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「心操ーー!!」

 心操くんの登場に、一斉にざわめきだす。びっくりするよね、確かに。にしても、みんなコスが結構様変わりしてるな。私のも冬仕様になったりサポートアイテム付いたりしたけれど、ほぼ燃えてしまって修理中だ。ジャージに着替えたらお披露目したかった、悲しい。荼毘、一生許さん。
 マントを羽織ったりもふもふが付いたり冬仕様にはなっている人もいるし、個性柄冬仕様に出来てない子もいて、ヒーローコスチュームって改めて難しいな……と思う。制約少なくてよかった〜。透の全裸、私なら一瞬で凍え死んでる。あ、凄いキョンシーいる! 高い位置にいるおかげでいろいろ見渡していると、爆豪くんと目が合った。長袖だ。あまりにも熱心にガン飛ばされてるいるので、仕方ない。ファンサービスに、と投げちゅーしたらケッ! と視線を逸らされた。なんでやねん。

「緩名」
「んぎゅ」

 キョロキョロしすぎたせいか、捕縛布でペチンと頭を叩かれた。器用なことするね、先生。あっごめんなさい。いそいそと綺麗に座り直すと、納得したように鼻を鳴らした。それでいいんか。そこに愛は、あるんか。あるよ。

「一言挨拶を」

 そう先生に促されて、心操くんが1歩前に出た。心操くんの挨拶は、半ば宣戦布告とも取れる決意表明で、どこまでも真剣な言葉だった。なんとなく、身の引き締まる思いがする。ヒーローになるために、みんな必死だよなあ。
 パチパチと拍手の音に、ぼんやりと飛ばしていた意識を引き戻して、私もパチ、と手を打った。心操くんにとっての、超えるべき壁に私もなれてるのかな。結構弱々しいとこを全国的に見せてしまった気がする。よく考えなくてもわりとマイナスだよね? やだな〜。ヒーロー科の面々を見渡す心操くんを高いところから眺めていたら、心操くんが私を見上げた。

「?」
「別に」

 エリカ様か? 言いたいことあるなら聞いてやるぞ、とブラド先生の肩から飛び降りる。スカートが捲れることもなく無事着地。華麗。10点。ロイヤルストレートフラッシュ。

「アンタにも負けないから、ってだけ」
「……! ん!」

 たった一言で嬉しくなってしまった。チョロインか? 高い壁、という程ではないけど、隔たりくらいにはなれてるみたいだ。個性使用ナシの訓練では五分五分くらいだけど、個性アリの試合ではまだまだ私の方に分がある。今回、福岡で自分の力不足もそれなりに痛感したので、私もどんどこ頑張っていくつもりだ。いつまでもセンチメンタルになんかなっていられない。切り替え大事だよね〜。
 トン、と肩をぶつけると、ぐっと引き上げたマスクの下で、心操くんが少しだけ笑った。



「4人一チーム! 楽しそうだね」
「楽しそう」
「……心操を加えると41名。この半端をどう解決するのでしょうか」

 今回の対抗戦は4人一チームのデスマッチだ。デスマッチは嘘。あーあ、私も参加したかったな〜。サポート特化よりだからチーム戦の方が得意だし。いじける。私がいても人数中途半端だし、いなくても人数中途半端だな。
 心操くんは今回A、Bの両チームに1回ずつ加わるらしい。私意外と出来る子なんだぞー! って言うの、見せつけて見たかったし共闘もしてみたかった。まあ、心操くんもヒーロー科に上がってくるだろうし再戦の機会もいっぱいあるよね。多分、きっと。B組とも組んでみたい。4人が不利、と言う声もあるけれど、5人チームであれど4人捕まった方が負けなルールでは、むしろ5人の方がちょっと大変かもしれない。

