【背中に、黒。】03(4/16)
「一ヶ月に一回だから忘れそー」
翌日、日直の為シンマが早めに教室に着くと、そこには自分の席に真っ直ぐ静かに座って微動だにせず眠っているタカミが居た。
驚きのあまり目を見開いて凝視していると、フッと瞼を開けるタカミ。
「……なんだ」
「い、いや……アンタ、日直じゃねぇだろ」
少し眠たそうな雰囲気でゆっくりとシンマの方に視線を向けるタカミに、シンマは黒板を確認しつつ答える。
「……そうだな」
タカミも黒板と上にある時計を見やると、少し身じろいで再び瞼を閉じて寝始めた。
暫くタカミを凝視していたシンマだが、日誌を取りに行かなければならない為一先ず荷物を置いて教室を後にする。
「まさか、学校に泊まったりしてねぇよな、アイツ」
静かな廊下を上靴のキュッキュッという音だけが響く。職員室に着き担任から日誌を受け取る際、シンマは少し躊躇いつつ担任に問った。
「先生、昨日学校に泊まった奴とか居るの」
「居るわけ無いだろう。警備員が最後に一通り見回りしてから施錠するんだ。居たらすぐに追い出されるよ」
「……そうっすね。失礼しました」
職員室を後にし、シンマは「何かしらの理由で早く来ている」という結論に達し一人納得しながら教室に戻る。
早く来て眠っているのはタカミの勝手だ。物音を立てて「ウルサイ」と言われる筋合いは毛頭無い。シンマは眠っているタカミに特に遠慮する事無くいつものように教室の扉を開けた。
「……ん?」
横目で未だに眠っているタカミを眺めてそのまま後ろを通り過ぎようとした時だ。
不意に背凭れから少し離れた背中に何か見えたのだ。よく見ようとシンマは足を止めての覗き込もうと顔を寄せようとした。
「っ、なんだっ……」
「うおっ」
気配を察知したのか、バッとタカミが勢い良くシンマの方を振り返った。そのタカミの瞳はなぜか「怒り」を示していて、シンマは思わず呆気に取られる。
暫くタカミはシンマを睨むように凝視していたが、徐に立ち上がり鞄を肩に担いでそのまま教室を出た。
「……なんだアイツ、ムカつくな」
一人になった教室で眉を顰めつつ、シンマは飴を噛み砕きながら日誌に日付を書き始めた。
――それから少しして、教室に続々とクラスメイトが入ってくる。
タカミが帰った所を考えると、サボるのかと思っていたシンマ。飴を舐め終えて今度はガムを噛みながら時計を眺めていると、不意に教室の後ろの扉が開く。
「あれ、来た」
視線を向けると、来たのはタカミで、着替えて来たのか髪も整っており白いYシャツから黒いシャツが透けて見えた。さっきは黒いのは無かったはずだ。
「……」
一瞬タカミと視線がぶつかるが、バツが悪そうにタカミはすぐに視線を反らして自分の席に座った。
そんなタカミの態度にシンマはイラついたが、それと同時に少しだけ、胸がチクリと痛んだ。
「ん? なんだ?」
よくわからないその感覚に首を傾げつつ、「一時限目から体育とかダルい」とすぐにその事も忘れて、足元に置いてあるジャージの入った袋を踏んだ。
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