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 楽しく遊んだ後のお片付けを少し手伝って、仮免講習は終わりのようだ。ある意味ハードだな〜。先生達と外に出ると、士傑の先生と何やらお話があるようだった。
 なんでもあのギャルのお姉さんは、仮免試験中に敵連合の一人、トガヒミコに成り代わられていたらしい。目的も不明、雄英以外の学校にも手を掛けたことをキッカケに、今後の学校同士の交流をふかめていこう、ってお話だ。交流試合とかあるのかな? それは部活? なんか難しいオトナの話をしてるっぽいし、はえ〜と聞き流した。中身一応大人だったんだけどね。

「えんでばさん〜」
「どうした」
「見てみて」
「……これは焦凍か?」
「うん」

 みてみて、とスマホ片手に近寄ると、エンデヴァーさんの纏っている炎の勢いが弱まった。それでもちょっと熱い。さっき寒かったからちょうどいい。いつだかに撮った、轟くんとのお友達第一歩のプリクラを見せると、奇っ怪な物を見るような目をしている。絶対エンデヴァーさんもプリクラ撮ったことないよね。プリクラ撮ったことない人をプリクラに押し込めるの楽しいから行ってみて欲しい。
 送る? と聞くと、頼む。と一言。息子ラブすげ〜な。

「いいけど肩車して」
「……? 何故だ」
「キッズとの交流の練習練習!」
「ふむ、そういうものか」
「騙されてンぜエンデヴァー……」
「わーい!」

 完全に炎を消して少ししゃがんだエンデヴァーさんに飛び乗って、ヨジヨジと背中を登っていく。肩の上に座るとめちゃくちゃ高い。最高。オールマイトよりも高い位置にいる。この世界の人間デカい人多いから常に見下ろされてるじゃん? やっぱ人は見下ろしていきたいんだよね。レッツてっぺん人生。

「みてみてみてみて、私が一番高い〜!」
「ハハハ! よかったね、緩名少女」
「フリーダムだなァ」

 オールマイトに手を振ると、緩く振り返してくれる。エンデヴァーさんはチッ、みたいな顔をしたけど。マイク先生は呆れつつカメラを向けてきた。ピースしておく。士傑の先生と肉倉先輩にはとんでもないものを見るような目で見られた。珍獣か何かか? 自撮りしとこ。エンデヴァーさんのツムジと指ハート。

「えーー何肉倉。オールマイトと喋るとかマジ象徴ー」

 マジ象徴? 響きかわい〜。パクろ。背後からの声に振り向くと、着替え終わった四人が出てきていた。うわ、爆豪くん物凄いアホを見る目で見てきてる。やるかコラ。私の方が今高いんだぞ。

「ヤバイ何の話? 人生系?」
「貴様の話だ痴れ者が!」
「マジ? ヤバ。肩車もヤバ」
「いえ〜い」
「ウケる」

 ギャルのお姉さんに話を振られた気がしたので、とりあえずピースを返しておいた。視線だけを送っていたエンデヴァーさんが、ザッ、と轟くんへ歩み寄る。

「久し振りだな、焦凍。ずいぶん変わった」
「うるせェよ」

 スッ、と差し出したエンデヴァーさんの腕を、轟くんが弾いて避ける。まあ急に来られても、ってなるよね。個人的にエンデヴァーさんのことはわりと好きだけど、轟くんのことはもっと好きだし友達だし、どっちの肩を持つこともしない。冷たいかもしれないけど、嫌いなものは嫌いなままで良くない? って思うんだよね。そりゃ社会生活をする上である程度の寛容は必要だけど、親子なんだから、相手から熱心に歩み寄られてるんだから、とか、他人から言われてもうるせえ〜! 知らね〜! ファイナルファンタジー! ってなるじゃん。私ならなるし。

「おまえは自慢の息子だ」

 焦凍、とエンデヴァーさんが轟くんを呼んだ。轟くんの目付きがギャンギャンに険しくなって、エンデヴァーさんを睨み付ける。こんなやり取りしてるけど、エンデヴァーさん私を肩に乗せたままだから、擬似睨みつけられ体験って感じ。シュール。

