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 わらわらとちびっこ達が出てきたのを見て、先生が言ってたのはこういうことかあ〜、と納得した。よっしゃ、行こ。

「私ちょっと行ってくるね〜」
「ああ、行ってらっしゃい」
「あ! ちょっと待て……アァー……」

 マイク先生の制止は十中八九気まずい中に一人にしないでっていうアレなので無視だ。頑張れ。
 すたこらさ〜と下に降りると、ギャングオルカさんが小学校の先生と話していた。子どもうるせ〜。

「こんにちは」
「ああ、君か。話は聞いている」
「んふ、かわいい〜」
「かっ……!?」

 シャチかわいい。いいな。補講生相手じゃないから、比較して態度がめちゃくちゃ柔らかだ。なんかあの厳しいの、無理したキャラらしいよ。緑谷くん情報。

「ハグしてもいいですか?」
「ハグ……!?」
「わあ、かわいい〜!」
「すげぇぞあの子……」
「シャチョーがたじたじだ」

 サイドキックの人たちもコソコソ話しているけれど、ギャングオルカさんが睨み付けると一瞬でピシッと姿勢を正して静かになった。すご〜い。拍手。

「じゃあ握手。インターンでお世話になることもあるみたいなので、よろしくお願いします」
「……ああ、よろしく頼む」
「やっぱりかわい〜!」

 手を取るとなんかすごい瑞々しい。瑞々しいってか水。濡れてる。乾燥は敵なんだっけ? ウェッティ。かわいい。サイドキックの人達にも、これからよろしくお願いします、とぺこりと頭を下げたら、なんか拍手された。謎拍手〜。

「じゃあ、邪魔しない程度に子どもたちと戯れてきま〜す」

 いつの間にかマイク先生が実況席に座ってる。どうしたの。寂しくなっちゃったのかな? ウケる。

「ねえねえ」
「またなんか来た」
「なによ! 年上の女はムシよ、ムシ!」
「あのね〜聞きたいことがあるんだけど」

 しゃがみこんで、近くにいた女の子達に話しかける。ムシムシ、って言ってるのに話聞いてくれてる。いい子達じゃん。

「最近何好き?」
「なに?」
「え〜なんだろ」
「わたしはね〜……秘密だよ、ショウくん!」
「えっかわい〜!」

 小さい子の恋バナかわいいな。

「ぷりゆあとか流行ってる?」
「私達もうそんな子どもじゃないのよ」
「え〜! 私好きなのに……」
「お姉ちゃん、元気だして。私も好きよ、プリユア」

 シュン、として見せたら、女の子の一人が背中を摩ってくれた。優しい。

「お姉ちゃんは好きなものある?」
「私? 私はね〜たくさんの男に愛されるのが好き」
「分かる〜!」
「お姉ちゃん素敵な趣味してる〜!」
「ガキ相手に何言ってんだアイツ」
「なんか仲良くなってねェか」

 乙女ゲームの話をしてたら爆豪くんと轟くんになんか指さされてた。しーらない。

「今の流行りはあれだろ〜」
「よもやよもや!」
「うまいうまい!」
「逃げるな卑怯者〜!」
「おまえも鬼にならないか!?」

 急に鬼狩りが増えた。ウケる。確かに流行ってるけど、ヤクザドンパチ抗争のド真ん中で巻き込まれてたエリちゃんには、ちょっと刺激が強すぎるかもしれない。ちっちゃい子に流行ってるの凄くない? 血ブシャアだよ、あれ。

「緩名、すげぇな……子どもに囲まれて仲良くやってんぞ」
「ケッ。精神年齢が変わらねェから同類と見なされてンだろ」
「それはド失礼! 私に!」

 いろいろとリサーチ出来た。結果、みんなそれぞれ好きな物は違う、ということが分かりました。なんの成果も得られませんでした! にほぼ近いけど、参考にはなった。やっぱり乙女ゲームだ。それしかない。私に失礼な話をしている補講ボーイズに近寄って、ツンツンツンツンと頬をつついて逃げる。ァにすんだコラ! とキレる爆豪くんに、子ども達をけしかけた。イケ、ゴー! 子どもは素直でかわいいねえ。

「ただいま〜」
「オーゥ緩名! おまえすげェな! 一瞬でキッズの心を鷲掴みだったじゃねェか!」
「へへ、慈愛溢れる聖母なので……」
「若干緩名さんの方があやされてましたけどね……」
「ぁん?」

