企画文 | ナノ

【背中に、黒。】

12(13/16)



振動の少ない車内に僅かに感動しつつ、景色を眺める。
普段の帰路を少し逸れ、だんだんと人気の無い路地へと入っていく。次第に日本庭園を備えているものを連想させる家屋に車は停まった。


「降りると良い」

「っ、あざす」


タカミの祖父に先導され、シンマはタカミの家へと足を踏み入れた。後ろに控えている黒服の男の鬱陶しい威圧を気にしつつ、ドラマでしか見ないような光景に少なからず好奇心が沸々と沸き始める。


「なんだ、珍しいか。本来日本人が住むにはおかしくない家屋だろう」

「殆ど残ってねぇもんでしょうよ、こんな立派な日本家屋なんて」

「ハハハッ! 嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。この家は俺の夢の一つだからな。気分が良い」

「そうですか」


恐らく客室に案内され、慣れない高級な革張りのソファへと腰掛け、向かいにタカミの祖父、その後ろに黒服の男が立った。


「で、何話す事あるんすかね。アイツの背中の事なら口外しないし、アイツからも釘刺されたし。それに付け加えるなら、卒業するまでという期間付きだし、卒業した後なら誰かに言っても問題無い範囲内ってわけだろ?」

「ほう、その身形の割には頭は悪くねぇな。それなら話が早い」

「何?」


ドラマで見るような葉巻やパイプではなく、普通の煙草を手にして火を点けるタカミの祖父は一つ煙を吐いて続けた。


「お前さんの事を信用していないわけじゃねぇが、こちらも色々と事情があってだな。アイツの背中の事を知られたからにゃあ、ちょいと話をせにゃあならん」

「喋らなきゃあ良いんじゃねぇの?」

「それは子供の間だけの話だ。大人の話じゃあ、ちょいと変わる」

「どう変わるわけ」


当たり前だがその意図がわからないシンマのその態度にタカミの祖父は少し馬鹿にしたように笑い、灰皿に煙草を置いた。


「アイツがお前さんに見られたという事は、その鉄壁が崩れたわけだ。修復している間に潜り込まれちゃあ、おしまい」

「……回りくどい言い方しなくて良いんで、直球でどうぞ」

「ほう……じゃあそうしようか。この事が他の奴にバレでもしたら、アイツの身が危ねぇんだ。まだ身を守る術もきちんと出来てねぇ。更に言えば、うちの穴になるわけだ。そこに付け込まれちゃあうちの格も落ちる」

「本当に大人の話っすね」


難しい話にシンマが苦笑する。客としてちゃんと招かれているようで、前に出された玉露茶に口を付けて膝に頬杖をついた。


「んで、オレはどうすればいいんスかね」

「二つ選択肢をやる。選ぶと良い」

「はぁ」

「消されるか、うちの組に入るか、選べ」

「は、冗談だろ」

「ここまで来て俺が、冗談を言うように思うか」

「……」


タカミもだが、このタカミの祖父もどうにも取っ付き難いというか面倒臭いと思うシンマ。帰りたいがどう考えてもそこの黒服の男や恐らく外に控えている部下にだって取り押さえられるに違いない。
かと言って、どちらの選択も自分のこれからに予測していない事ばかりで、選ぶわけは無い。


「答えが出ねぇんなら強制的に組に入れるが」

「普通にどっちも嫌だけど、ふざけんなよ爺さん」


煙草の火を消してソファの背に凭れるタカミの祖父にシンマはピシャリと拒絶の言葉を向けた。


「お前、頭に向かってっ――」

「まあまあ、気にするな」


すかさずタカミの祖父の後ろに居た黒服の男が拳を握るが制され、元の位置に戻る。
勿論タカミの祖父も拒絶される事は予測していた。まだ高校生の子供。実感が無いに等しいあやふやな状況下での選択を、今初めて会った人物に迫られているわけだ。しっかりと意思があっても拒絶するだろう。


「将来卒業して、組に入るってんならそれなりの待遇もしてやる。アイツが卒業して、一人前になって継げるような格になったら、改めてお前さんに別の道を用意してやる」

「だから嫌だっつって――」

「――その必要はありません、お爺様」


尚も半強制的に選択をシンマの口から言わせようとするタカミの祖父に、シンマも少し苛立ちながら答えようとした時、部屋の外から凛とした声が聞こえた。



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