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「んじゃパパッと結果発表」

 持久走、疲れにくい身体になったとはいえやっぱり苦手だ。八百万ちゃんが原付乗っててまじか〜! って驚きもあったけど羨ましさの方が勝った。発想の勝利。天才。『創造』の個性、賢い人が使うと半端ないね。

「ちなみに除籍はウソな」

 パパッと結果を投影した先生の台詞に、ほわあと間抜けな声が出た。いや〜うん、良かったけど。あ、 ちなみに順位は4位。まあまあでまあまあな結果だ。

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 う〜わ、出た。合理的。今日一の笑顔を見せる先生に、やだやだと隣にいた八百万ちゃんの肩に頭を押し付けた。あんなのウソに決まってるじゃない……、と言っていたけれど、あの人、普通にそういことやりそうだから怖い。ぐりぐりと頭を押し付けていると、戸惑いながらも微笑んで撫でてもらえた。葡萄頭の子の視線が凄い。

「緩名さんもお疲れ様です」
「八百万ちゃん……百って呼んでいい?」
「え? ええ! もちろん! 私は磨さんとお呼びしますね!」

 名前呼びには許可取りたいタイプなんだよね、私。嘘、相手に寄る。突拍子もない名前呼びの許可に百は目を丸くしていたけれど、すぐにかわいく笑ってくれた。ロイヤルかわいい。「百合っ子……」と涎を垂らす葡萄に、ひょろっとした日本人顔の男の子がコラ、とチョップしていた。ナイスだ。あと別に百合っ子な訳ではないから。



「緩名少女」
「あら、オール……」

 流し読みしたカリキュラムその他諸々を鞄に詰め込んで、下校ついでに散策に校舎内をふらついていたら、ひょろりと痩せた背の高い姿に呼び止められた。思わず名前を呼びかけたのを慌てて止める。そういえば、彼のこの姿は非公表らしい。気を使わせてすまないね、笑う痩身の男性こそ、あの筋骨隆々なNO.1ヒーロー、オールマイトである。八木でいいよ、と言われたので、ヤギさんと呼ぼう。ちょっとかわいい。

「こんにちは。どうかされました?」
「いやなに、歩いていたら君が見えたからね。改めて、合格おめでとう」
「わあ、ありがとうございます。律儀ですねえ」

 この姿のオールマイトとは、以前、一度会っている。その時にも祝いを告げてくれたが、律儀な人だ。ナンバーワンの人柄が伺える、気がする。お祝いはなんぼあってもいいもんね。

「お加減はいかがですか?」
「ハハ、勿論、調子は抜群さ!」
「う〜ん。あんまり、無理はしないでくださいね」

 それじゃあ、と頭を下げると、また明日ね、と手を振られたので振り返す。気さくでチャーミングだよね、オールマイト。
 オールマイトの弱体化。秘匿中の秘匿であるその姿を私が知っているのには、理由がある。そんなに重たい理由ではないんだけど。
 オールマイトは数年前、なんかすっごい強くて悪い敵と戦った時に重傷を負って、その関係で活動可能時間が短くなっている、らしい。私が聞いているのなんてそのレベルだ。呼吸器半壊に胃袋全摘出。その傷跡だけで、戦いの激しさを知れた。
 リカバリーガールの個性での治癒は、その人の体力に依存する。そのため、弱っている人相手だと、体力を削り取って逆に相手を殺しかねないこともあるそうだ。私の個性、『バフ』での治癒は、言ってしまえば上乗せだ。身体の回復力そのものを、その人自身の状態に関わらず向上させる。同じようなものだけれど、私の個性の治癒が原因で死に至ることはない。はず。多分。自分でも未だに個性について理解出来ていないので、多分としか言えないけど。肉体の欠損は、身体が自然に治すことのできる範囲でなら出来ないこともが、もっていかれた腕1本治す、等の治療は出来ない。
 人体の治療を出来る個性は、この個性社会でも極めて珍しいらしく、ほんの僅かでも、の可能性にかけて、雄英入学を機に私にオールマイトの怪我の治療ができないか? との依頼が回ってきたのだ。本当に入学のついでだったけど。まあ、結果は、力が及ばず申し訳ない、って感じだった。
 改めて考えると、自分の個性、めちゃくちゃ便利だな〜と思う。使い勝手がいい。治癒なんて、今までは近所のおじいちゃんおばあちゃんの腰の治療とか、学校で擦りむいた膝の手当とか、最悪で骨折くらいしか出来たことがないけど。人生でそんな他人の大怪我に出会す機会ってなかなかないよね。
 だから、今日いきなりかなりの大怪我をしていた緑谷くんにはびっくりした。大丈夫なのかな〜彼。個性使う度にあんな自損事故してたらまずくない? 治しきれなかったのも、今まで個性を有用に使ってこなかったからだな、と思うと、これから頑張ろっかな、なんてらしくない気持ちになった。



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