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エリちゃんとバイバイして、インハイツアライアンスだ。私のミスコン決め会議がなんか始まってた。私不在のまま。本人不在のお誕生日会か? と思ったけど、やっと帰ってきた! と強制参加だ。
ドレスの色、形、演出、ヘアメイク、女の子達はみんなこれがいい! とかこういうのが似合う! と色々と盛り上がってくれている。瀬呂くんとか上鳴くんとか、ついでに峰田くんとかも混じってこれがいんじゃね? って言ってて笑う。約一名スケベ目的だけど。水着は着ないよ。寒い。私のことに必死になってくれるの、ありがてぇてぇなあ、って思うけど、熱量すごすぎて聞いてるだけでカロリー消費してきた。お腹空いたかもしれない。チョコテリーヌ食べたいな〜。高級なとこのやつ。人のお金で。めちゃくちゃ食べたい。でも今絶対食べれないじゃん……悲しい……。
「……磨、磨!」
「ぁえ、ごめん、ボーッとして……なに?」
全く別のことに意識を飛ばしていたら、名前を呼ばれて伏していた目をパッと見開く。さすがに自分のことなのに話聞きてないのは申し訳パネェと思って見渡すと、なんかみんな頬を染めてこっちを見ていた。え、なに、こわ。ホラーゲームみたいな怖さあんだけど。なによ。
「……これだね」
「ええ、これですわね」
「いいと思う」
はぁ〜、と恍惚、としか言い様のないため息を三奈が吐き出して、ウットリとした眼差しで頬が自分の頬に手を当てる。うんうん、と謎に頷き合われた。置いてけぼりなんだけど。説明欲しい。
「……まじでなに?」
「や、磨ってさ、確かに普段からかわいいんだけど、」
「おっ、ありがとう」
褒められた。お礼は言う。パタパタと扇いで顔の熱を冷ましながら、三奈が説明を続けてくれる。
「こういう言動で儚さないじゃん」
「ンだと?」
「でも今、すっごい憂いを帯びた表情で黙ってるの、ちょー儚くて、やっばい美人だった……」
「……普段から儚い美人なんですけどぉ?」
「は〜、見慣れてるのに超見惚れちゃった」
「磨ちゃんって忘れがちだけど美人だよねえ」
「面が良い〜」
「普段から綺麗ですが、伏し目がちで憂鬱げだと、また趣が違って素敵ですわ」
超褒められてる。照れる。でもなんか普段の言動をdisられでる気もする。気の所為?
「じゃ、路線は決定だね!」
「うん、普段とのギャップで狙えるよ」
「……?」
「アホの顔してる」
「だって私だけ置いてけぼりなんだもん」
ぽかんと口を開けて呆けていると、響香に顎をソフトに閉じられた。話聞いてなかったのもあるけどいつの間に路線決定したの。多分ミスコンの話。
「だから〜、ミスコンの演出、かわいい系でも派手系でもなくて、さっきみたいな、こう、憂い? で行こ! って話」
「あ、ああ〜ほどなる」
憂い路線ね、把握。え、出来るかな。意識したことないんだけど。バカほどぶりっ子ごっことかの方がわりと得意。
「ちなみにさっき何考えてたの? 凄い切なそうっていうか、超儚げだったけど」
「さっき? あ〜……」
「まさか恋!?」
「や、全然違う。ある意味濃いけど」
「なんだ〜」
すぐ恋バナに繋げる女、芦戸三奈。マジで二人で話してると五分に一回それって、恋!? って聞いてくるからね。リアルに。アーン、おもしれえ女って感じだ。チェケ。
「あのね、」
「うん」
「チョコテリーヌ食べたいな、って考えてたの。高級なやつ。人のお金で」
「しょうもな……」
「食欲じゃん」
「チョコテリーヌってなに?」
「なんかヌットリしてるやつ」
女子勢にはなんやそれみたいな目で見られて、テリーヌを分かってない上鳴くんは瀬呂くんの大雑把な説明に余計に首を傾げていた。手に持ってる文明の利器で調べい、と思ったけど、百が丁寧に説明している。さすもも〜。
「だって食べたいんだもん。今すぐ。でも今すぐ高級チョコテリーヌイン人の金は絶対無理じゃん」
「そらね」
「って思うと悲しくなってた」
「アホ……」
表情の理由を話すと呆れられたけど、まあ、なにはともあれ方針決定だ! やった〜。満場一致だったので、多分いいんだと思う。自分で顔見れてないから分かんない。
「ドレスはどうしよっか」
「ん〜磨はどれがいいの?」
「ん、これかこれかこれかこれ」
「はやっ」
「でもかわい〜」
ペラペラと捲ったカタログの中から、これかわいいし私に似合うでしょ、と思うものを指さす。スタイルとかね、肌に合う色とか、いろいろあるから。そういうのはだいたい研究済だ。だって生まれ変わったら容姿抜群に良かったんだもん。着せ替えして遊びたくなるじゃん?
