも強化出来んのか」
「もちのろんろん朝飯前〜」

 今は昼ごはんだけどね。って言ったら無視された。酷くない?そういえば爆豪くんは昨日あの後さっさと帰った組の人だから、私の個性知らないのか。少し言っただけで、ある程度理解したようで、この腰パンtheヤンキーって見た目に反して、理解力があると言うか、頭が回るというか。案外クレバー?

「爆豪くん質問コーナーしていい?」
「うっせ死ね」
「生きま〜す」

 第一問!と質問を初めようとしたら、突然けたたましい警報音が鳴り響いた。

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外に避難してください』

「セキュリティ3?」
「校舎内に侵入者があった場合の警報って入学案内に書いとっただろうが」
「そんなん読んだことない……」

 必要書類には目通せアホ女!と叱られた。正論。席から立ち上がって食堂の出口に向かうけれど、迅速に避難しようとする人の群れに流されそうになる。ま、そりゃそうなるよねえ。

「ぐえっ」
「どんくせェなボケ」
「うえ〜んありがとう」

 押し寄せる人波に転びそうになった身体を、襟首を掴まれて支えられる。支えられてはいないかもしれない。チッ、と舌打ちをした爆豪くんに引かれて、壁際に追いやられる。片腕をドンと壁について、もみくちゃの中私が押されようにしてくれているらしい。イケメン仕草だ! えっ。イケメン仕草だ!!

「優豪」
「テメェまじで殺すぞ……!」
「いだだだだごめんごめんごめんすみません」

 マジ感謝の気持ちを込めたんだけどお気に召さなかったみたいで、ほっぺを片手でむぎゅうと潰される。そんなかわいい表現じゃないな。ミヂッ!て感じ。ばか痛い。もしかしてゴリラ?私のプリティフェイスが潰れてしまう。すみませんでした。ギブギブ、と頬を鷲掴み手を両手でぺちぺちと叩けば、フン!と鼻を鳴らして掴む手の力が緩まった。

「爆豪くんの個性って、手?」
「アァ?」
「や、強化する時も、結構考えないとダメだったりするからさ〜……」
「……掌の汗腺から、ニトログリセリンに似た汗を分泌してんだよ」
「ああ〜、んじゃ個性だけバフかけても、腕の反動がキツイかもね」
「重複出来んのか」
「まあまあ、効果によるけど数個なら」
「……クソ便利だな」
「そうでしょう」

 それはその通りなので盛大にドヤる。自分自身を強化するより、元から強い誰かを強化する方が私の場合効率が良い。はず。個性のことについては気になるのか、わりと会話が弾む。そうこうしている内に、飯田くんがなんか面白いことをして、事態は解決を迎えた。マスコミだったらしい。朝の、まだいたんだ。その影響で学級委員長が飯田くんに変わった。テンプレ学級委員長だ!やった〜!



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