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「反省点を述べよ」

 無事勝てたとはいえ、完勝とはいかなかった4人と心操くんが、それぞれ反省を述べていた。切島くん、防御力はめちゃくちゃ高いけど、相手から来ないとたしかに厳しいよね。梅雨ちゃんはいつも全体を見て動いてるの、凄いな〜って思う。オールラウンダーだ。身近な目標は梅雨ちゃんだな。連携面を見るとB組の方が全体的なチームワークは出来ていたけど、心操くんがいたのが大きいよね。掻き乱せたし。最近は敵も組織化しているから、連携を封じるという面でも強い。まあただ通信機とか使われたらまた変わってきちゃうけど。どんな個性も一長一短だ。
 一人で捲し立てる物間くんにまとわりつかれている姿を見ると、同じタイミングで顔を上げたようで、パチリと紫の瞳と目が合った。ギョッとした顔をされる。轟くんに張り付いてるからかな? とりあえず、親指を立てておくと、強張った肩から、ふっと力が抜けた、ように見えた。

「……心操と、」
「ん」
「……いや、なんでもねェ」
「ハァ?」

 斜め上から落ちてきた声に答えると、速攻で取り消された。ハァ? なんでもなくないじゃん。そういうの嫌だからいやなのに。日本語〜! おこの顔で見上げると、顔を逸らされる。許さん。私がゴム人間かろくろ首だったら逃げられないように首伸ばしてるぞ。逃げた視線の先に頭を持っていくと、また逸らされて、プチ追いかけっこになった。なにしてんの、と尾白くんに笑われたし、障子くんも飯田くんも呆れている。喧嘩中だぞこっちは。喧嘩中なのか?

「俺たちも煮詰めよう!」

 その飯田くんの掛け声で、流石に邪魔をするわけにはいかないので、ムッとしたまま大人しく座り直した。轟くんの片膝の上に圧をかけるように正座で。とはいえ轟くんもお父さんがゴリラ寄りの方なので、鍛えられた体幹も相まって特に苦にもしていなそうだ。事情と普段の距離の近さを知っているA組の面々はまたやってる、くらいでスルーだけど、それ以外からは奇妙なものを見る目を向けられた。流石にね。



「それでは、行って参ります」
「うぃ」
「真似っ子さん☆」
「行ってくる」
「見ててね! やってやる〜!」

 第一試合同様に、第二試合のチームもライブオン轟くんの膝中の私の頭に次々触れていく。青山くんだけハイタッチだし、常闇くんじゃなくてダークシャドウくんだったけど。ダークシャドウくんたまに口開けてくんだけど、私のこと捕食しようとしてんのかな? そして透がやる気満々で張り切っているが、見ててね、と言われても多分姿を視認できないくらいに潜むだろうからなかなか難しいお願いしてくるなと思った。見せてくれ。

「なんで磨轟の膝乗ってるんだ?」
「んー……」

 成り行き? そう書くと、一佳がよく分からなさそうに苦笑いを零した。私もわからん。格闘家の少し硬い一佳の手のひらが、ふわっと頭の上に乗った。ええ、一佳まで?

「んぇ?」
「磨撫でると勝てるんだって?」
「マ?」
「まァそんなんなくても勝つつもりだけどさ」

 うっ、一佳のこういうとこ好きだ。にしても段々ビリケンさん化してきたな。

「磨ちゃんとも戦いたかったノコ!」
「ちゅ」

 きのこちゃん、ラブだ。お揃いになったね! と私の髪を見て笑いかけてくれる。ラブだ。ガチ恋握手会みたいに両手のひらを合わせて、ぎゅっと一度強く握った。ガチ恋握手会楽しいよね。きのこちゃんの後ろで黒色くん? と吹出くんがモジモジしていた。吹出くん、今喋れないから常に隣にいて欲しい感ある。B組を応援するのもあれかなぁ、と思ったのでとりあえずウインクだけしておく。これがウインクキラーなら二人とも脱落してた。

「うっ」
「緩名さん、強敵だ……!」

 すご、黒色くん黒色なのに赤くなってる。すご〜。あんまり異性に免疫ないタイプなのかな。投げちゅーにしとけばよかった。

「ん?」

 バイバイ、とフィールドに向かう8人に手を振ろうとすると、後ろから少しだけ目元が覆われる。ちょっとびっくりしたけど、びくってならなかった。良かった。振り向くと、相変わらず目を合わせようとはしない轟くん。乗っかっている私の方が位置が高いので、目を合わせにくい。

