139



「いい加減鬱陶しンだよてめェ……!」
「ぅえっ」

 唯ちゃんから少し離れると、ぐいっと腕を引っ張られてなんかまあまあオコな爆豪くんにA組が固まってるとこへ連れていかれた。なんでオコなの。百合地雷? 自分で言うのもなんだけど絵面耽美だったくない? 自分で引きずって連れてきたくせに、ぽいっと放り投げられて、三奈に抱きとめられる。私の扱い雑じゃない? いつもだわ。常豪くん。常闇くんとフュージョンしたみたいなネーミングだな、やめよう。

「もおー磨の面食いめ」
「売クラス奴ー!」
「むっ」

 三奈や透にむかぷんされてしまった。唯ちゃんがあまりにもかわいすぎてつい。B組とも異クラス交流したかったけど、とりあえず両腕にしがみついて来る二人をどうどうと宥めておく。お互い各自のグループで作戦会議しようと引っ張られるせいで、身体引きちぎれそう。作戦会議邪魔するのもあれだしなあ。まあそんなに発声出来ないから、大した邪魔にはならないか。というわけで、三奈の隣に大人しく腰を下ろした。地べたの三角座り、おしり痛くなるよね。ゴリゴリ。
 作戦会議、なんとなく聞いているとやっぱり相手チームの個性をどう対処していくか、タイマンに持ち込むのか1人ずつ減らしていくのか、がメインみたいだ。そらそう。私がやるなら、自チームの底上げと相手チームを押し下げることメインに動くんだろうな。いいな〜やっぱやりたかった。

「じゃあ、行ってくるわね」
「う?」

 不貞腐れながら三奈の肩に頭を乗っけていたら、第一試合に向かう梅雨ちゃんが私の前に立って、蛙らしく大きな手が優しく頭の上に乗った。ケロケロと笑いながら、ほんの少しだけ撫でられる。梅雨ちゃん、しゅき……KISSだ。

「絶対勝ってくるぜ!」
「……!」
「俺のカッケェとこ見とけー?」

 切島くん、口田くん、上鳴くんと梅雨ちゃんに倣ったかのようにみんな私の頭や肩に触れていく。なんか前もあったなこういうの。決意表明? 参加出来ないのを慰めてくれているんだろうけど、ビリケンさんか私は。A組、確実に私に毒されて対人距離が近くなってきてるよね。ヨシヨシ。

「……」
「何」
「んーん」

 A組の最初の組は、今の4人と心操くんだ。チームで纏まって動いていたから私のすぐ近くに立つ心操くんを見上げると、怪訝そうに眉を顰められた。何て。塩対応多くない? お砂糖対応欲し〜。首から下げたボードに人使! ファンサして〜! と書くと、呆れなのかなんなのか、嫌そうに下唇を突き出された。ちょっと相澤先生に似てきたね、心操くん。ハァ、と首に手を当ててため息を零した。そんな、どこか痛めてる系イケメン仕草しなくても。

「……遅くなったけど、髪、似合ってる」

 行ってきます、と響いた低い声。捕縛布に擦れてマメの潰れた硬い指先が、私の髪をそっと撫でていった。

「……なに? 今の」
「フゥン」
「フゥンじゃなくて! なにー!?」

 恋バナ大好き星人が生えてきた。別にそんな関係ではないけれど、少しでも恋バナの気配を察知すると三奈の目が爛々と輝くのだ。もうね、好きね〜って感じ。

「磨ちゃん、心操くんと仲良かったんやぁ……」
「ね、それ! 絡みあるの知らなかったんだけど!」

 絡み、はまあたまにだけど一緒に訓練してたからなあ。でもわりとそれくらいだ。距離近い人間と接すると、だいたいの人は感化されてその人との距離が近くなるか、逆に引いて遠くなるかだと思うんだけど、心操くんもA組も前者だった、ってだけだ。特別なことは特にない。いっしょに特訓した、と書くと、聞いてないー! とぷんすこされた。言ってないもん。

「相澤先生と一緒にいるところは見かけるなあって思ってたけど、緩名さんも一緒だったんだ」
「ん」

 たまにね。



「スタートは自陣からだ。制限時間は20分」

 話を聞きたそうな三奈をなんとか落ち着けて、膝を抱え直すと、両チーム共スタート位置に着けたようだ。オールマイトとミッドナイト先生まで見学に現れた。オールマイトによると、トラブルに見舞われることなく着実に地力を上げているのはB組だと言う。A組に勝って欲しい気持ちもそこそこあるけど、B組の戦い方、目にする機会がほとんどなかったから楽しみだ。ちょっとわくわく。

