企画文 | ナノ

【背中に、黒。】

11(12/16)



あれから特にタカミがシンマに対する態度が変わる事も無く、シンマもそんなタカミに態度は変えず普通に過ごしていた。

あの事があったが、何も変わっていないのだ。


「……フフッ」

「なんだ気色悪いな」


何も変わっていない、というのは訂正される。シンマにとっては少しだけ変化が出た。

あの時言われた「信用出来る」という言葉をふと思い出し笑いしてしまっただけでも、タカミが声を掛けるような距離感になってしまったのだ。


「っせーな、思い出し笑いだ」

「ああ、失敗したな。お前のように『ウルセェ』と言えば良かったか」

「喧嘩なら買うぞ」


今まで視線だけだったタカミの態度が時折、声を掛けられるようになったのだ。
勿論、仲良くなったつもりはない。現に今もタカミの視線が気に障り殴り合いする事は無くなっていない。勿論シンマもタカミも全力で殴り合うのは変わっていない。


「血の気が多いとどうも面倒臭いな、お前こそカルシウム不足なんじゃないのか」

「生憎、普段のオレは温厚で、喧嘩なんて売られねぇ限りしねぇ良い子だ」

「良い子は喧嘩を買ったりしないだろう。それに、お前から俺に喧嘩を売るし」

「いちいち上げ足取るような言い方しか出来ねぇのかよ、口もウルセェな」


そんな二人の微妙な変化に、クラスメイトも気付いていた。


「まあ随分と仲良くなって」

「なんかあったのかな……あ、俺の席がー」


喧嘩をするのは変わらないが、どこか打ち解けたような雰囲気を感じていたクラスメイト。しかしながら教室内での喧嘩は困るので早急に教師を呼びに行くのだった。


「――あー、そうえいば新しいガム買わねぇと」


放課後になり、シンマは頬に貼られたガーゼを一撫でしてからコンビニへと足を向けた。
明日は唯一買っている漫画の新刊発売日だから本屋へ行こうとか考えながら歩いていると、ふと隣に黒い車が停まった。

――うわー高そうな車。

一瞥して通り過ぎようすると、窓がゆっくりと下がり、中から人の良さそうな老人が顔を覗かせた。


「少し良いだろうか」

「……あ? オレ?」

「ああ、君だ」

「なんすか」


老人の事を考えてか、幾分車高が低い為シンマは老人の顔と同じ高さぐらいに屈んだ。


「……ああ、君だな、間違い無い。その鬱陶しい髪色は他に見ない」

「あ?」


どこかで聞いた事のある言い回しにカチンと来たシンマに、老人はクツクツと笑い少ししゃがれた声で懐から一枚の写真をシンマに見せた。


「うちのもんの件で、ちょいと話がある。着いて来てくれるだろうね」

「っ……」


有無を言わせない老人のその言葉に言葉を詰まらせたシンマは、見せられた写真に目を見開いた。


「可愛いだろう? 私の孫だ」

「じゃあ、アイツの言っていた爺さんがっ……」

「ちゃんと話していたんだな。その通り、俺だ」


逃げられないようにいつの間にか背後には複数の黒服の男達が構えており、シンマは一つ息を吐いて体を起こした。


「逃げやしねぇよ、話すだけなんだろ?」

「予定はな。まぁお前さんの行動次第では多少手荒になるかもしれねぇがな」

「この場で話すわけにいかねぇの」

「そんな短い話をする為だけに、こんな目立つ車でわざわざお前さんの前に現れるわけねぇだろう」

「あっそ」


胸中で「似過ぎだろ」と思いつつ、黒服の男に促されタカミの祖父の乗る車へと乗り込んだ。



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