企画文 | ナノ

【背中に、黒。】

08(9/16)



どうやら彼はなかなかに執着心が強いようで、額の湿布と金網で傷が付いてしまったのか頬に数枚絆創膏をしていて、なかなかに居た堪れないものだ。
タカミはというと、これ以上さっきの話はしないし、これからシンマと彼の喧嘩もあるという判断をし、その場を立ち去る事を選んだ。


「おいどこへ行く」

「俺はこの喧嘩に一切関係無いから教室に戻るんだ」


前に立ちはだかられタカミが怪訝そうに眉をしかめる。彼はニヤリと少し恐怖を抱きそうになるくらい不気味な笑みを浮かべた。


「いいや、テメェにも関係あるんだ、よッ!!!」

「グッ!」

「なっ!?」


反応が一瞬遅れてしまったタカミは彼に頬を殴られ、その勢いでタカミは窓ガラスにぶつかり割ってしまった。

さすがにシンマもそれには驚き、慌ててタカミの前に立ち彼を睨んだ。


「おい、コイツは関係無ぇだろッ!」

「あるんだよな、これが」

「ああッ!?」


彼の言葉にシンマが片眉を上げる。彼はタカミを睨みながら続ける。


「教室の時も、屋上の時も、テメェはコイツとの喧嘩を邪魔しやがる。勿論テメェは一言も喋っていねぇし、勝手にコイツがテメェの何かが気に食わねぇからテメェに突っ掛っているだけ……だったらテメェも巻き込めば良い話だ」

「……理論は滅茶苦茶だが、手っ取り早い方法だな」


タカミが殴られた頬を擦りながら真っ直ぐに彼を見る。その真っ直ぐ向けられた視線に彼が一瞬怯んだが、奥歯を噛み締めて拳を握る。


「お前のせいで俺も巻き込まれたじゃないか」

「ウルセェ、っと」

「よそ見してんじゃねぇよッ!」


少し苛立った声色にシンマはバツが悪そうに返すと、彼が二人が話しているのに拳を振り被る。
窓ガラスが割れた事により校舎内からざわざわと野次馬が集まり始め、直に教師達が来るだろうと考えたシンマは、無駄な喧嘩をしないようにと避けて極力手を出さないようにと彼を観察した。

舎弟を持っているだけあって彼はそれなりに強いようで、とても飴を額にぶつけられて負けるとは思えなかったが、まあ事実を二人は見ているので、そこまで脅威に感じなかった。


「……鬱陶しいなあ」

「あ?」


不意に後ろから聞こえたタカミの声にシンマが振り返ろうとするのと同時に横を通るタカミ。そのタカミの眼差しは凄く冷たく感じ、思わず息を呑んだ程だった。


「お、なんだ、テメェもやる気に……っ!?」


タカミは真っ直ぐ彼を見つめ、真っ直ぐ彼に向かって歩を進め、真っ直ぐ彼の首へと手を伸ばして、掴んだ。


「おい、お前……いい加減にしろ」

「んなっ!?」


首を掴んだ瞬間に怯んだ彼の隙を付いてタカミが彼の足を払って倒し馬乗りになる。手は彼の首を掴んだままだ。


「お前も物覚えが悪いようだな……お前はアイツに負けたんだ。しかも、飴で。それも、集中していない状態で、だ」

「っ、ぐっ、ぅ」

「現にお前は喧嘩した事の無い俺にだって、あっさりと倒されている。これ程屈辱的な事は無いだろう?」

「ウルセ――」

「いつまでその醜態を晒す気でいる……目障りだ」

「ッ!?」


声色は変えず、只淡々と会話をするように告げるタカミの手がグッ、と軽く彼の首を掴む手に力を込めると彼の体が強張り、瞳は恐怖をタカミに示した。後ろに居るシンマは「やっぱり喧嘩弱いな」と、タカミの変化には気付かずに、下に居る彼が大人しくなったのを見て思っていた。


「離せ糞野郎ッ!!!」


恐怖がピークに達したのか、若干のプライドは保ちつつ暴れるように彼はタカミの腕を掴むと、あっさりとタカミの手が離れる。その隙に彼は逃げるようにその場を走り去って行った。恐らく今後彼が二人に喧嘩を売る事は無くなるだろう。

足が縺れながら走っていく彼を眺めていたシンマの視線がふとタカミの背中へと移る。
何かおかしいと見ていると、なんとタカミのシャツは割れたガラスでパックリと大きく裂けてしまっていたのだ。


「おい、シャツ裂けて……えっ」

「? なんだ、よく聞こえなかった」


幸い背中から出血していないがシャツが裂け、更には中に着ているインナーも裂けてしまったタカミの背中を見たシンマは思わず言葉を噤んだ。


「おい、なんだと聞いて……っ!」


様子のおかしいシンマに、タカミは首を傾げるが、すぐにシンマが何を見たのかを察した。
すぐさまタカミはシンマと距離を詰め、シンマの口を覆うよう手で塞ぎ壁へと追い詰めた。


「ぐっ!?」

「……この事は口外するな。良いな」


タカミの声は先程と変わらず、淡々と会話するような声色でシンマへと告げた。シンマは口が塞がれている為、ゆっくりと一度頷いてタカミを見上げた。
それを確認したタカミは手の力を抜き、シンマの頬を撫でるような動作を見せた後早足で人目を避けるようにその場を後にした。



 ← list → 





↓以下広告↓
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -