09



「ああああの、緩名さん!」

 翌日、朝、登校すると一番に緑谷くんに声をかけられた。ほんのりと顔が赤くなっていて、ははーん、これはと思い当たる。朝の教室、人はまだまばらだけどそこそこいる中で、意外と見かけによらず勇気があるのかもしれない。

「おはよ〜、緑谷くん。告白?」
「えっ!? あっちちち、違うよ!」
「え〜なんだ、違うの? ざんねん〜」
「ヒェッ……」
「あっやば、緑谷くん死んだかも」
「朝から何してんの……」
「おのれ緑谷……」

 覗き込んでちょっとからかうと、真っ赤どころではなく緑谷くんの顔が紅潮していく。かわいくてうける。ひゅっと息を吸って身体を固くした緑谷くんをわははと笑いながら腕のあたりをつつくと、耳たぶの特徴的なボブカットのパンキッシュガールが突っ込んでくれた。ちょっと引いた目で見られてる気がする。え〜ん。峰田くんは懲りないな。

「おはよ〜。あなたのお名前なんですか?」
「緑谷ほっとくんだ……。耳郎響香、よろしく」
「緩名磨です。楽に呼んでね」

 ウチも好きに呼んで、って言うので、お言葉に甘えて響香と呼ばせてもらうことにした。

「てか緑谷大丈夫なの?」
「なんかね〜、反応ないなった」

 硬直した緑谷くんを見ると、昨日の怪我は綺麗に治っているみたいだ。多分それか個性関連の話だろう。やっと戻ってきたのか、あ、あの……、と蚊の鳴くように話す緑谷くんの声に耳を傾ける。

「昨日は、その、ありがとう」
「どういたしまして。その後いかがですか」
「あ、うん! 緩名さんのおかげでなんとか」
「ふふ、よかったです」

 まあほとんどリカバリーガールのおかげだろうけど、良かった良かった。けど緑谷くん、個性使う度に怪我するのかな? 大丈夫なんだろうか。

「それで、よければ緩名さんの個性について聞きたいんだけど、」

 緑谷くんが言いかけたところで、ガラッと扉が開いて先生が入ってきた。あらま。緑谷くん、タイミングに恵まれないなあ。後でね、って人差し指を口元に立てて言うと、こくこくこくと頷いて席に着いた。赤べこみたい。おもろじゃん。



 ヒーロー科と言えど、一般科目は進むスピードは速いが極々普通の授業だ。進行は速いけど。雄英、授業内容も頭のいい人のレベルで進むから人生2度目でもちょっと焦る。2度目だからこそかも。
 お昼は百と響香と食堂に行った。美味しすぎて感動した。元々の値段も安価だけど、毎月半月分の食事補助が出ることを、これほど感謝すると思わなかった。ランチラッシュ最高。もう土下座して靴舐めれる。
 そして午後一の授業。

「わーたーしーが!!」

 ヒーロー科特有。ヒーロー基礎学だ。

「普通にドアから来た!!!」

 声デカいな。身体もデカい。うーん、慣れない。

「オールマイトだ……!すげえや本当に先生やってるんだな……!!」
「銀時代のコスチュームだ……! 画風違いすぎて鳥肌が……」

 やばい、オールマイトについて詳しくないから何言ってるか分かんない。やっぱ皆オールマイトに憧れるものなのかな?小、中と数人はオールマイトオタクが必ずいた気がする。アメコミっぽいし凄いもんね。筋肉のすごいオールマイトは圧倒的安心感あるけど、私はトゥルーフォームの方がわりと好みだ。

「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!!」

 「BATTLE」と書かれた札を見せ付けてオールマイトが言った言葉に、幾人かが反応する。早速すぎるよ、ヒーロー科。

「そしてそいつに伴って……こちら!」

 オールマイトが言うと共に、ガゴッと教室の壁が動いて、中から戦闘服のケースが現れた。すご〜い。




「うわあ〜」

 更衣室、21と書かれたケースから取り出したコスチュームを見て、思わず声が出た。後ろから三奈が覗き込んでくる。

「どしたの?」
「いや……なんか……こんな感じなんだあ……」

 ヒーロー科には、『被服控除』と呼ばれる物がある。要望出したらコスチューム作るよってやつ。
 ヒーローに詳しくない私は、まあ表立って戦うことがメインじゃないし、後から要望出して改良していくもんだと面接時に聞いたので、わりと適当に「汚れが目立たない」「動きやすい」しか要望を出さなかったのだ。

「なんか……えっちなんだけど……」
「あー……」

 黒のハートカットのベアトップワンピースに、黒の中華風の長袖ショートボレロ。スカート丈は長めだけどタイトで、ざっくりとスリットが入っている。確かに動きやすいけど!ボディラインを強調するようにぴっちりくっきりぱっつりしている。ボレロで隠れはするけれど、少し動けば谷間がまるみえだ。ブーツ、それからガーターを付けて、ファンタジー系エロゲの中華版って感じ。ケースには、希望が少なかったので腕によりをかけてかわいくしました! と要約するとそんなことが書かれた説明書が同封されていた。いいのか、ヒーロー。本当にいいのか。
 周囲に視線をやると、麗日さんも気まずげに視線をさまよわせた。ピチピチだ。蛙水さんもぴっちりしている。三奈も。百に至ってはなんかもう、いいの!? って聞きたくなったけど、本人曰くこれでも布面積が増えた方らしい。意外な一面じゃん。

「大丈夫大丈夫! 私なんかほぼ裸だよ!?」
「透のそれはまた違うじゃん。っていうか裸やばくない?」
「やばい!」
「寒くない?」
「これから暖かくなるしギリいける!」
「いけてなくてうける」

 ほぼ全裸の透を見てたらなんかいける気がしてきた。

「磨やっぱりスタイル超良い〜!」
「まあまあまあ。三奈もスタイルいいしかわいいよ」
「うわっ胸おっき」
「格差……」

 腰に抱き着いてきた三奈が胸元を揉んでくるのは放っておく。自分の胸元にぺたんと手を当てた響香からは、そっと目を逸らした。これからだから。大丈夫。



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