 マイク先生の元に戻ると褒められたが、その隣の隣に座っていた人には若干貶された。隣の人はちびっこ達の学校の先生らしい。だれだっけ、えーと。

「ああ、レム睡眠さん」
「目良です」
「そうそうそう、睡眠不足さん」
「目良です……まあいいです」

 ちょっと詰めて、とマイク先生の座ってる椅子にケツを捩じ込む。せっま。マイク先生デカすぎるよね、普通に。オルマイとエンデさんがデカすぎるから麻痺ってたけど。小学校の先生は常に涙ぐんでおられる。可哀想に、子どもはだいたい生意気だから、真面目な人ほど気負うだろう。ヨシヨシと背中を撫でた。優しそうな人だ。

「目良さん何徹目?」
「なんですか急に」

 泣いている先生の背中を撫でながら、目良さんに聞いてみた。隈すご〜い。心操くんより凄い。

「二日目……三日目だったか? そのあたりです」
「ひゃあ〜ブラック〜。寝ないの?」
「寝れたら寝てます」
「かわいそう……」
「別にいいんですが、何でしょう。その憐れむ目はイラッときますね」
「イラッとこられちゃったあ」
「大人しくしとけェ緩名」

 全然大人しくしてないマイク先生には言われたくない台詞ナンバーワンだ。今日付け。よいしょっと椅子から降りて、目良さんの隣に立った。寝りゃよくない? と思うけど、社会人、寝れない理由もあるよね。わかるわかるよ君の気持ち。

「そんなあなったっに〜」

 ぐり、と人差し指で目の横、こめかみの当たりを押した。嫌そうな顔だけど指摘するのも面倒臭い、みたいな顔だ。ウケる〜。

「ていっ」
「……? なんですか、これ」
「疲労回復〜」
「はあ、なるほど」

 個性の応用、応用って程でもないかな? で、疲労回復促進をレリレリゴーした感じだ。ふわっとしすぎだけど私も仕組みあんま分かってないんだもん。

「結構効くっしょ?」
「ええ、ありがとうございます」
「これでいっぱい働けるね!」
「最悪だ……」
「鬼かよ」
「天使だもん」
「相変わらずクレイジーだなァ」

 少しスッキリしたように首を回す目良さんにニコッと笑った。上げて落としちゃったから笑って誤魔化せ作戦だ。疲労回復、相澤先生にはたまにやるんだけど、それ以外の人には初めてやったかもしれない。
 そんなこんなしてると、おチビちゃん達が爆豪くん達に攻撃を仕掛けていた。容赦ね〜。ジャリガキだ。まあ、そんな温い攻撃にやられる程弱くはないと知っているので、わははと笑っていられるけど。止めようと飛び出した間瀬垣小の先生をどうどうと宥めた。ビュンッ、とどこから飛んできたのか、糸目の士傑の人まで実況席に加わる。誰?

「士傑高校二年、肉倉精児である」
「ししくらパイセン?」
「……うむ」

 見上げると、なんか頬を染められた。え〜、私のこと好きなのかな。ポジティブには自信があります。
 肉倉先輩は、仮免には落ちたけど許可を取って観覧しているらしい。へ〜。言葉使いというか言い回しがなんか、なんかあれだ。回りくどい的な。ウケる。

「オイオイ。君の可愛い顔が見てぇんだ。シワが寄ってちゃ台無しだぜ」
「んぐふっ」

 ギャルのお姉さんの個性らしく、幻で作られたキラキラした轟くん。普段とのギャップありすぎてマジで笑う。爆豪くんもドドド珍しくツボっているけど、分かる、そうなるよね。ヒィ、と声が漏れそうになるのを、マイク先生の肩に顔面を押し付けて抑えた。

「はー……むり……しぬ……ヨダレ出た」
「オイ! 何してんだクレイジーガール!」
「エンジェルプリティガールにして」
「おまえさっきの轟笑えねェからなソレ」

 うそうそ、付けてはないよ。ギリ。
 笑い疲れていたら、講習を受けている四人が結託し始めた。大きな氷が現れて、それを夜嵐くんの風で削って形を整えていく。オーロラのように見えるのは幻だろう。あっという間に氷のお城の完成だ。今世でオーロラ初めて見た〜! 最高! 氷のおかげでひやっとするし、めちゃめちゃいい感じだ。寒い。

「ワオ」
「きれ〜」

 めちゃくちゃ綺麗だ。いいな〜私も遊びたい。氷の滑り台絶対楽しい〜! レリゴーしちゃう。轟くんに頼んで今度やってもらおっかな。

「完全にいなしつつ心を折らずに交流を深められる立案か……」
「こういう使い方良いよなァ。ホッコリするもん」
「ロマンティックだよねえ」

 入学当時の轟くんが嘘のように大人になったというか、他人に対して興味が出たと言うか。すごい成長だ。そういう意味でもホッコリできる。一人離れていた少年を、爆豪くんが連れて行っていた。なんだろう、息子の成長を見守ってる気分。産めそう。産んだかも。



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