企画文 | ナノ

【背中に、黒。】

10(11/16)



「――なんだ、アイツ来てんじゃん」


翌日、シンマの予想ではタカミは暫く休むものだと思っていたが、タカミはいつもと変わらず一人だけ長袖を着て自分の席に着いていた。
シンマも自分の席に着き、鞄を机に掛けてポケットに入ってるガムを一つ口に放り込んだ。

本を読んでいるタカミは特にシンマに話し掛ける事も無く、普通に一日が過ぎたのだ。


「――少し、良いか」

「っ、おう」


放課後、教室内の生徒がだいぶ帰った頃、初めてタカミがシンマを呼び出した。
シンマはというと、今日タカミは来ないものだと思っていたせいもあり色々と拍子抜けしている。それにタカミからの呼び出しは初めてだ。どう考えても昨日見てしまった背中の事について釘を刺すか何かアクションを起こすのだろう。

――今日はウルサくねぇな。

ふと、タカミの後ろを歩きながら思う。いつも、あのウルサイと思う視線が必ず最低でも三回はあったはずなのに、今日は一度も無かった。
そんな違和感に近いものを感じながらタカミに案内され着いた所は人気の無い空き教室。放課後になれば、残っている部活生ですら来ないある意味穴場な教室だ。


「誰か来られたら困るからな」


そう言ってタカミが後ろ手に扉の鍵を掛ける。
普段殴り合っている上に、昨日の事もあり思わず身構えるシンマに、タカミは特に眉を顰める事も無く口を開いた。


「昨日の事だが……」

「アレなら別に誰にも言いやあしねぇよ。つか先公知らねぇのかよ」

「誰にも言っていない」

「……あ、そ」


昨日のように動揺する事も無く凛とした態度で居るタカミに、シンマはどこかホッとしながら、タカミの話を聞く事にした。


「昨日見た事を口外してほしくない。高校生活だってあっという間だ。その間だけ誰にも言わないでほしい。卒業した後なら、誰に言いふらしても構わない。卒業するまで、どうか、黙っていてほしい」

「……」


初めて、タカミが自分に頭を下げた姿を見たシンマは、タカミの誠意や、背中の事の重大さをその姿だけで示した事に感服した。

――ここまでの物なんだな。

好奇心だけで背中のそれに興味を抱き掛けたシンマだったが、そんな軽い話ではないというのを悟った。


「あの、さ。アンタが嫌じゃなきゃで良いんだけど、どうして『ソレ』が?」


シンマの問いに、タカミはゆっくりと体を起して、自分の家の事、いずれ自分がその跡を継がなければいけない事、シンマが納得するであろう最低限の事を話した。

その間シンマは静かに、口内にあるガムも噛まずに真っ直ぐタカミを目を見て聞いていた。初めてこんなに長い間目を合わせているかもしれない。
ウルサイと思う視線が、こんなにも真っ直ぐに直接伝えて来るような純粋なものだと、初めてシンマはわかったのだ。


「はー、なんつー爺さんだ」

「あの人一代で築き上げたものだから、そんな思考に走るんだろう」

「……本当に継ぐのかよ」

「その為の背中の『コレ』だ。一生消えないその証を祖父は嫌でも自分の手元に置く為に、彫らせたんだ。直接血の繋がりがあるのは、もう俺しか居ないからな」

「なんか、寂しい爺さんだな」


何気なく、呟くように答えたシンマに、タカミは片眉を上げる。
そんなタカミを見てシンマは慌てて首を振った。


「他意は無ぇからな、勘違いすんなよ。悪く言ったわけじゃねぇ」

「ああ、気にしていない」


特に気に留めず、タカミは扉に背を預け腕を組んだ。


「それで、イエスかノーか、まだ返事を明確に聞いていないが」

「ああ、イエスだイエス。言わねぇって、安心しろ」

「そうか。それならこの話は終わりだ」


そう言ってタカミが扉の鍵を開錠し出て行こうとする事に、シンマはまた拍子抜けする。


「なんだ、案外あっさりだな。そんなにオレ、アンタに信用されてんの」


茶化す意味で言えば、一度足を止めてタカミが振り向いた。


「――俺が信用出来る唯一はお前だけだ」


どこか笑ったような気がしたが、それを確認する前にタカミは教室を出て行った。


「……は?」


一人残された空き教室でシンマの声が響いた。



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