「じゃ、第一試合……START!」

 ノリノリのブラド先生の合図で、一回戦が始まった。B組のチームは、塩崎茨ちゃんがやっぱり強力なのかな。なんせ絶縁体、A組の高火力は上鳴くんなので、タイプ相性最悪だ。円場くんの個性は楽しそう、あと顔がスライムみがあってかわいい。空気凝固して踏み台を作ってもらって、空への階段〜ってしてみたいよね。
 元々設置されているカメラに、いくつかドローンまで飛んでいて、モニターに表示される。宍田くん、獣化したら嗅覚も良くなるのか〜。索敵も出来る、と……。便利だな。開始早々獣化した宍田くんに切島くんが吹っ飛ばされて、口田くんが円場くんによって無力化される。あ〜らら。と思ったけれど、心操くんの「洗脳」がどうも上手く作用しているようだ。お互い捕獲し捕獲され、若干A組に分が悪い気もする。捕縛布、モーションに入ってすぐ対応されちゃってたな。まっそりゃ初戦から上手く行く人なんて、よっぽどじゃない限りいないので気にすんなって気持ち。自分がいたらどうしてたかな……サポート特化とはいえ、触れられたら一人は確実に無力化出来るけれど、となるとやっぱり近接での動き方もちゃんとマスターしておいた方がいいよね。捕まらないのが目標なので、私が参加するなら絶対に捕まらない、を目的にすべきだろうな。参加出来ないけど。ブラド先生がノリノリで実況しだした。

「我が教え子の猛撃が遂に!! A組を打ち砕くのか!?」
「いいぞ僕らのブラキン先生!」
「偏向実況やめろー!」
「ふふ」

 三奈達が抗議に立ち上がった。元気だね。でも、「遂にA組を打ち砕く」、って、捉え方によったらB組がそもそもA組に勝ててない、って言ってるようなもんじゃない? そう三奈に教えてあげると、……なるほど! と納得していた。とはいえ偏向実況は許せないらしい。おもろ。

「ん、!」
「……」

 ほどほどにね、と手を振るために少しだけ振り向くと、斜め後ろに座っていた轟くんと目が合った。まあ轟くんは前を見ているので、そら合う。うーん、この気まずさ、最初のUSJに行く時のバス以来だ。そっと視線を外されて、それに少しムッとしてしまう。まだガキなので……。おしりでジリジリと後ずさって、轟くんの真横に付いた。轟くんがいくら大丈夫、と言おうと、微妙に開いた距離は私が気になる。わがまま世界選手権転生部門代表だもん。友達と拗れたくなくて何が悪い。

「……緩名、ちょっと狭ェ」
「ふん」

 ちらりと視線を向けられて狭い、と言われたので、グイグイと尻でより押し込む。天邪鬼部門でも代表選手張れると思う。爆豪くんには敵わないけど。そうして左側にぴったりとくっついていると、諦めたみたいだ。

「ああ……まァ、いいか」
「いいんだ……」

 いいんだ……。尾白くんと私の心の声がダブった。いいんだ。轟くんらしい。
 そうこうしている内に、策を練り直したらしい2チームがもう一度バトルモードに。上鳴くんが茨ちゃんに捕まって、かと思えば宍田くんに付着したポインターを目指した囮だったらしい。鱗くんに弾かれたけど、心操くんが茨ちゃんに洗脳をかけた。うわ、今の私でも返事しちゃうな。洗脳相手だとコミュニケーションが取りにくいよね。上手くそれが作用して、B組がしっちゃかめっちゃかになっていた。うん、梅雨ちゃん、やっぱりすごいわ。あと上鳴くん、やっぱかっこいいね。
 洗脳された茨ちゃんに、気絶した鱗くん宍田くんを運ばせて、激カワプリズンへ。第一試合、A組+心操くんの勝利だ。やったね!

「洗脳、思ってた以上に厄介な個性だな」
「ふふん」
「なんで緩名さんが自慢げなの」

 尾白くんのツッコミに、わしがそだてた、と書いておいた。



PREVNEXT

- ナノ -