「ならば俺も。おまえが胸を張れるようなヒーローになろう。父はNO.1ヒーロー……最も偉大な男であると」
「勝手にしろよ……あと緩名下ろせ」
「む」
「あっすみませ〜ん」
「焦凍、おまえも乗るか」
「乗らねぇよ」

 空気を呼んでなるべく気配は消してたけど、やっぱりダメだった。しゃがんだエンデヴァーさんからぴょん、と飛び降りてお礼を言う。人の上に乗るの大好き〜。

「エンデヴァアーーーー!!」
「!」
「わあびっくり」
「大丈夫か」

 バカデカボイスに驚いてよろめくと、轟くんが肘を掴んで支えてくれた。エンデヴァー! と歩いてくるのは夜嵐くん。声デカ。頬に殴った痕と血が出てる。さっきまで普通だったのに短時間で何があったの。

「俺、応援してるっス」
「──……ありがとう。血が凄い出てるぞ」

 エンデヴァーさんが、夜嵐くんに笑いかけた。以前のエンデヴァーさんをマジで知らないからあれなんだけど、変化、色々あったんだろうなあ。

「治そっか?」
「ありがとうございまっス!」
「幽白のOPみたいなってんね」

 ウケる。ちょちょいのちょいっ、と夜嵐くんにバフをかけて、ついでにハンカチを渡しておいた。唇血みどろじゃん。

「ガチ美少女。夜嵐知り合い?」
「緩名磨さんっス! スゲェ人っス!」
「女神です、どうも」
「ヤバ驚嘆〜」

 ギャルのお姉さん、現見ケミィさんって言うらしい。名前でいいよって言われたので、ケミィちゃんだ。

「どっちかとカレカノ? マジ青春〜」
「違いますよ〜ノー彼氏なの」
「マジ? ヤバ」
「ケミィちゃんは?」
「ウチの学校今時男女交際禁止なのー。校則古くない? マジ渇望」
「そういえば雄英どうなんだろ? 聞いたことないかも」
「おい、そろそろ帰るみてえだぞ」
「あ、はーい!」

 轟くんに呼ばれて、ペタペタと走っていく。ケミィちゃんとは連絡先を交換した。イケメンがいたら教えて〜、らしい。今度合コンしよ、とも言われた。外出許可、合コンで降りるかなあ。でも、やったあ、友達増えた。

「おまたせ」
「おっせェんだよアホ女」
「ごめんて」
「緩名」
「なーにー」

 バスに乗り込むと、爆豪くんに歯茎丸出しで悪態を付かれて、轟くんに名前を呼ばれた。ストンっとその隣に腰を下ろすと、バスが発車する。轟くんが目を細めて私を見た。

「……ちょっとアイツと仲良すぎじゃねぇか?」
「え? そうかな」
「肩車なら俺がする。だからあんま近付くな」
「え、ええ〜」

 束縛系彼氏みたいなこと言われた。ウケる。マジ驚愕。爆豪くんの方見て、そこじゃねェだろみたいな顔してるから。

「ん〜……エンデヴァーさんの方が大きいし」
「……俺も直ぐにデカくなる」
「えー! 轟くんがゴツゴツゴリラになるのはヤダ!」
「ふっ……」
「ブッ……!」
「……俺は親父みてえにはならねえ」

 静か〜に私達の会話を聞いていた爆豪くんか小さく笑って、先生たちは噴き出していた。ゴツゴツゴリラの轟くん、嫌じゃん。美青年がいい。嫌だ。

「肩車ならオールマイトがいい」
「おや、私かい?」
「でっかいし」
「緩名、おまえ自分の年齢知ってるか?」
「四捨五入10歳くらい」
「Ah……」
「マイク先生はトサカ刺さりそうだから嫌」
「告ってねェのに振られちまった! シヴィーぜ!」
「ガキか」

 生きた年月ならオールマイトには及ばなくてもマイク先生よりは長いんだけど、気持ちは常にフレッシュだ。若さは気から。ワイプシの人も言ってたし。

「ゴリラにならないでね」
「ゴリラにはならねぇ。大丈夫だ」
「キラキラの轟くんが好きだよ」
「ああ、ありがとう」

 轟くん以外からはなんちゅう会話しとんだコイツら……みたいな顔をされるが、無視だ、無視。
 バスから降りた後、寮までの道は、オールマイトに肩車してもらった。高くてちょっとだけ怖かった。



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