「お荷物抱えて戦えってか。クソだな」
「ひでー言い方やめなよ」
「いいよ、事実だし」
「ふふ」

 爆豪くん一切心操くんに気使うとかしないの、やっぱりいいな。とはいえ、心操くんの個性は初見にはめちゃくちゃ有用だ。個性が知られてはいるけど、今回はサポートアイテムも新たに加わってるし。2戦目は手の内が完全に暴かれてるから、そこをどうするのかも楽しみだな〜。ニヤニヤしてると、悪い顔、と心操くんに呆れられた。こんな美顔を捕まえて。怒。にしても、初陣に緊張してる、と言ったわりには意外とリラックス、ってわけでもないけど、ピリピリした空気は感じない。

「ああ、まァ……緩名見てると気が抜けるし」
「あっそれ分かる」
「ハァ?」
「磨めっちゃ声出るようなったよね」
「ぁん」

 近くにいた響香に同意される。ハァ? そう、吐息と喃語くらいなら喋れるようになったんだよね。回復速度はえ〜。ハッピース。

「コラ」
「ばぇ」
「そりゃバレるだろ」

 クジを引く列にこっそり並んだら速攻バレて先生にグルグル巻きにされた。口田くんと障子くんの間に挟まったから目立たんと思ったんだけど、やっぱダメだった。哀。余計なことすんな、と捕縛布を巻かれたまま、先生の横に繋がれる。ドナドナの気分。さらし者? だって〜、寂しいじゃん。完全に構ってちゃんになっている自覚はある。
 全員のクジが引き終わって、組み合わせを見るに特に気になるのは2戦目と5戦目かな。百と一佳、気になるよね。あと唯ちゃんはかわいいので。あ、あとキョンシー気になる。私もキョンシー操りたい。心操くんはA組の1チームめ、梅雨ちゃん、上鳴くん、切島くん、口田くんのチームと、B組の5チームめ、物間くん、庄田くん、柳さん、唯ちゃんのチームに入るらしい。唯ちゃんとの共闘羨ましすぎる。私も唯ちゃんとチームを組みたい。羨ましい。恨めしい。物間くんの勢いに気圧されない心操くんに、推しアピールをする。唯ちゃん、推し。𝑩𝑰𝑮 𝑳𝑶𝑽𝑬______。

「唯ちゃん……小大?」
「ん」
「ん」
「ああ、よろしく」
「君なんでこっちにいるんだい!? まさか偵察かなあやだなァそういう姑息な真似ェ!」
「ッゼ」

 物間くん、相変わらずうるせ〜と思ったら声が出てた。思わずね。それを燃料にまた捲し立てられるからうるせ〜!! を加速させていると、唯ちゃんが後ろから耳を塞いでくれる。ラブ。キュンです。結婚しよ。少しだけ振り返ると、相変わらず無表情な唯ちゃん。顔がかわい〜。今日もビジュ爆発してるな。優勝。存在がジャスティス。

「緩名、無事でよかったね」
「ね」
「ん!」
「短いのもマジかわいいと思う」
「ね」
「ん!」
「アレ会話成り立ってんのか……?」

 柳さんが会話を振ってくれる。優しい。唯ちゃんよりも少し短いけれど、髪型はお揃いになった。少し笑ってくれた唯ちゃんがかわいくて、思わず細い腰に腕を回すと、同じように抱き返してくれた。最高。いい匂いする。匂いの面が良い。は? 身長もそこまで離れていないので、すぐ近くに綺麗な顔がある。人生で一番ドキドキするかもしれない。まつ毛長。キリッとした眉も、小さめの形の良い唇も、全部かわいい。細長い指が短くなった髪の毛を柔らかく梳いて、心地良さに目を細める。

「磨ー、戻ってこーい」
「緩名って結構面食いだよな」
「あの二人見てると、なんかイケナイ物見てる気分になる……」
「美少女百合最高ッゲハァ!」

 峰田くんは相変わらず梅雨ちゃんに折檻されていた。火星に代わって。



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