「あ〜ブルーのいいね」
「えー! 私はオレンジのええと思う!」
「ピンクは!? ピンクは!?」
「私は白もいいと思います」
「わあ、バラバラ」
ちなみにドレスは既製品、注文即届なのだ。学校からのカタログがあった。便利。裾直しはある程度してくれるけど、細かい所までは自分でね、ってやつ。あーでもないこーでもない、あっちがいい、それもいいね、と再び女子議論が始まって、瀬呂くん達は飽きてカタログをペラペラ眺めだした。三人とも声には出さないけどエロさ目線で見てるな、って顔をしている。男子高校生だね〜。
「あ、おかえり」
「お。ただいま。賑やかだな」
「クソうるせェ」
「今ね〜、ドレス決めてんの」
「ドレス? ……ああ、おまえミスコン出るんだったか」
「そうそう」
仮免の補講に行っていた轟くん、爆豪くんが帰ってきた。相変わらず今日も傷だらけだ。治そうか、と申し出ると頼む、と言われた。さっさと部屋に帰ろうとした爆豪くんは、腕を掴んでロックしている。離せとか何の用だとかギャンギャン吠えられている。特に用はないんだけど。
「ちなみに二人はどれがいいと思う?」
「どれだ?」
「この中、これかこれかこれかこれ」
iPadでカタログから、候補の4つを見せた。形はそれぞれ違う、ピンク、オレンジ、ブルー、ホワイトだ。全部かわいいから全部着た〜い。興味無ェ! って吠え散らかしていた爆豪くんも、黙って差し出したカタログを覗き込む。なんだかんだ協力的〜! 私のこと好きじゃん。
「「これ」」
「お、ハモってる」
「ハモんなクソがァ……!」
二人してカタログを指差す。ハモったのにキレんのはわりと理不尽でウケる。指したのは、爆豪くんは赤に近いオレンジの、袖がパフスリーブになっている、ふわっとしたかわいめのドレス。轟くんは紺に近い落ち着いたブルーに、黒いレースのあしらわれた、ちょっとセクシーで大人っぽいやつだ。なんとなく二人の好みが分かるよね。ニヤるわ。
「待って、ニヤニヤする」
「なんでだ」
「気持ち悪ィ」
「いや、二人の好みこういう感じかって、あいっ」
「てめェが聞いたンだろが!」
「いたいいたいいたい」
「爆豪、緩名が痛がってる」
「痛くしてンだよ!」
ちょっと、発言が意味深なんですけど。実際はアイアンクローのまま脳みそを揺すられてるだけなんだけどね。痛い。日に日に爆豪くんのアイアンクローの経験値上がってる気がすんだけど。私のおかげだよ、感謝して。
「で、どっちにすんだ?」
「え〜? まだ迷い中」
「人に聞いといて迷ってんじゃねェ」
「迷ってるから聞いてるんじゃん」
爆豪くんによって乱された髪を、轟くんが不器用に撫でて整えてくれる。ヤダ、愛され逆ハーレムみたいじゃない!? トドロキメモリアル継続中だ。
「ん〜」
「あ、二人とも帰ってきたんだ! おかえり」
「おお。緑谷、ただいま」
「……ケッ」
「ただいまくらい言おうよ爆豪くん」
「るせ」
「あはは、いいよ緩名さん。三人でどうしたの?」
部屋から降りてきた緑谷くんが、帰寮した二人に声をかける。おいでおいで、と手招きすると、素直に近付いてきた。イ゙ーッって逃げようとする爆豪くんは両腕で抑え込んだ。ほぼベアハッグだ。
「緩名のドレスを選んでてな」
「ああ、それで賑やかだったんだね!」
「緑谷くんはどれがい〜?」
「エッ、ぼぼ僕、そういうセンスはちょっと……」
「いいから」
「アッはい」
強引にカタログを見せると、少し頬を染めながらも真剣にまじまじと見ている。ドレスのカタログにすら照れるもん? 顎に手を当てた緑谷くんが、ブツブツとなにやら呟き出した。え、ここで? かっちゃん引いてんだけど。サブイボ立っててウケる。
「……白だ!」
「なにが? 私のパンツが? ぁいたっ」
「緩名、セクハラだぞそれ」
純粋なるセクハラ発言な、爆豪くんには額を叩かれて、轟くんには言い聞かされた。すみません。
でも、緑谷くんは白派か〜。意外だな。ピンクかと思った。透け感のある、レース地のホワイトドレス。露出は候補4つの中で一番多いけど、いやらしさがなくて、清楚、透明感、儚さって感じ。
「緩名さんの校内でのイメージって、わりと保健室でリカバリーガールの手伝いをしてることもあってか、色で言うと白に近いと思うんだよね。ぼ、僕は本当にこういうセンスはないし正直どれも、……その、緩名さんは、か……わいいから、似合うと思うんだけど、淡い水色のリボンもかわいらしくて良く合うと思うし、パッと見た時の印象が清楚で良いと思うんだ。それから、緩名さんのヒーローコスチュームを連想させる色合いでもあるから、白かな」
「あ、はい」
「あっごごごめん僕はまた……!」
具体的な話は聞いてないけど、今回の演出のテーマにも合ってるし、言われてみればヒロコスに近くもある。というわけで、白。白です。決定です。決定だ!
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