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 予想、ビンゴだった。まあ共通の知り合いほとんどいないしね。

「去年の準グランプリ、波動ねじれさんだよ!!」

 フアァ、と宙に浮かぶ先輩。かわい〜。ドレス、露出は多いけど清楚さがある。よく似合っていてかわいい。

「ねェねェ何でエリちゃんいるの? フシギ! 何で何で!? 楽しいねー!」
「ぐえっ」

 ふわっと浮かんできた先輩に、着地の勢いのまま抱っこしているエリちゃんごと抱き着かれた。ほぼボディブロー。吹っ飛ぶかと思った。

「私知ってるの、磨ちゃんもミスコン出るんでしょ? ライバルだね!」
「ああ〜お戯れを〜」

 うりんうりんとほっぺにほっぺを擦り付けられる。摩擦。ねじれちゃん先輩のほっぺ、ぷにぷにほツルツルだ。いい匂いする。っていうか私ここ見てていいのかな、偵察になる? と一瞬気にしたけど、大丈夫だよー、と許可をいただいたのでいいんだろう。あ、天喰先輩がカメラマンしてる。謎。目が合ったので手を振ると、一度目を逸らして、それから控えめに振り返された。かわいい。

「“個性”も派手だしその……お顔も……プププロポプロ……」
「プロポーション」
「そんな先輩でも準なんですね」

 緑谷くんどもりすぎでウケる。プロポーション、そんな恥ずかしい単語でもないだろうに。どストレートに思春期ド真ん中じゃん。

「そー聞いて! 聞いてる!? 毎年ねェ勝てないんだよーすごい子がいるの!」

 ミスコンの覇者、絢爛崎美々美さん。最早名前が覇者だもん。実物どんな人なのかめちゃくちゃ気になるな〜。早く見たいな、ミスコン楽しみになってきた。

「今年はCM出演で隠れファンが急増しつつある拳藤さんも、……既にファンを多く抱えた緩名さんも出る。波動さんも気合いが入ってる」

 褒められたのかな? ハッピー。校内知名度はある方だとの自覚はしてるんだけど、周りに美少女多すぎるんだよね。天喰先輩はミスコンのステージを考えただけで胃が痛くなるそうだ。よわよわのよわである。興味が緑谷くんに移った隙にねじれちゃん先輩の腕から抜け出して、天喰先輩ににじり寄った。ツンツン、とつつくと貝みたいにビクビクしてる。ウケる。

「エリちゃん、サンイーターさんだよ」
「さんいーたーさん」
「……ああ、その、初めまして」
「……はじめまして」

 天喰先輩、エリちゃんにはわりとしっかりお話出来るみたいだ。エリちゃんは少し警戒して、キュッと抱き着いてくる。それを見てアワアワする先輩。微笑ましいな。

「お顔ちょっと怖いけど怖くないよ〜」
「……お姉ちゃんのかしてくれた、漫画の人とおなじお耳してる」
「ああ、悪役令嬢転生隠しキャラ魔王最高! なやつの魔王さまと同じだね〜」
「なんてものを子どもに貸してるんだ君は……」
「情操教育情操教育」
「少し違うと思う……」

 流行りものは若い内に早めに触れてた方がいいじゃん? エリちゃんはツンだけどスパダリの魔王さまより、柔和で穏やかなもさもさ髪のサブキャラがタイプみたいだったけど。やっぱり全力で優しい人がいいよね。
 怖くない、と分かったのか、エリちゃんの小さな手が天喰先輩の大きな手と、そっと握手をしていた。かわいい〜かわいいの歴史的瞬間。 

「最初は有弓に言われるまま出てみただけなんだけど……何だかんだ楽しいし悔しいよ。だから今年は絶対優勝するの! 最後だもん」
「──! できるさ!」

 眩しいねじれちゃん先輩の笑顔。かわいいなあ。それなら、私も本気を出さないと失礼だよね、って思ってくる。

「じゃ、私も全力で優勝狙っていくんで、覚悟しててくださいね」
「──うん!」

 先輩に宣言して自分も追い込んでいくスタイルだ。頑張ろ。



「まーこんなもんかなァ」
「慣れ……っていうかどうだった!?」

 それからサポート科、普通科等いろいろと回って、食堂で一息だ。どこも忙しそうで楽しそうだったな〜。見て回るだけでちょっと疲れたもん。チウチウとりんごジュースを飲むエリちゃんの反応を、通形先輩と緑谷くんが覗き込んで伺う。ちなみに私は向かいの席だ。

「……よく……わからない……」

 まあ、初めての外出で、今日だしね。いろいろと情報量も多いことだろう。けど、とエリちゃんが繋いだ。

「たくさん、いろんな人ががんばってるから、どんなふうになるのかなって」

 お。好感触だ。微笑ましい。ずっと閉じ込められて、恐ろしい経験をしてしまったけど、ここからエリちゃんの心が育っていくんだろう。反対の席に座っちゃったから、撫でられないのが悔しい。

「それを人はワクワクさんと呼ぶのさ」
「!!?」
「わあ」

 思いもよらない乱入者の声に、ちょっとびっくりした。

「有意義だったようだね」
「根津校長! ミッドナイト先生!!」

 めちゃくちゃ恐ろしいぐらいの勢いで校長がチーズを齧っていた。やっぱチーズなの? ウケる、おもしろ。写真撮っちゃお、と構えたら、肉球の手でピースをしてくれた。え〜校長かわい〜。口田くんの個性で校長操れたりするのかな? お願いを聞いてもらってるだけだし無理?

「文化祭、わたしもワクワクするのさ!」

 どうやらこの度の文化祭開催に当たって、校長がなかなかに頑張ったみたいだ。まあ敵に確実に狙われてる学校が、校内だけとはいえお祭りフィーバーするってなったら外部からの圧力もあるだろうなあ。
 青春頑張ってね、と応援してくれる先生達の頑張りにも応えて、出し物、成功させなきゃね。

「デクさんは何するの?」
「僕たちはダンスと音楽! 踊るんだよ!」

 踊る、でエリちゃんの視線が一瞬私を捉える。よくエリちゃんの手を取ってダンスさせてるからだろうなあ。

「エリちゃんにも楽しんでもらえるようがんばるから、必ず見に来てね!」

 緑谷くんの笑顔に、エリちゃんの頬が期待か高調か、ポッとりんごみたいに赤く染まった。かわいい。



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