「……あんま他のクラス応援しねェ方がいいんじゃねえか」
「え〜」

 それだけ言って、また作戦会議に戻る。なんだかなあ。後ろに仰け反って、後頭部を肩にくっつけて力を抜いた。強行突破しようとしてるけど、仲直りって難しい。あと膝の上で正座しんどい。いくら体幹それなりとはいえ、バランスが微妙だ。

「お」
「っワ」

 足を伸ばしてテディベアのように座ると、お尻がずり落ちて胡座の真ん中に着地した。支えるためか、轟くんの左腕が私のお腹に回される。これ、絵面だけ見るとバカップルだよね。ウケる。最近諦めの良さが改善されてきたので、元の関係に戻れるまで轟くんにめり込むつもりではいるけれど、なんか面白くなってきた。イケメンにくっつけるチャンスだ。普段からわりと距離近いけど。

「拳藤ってB組でどういう立ち位置なん」
「おう!!」

 瀬呂くんの質問に、鉄哲くんが元気に答えてくれた。声がデカいので響いている。一佳はいい女だよね、本当に。バランサーのイメージだ。実戦を見る機会はなかなかないので楽しみ! デバフかけても拳小さくは出来ないだろうし、敵対した時の相性は微妙だな。

「とっさの判断、か。八百万のオペレーションがうまく刺さるかどうか」
「オペレーション」
「ぉぺ」
「なんか緩名さん段々退行してない?」
「いつもだろ」
「いつもかぁ……」

 納得すんな、ましらお。毟るぞ。

「……逆に緩名ってA組でどういう立ち位置なんだ?」
「あ〜……マスコット?」
「クソワガママ」
「距離感バグ?」
「構ってちゃん」
「呼び出し常習犯だよな〜」
「ア゙?」

 上から瀬呂くん、爆豪くん、砂藤くん、響香、上鳴くんだ。ジャミングウェイにだけは言われたくない。第四試合のA組チーム、私への当たり厳しいチームじゃない!? 褒めてほしいんだけど。ほめて! と書いたらうーん、と首を傾げられた。

「顔がかわいい?」
「あー、顔はめちゃくちゃ綺麗だよね」
「まァ見れる面ではあンな」
「最初見た時すげェ美少女いんなってテンション上がったよ俺!」
「わかる、清楚だろうなーって思った」

 顔だけ!? まぁたしかに私の顔はかわいいが……。鬼清楚だし。それは知ってるので他、お願いします。

「こういうとこ」
「な」
「あー、なんとなくわかったぜ」
「ハァ?」

 わかるな!



「ひっ」

 きのこちゃんの個性、思ってた以上にかなり恐ろしい。黒を支配できる黒色くんも凄いけど、無限キノコはバグレベルだ。人体の中とか生やせるなら広域制圧とかわりと出来そう。怖すぎる。あと集合体やばすぎて、鳥肌がぶわっと出た。今日もし参加出来てて、この組だったらギャー! ってなってる、絶対に。

「人体にまで生えるのかよ……ホラーだ」
「彼女のキノコは2〜3時間で全部消えるから後に引かないんだ」
「……大丈夫か?」
「のー……」

 数時間で消えると分かっても、キノコで埋め尽くされてるの怖すぎる。ゾワゾワだ。ああ、でも轟くんならある程度湿度も温度も管理できるから、わりと有用だな。女子は苦手な人多いよね。
 吹出くんのオノマトペで百が切り離され、なかなかに苦戦を強いられているようだ。オノマトペ、しっとりとかびくびくとかムラムラならどうなるんだろ。観戦に集中してはいるものの、どうしても頭の隅にその疑問が浮かんできてしまう。多分同じことを考えていたんだろう峰田くんと目が合って、親指を立てられたので速攻逸らした。ごめんなさい、集中します。
 にしても、一佳凄いな。判断力もあって、自分の得意に持ち込むのが上手い。双拳の個性だけを見ると、ヒーロー科に置いてめちゃくちゃ強い訳ではないけど、一佳の、百風に言うとオペレーション力が合ってこそ活かせてる。不利に陥った百が、大砲を作って何かを飛ばし、一佳に絡み付いていた。

「あ」
「体内にも生やせんのか」

 常闇くんが黒色くんときのこちゃんを捕まえて、なんとかイーブンかと思ったけれど、肺に生えたキノコによって、再び不利に。うわ、めちゃくちゃ苦しそう、あれやだなあ。きのこちゃん、恐るべし。かなり強烈だわ。制圧向きだね。

「面目やくじょだ拳藤ー!」
「……また弱気になんねェといいが……」

 弱気に、なるかなあ。多分、きっと、今の百なら大丈夫だと思う。第二試合は、B組の完勝だ。



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