企画文 | ナノ

【背中に、黒。】

02(3/16)



――放課後になり、シンマとタカミは教室の掃除をしていた。

あれから、慌ててやって来た担任と生活指導の教師に止められ、保健室で手当てを受けた二人は罰として二人で教室の掃除を任されたのだ。反省文や停学処分でないだけまだマシであろう。

二人の喧嘩は、このクラスでは最早当たり前になっていた。
よく喧嘩を吹っ掛けられるシンマだったが、自分から喧嘩を吹っ掛けた事は今まで一度も無く、唯一吹っ掛けているのがタカミに対してだけだった。
一方のタカミも、普段は寡黙で大人びた態度でいるが、シンマに喧嘩を吹っ掛けられるとその成りからは考えられないくらいの乱闘騒ぎになっていた。


「……」

「……」


互いに相手を視界に入れないようにし、着々と掃除をしていく。
ふと、タカミが薄暗くなった外を不思議に思って視線を移すと、雨が降っていた。

口には出さないものの、「今日に限って折り畳み傘を家に置いて来てしまった」とどうしようかと考えつつ、窓ガラス越しにシンマを見やる。
本降りになった辺りで漸くシンマも窓の方に顔を上げた。


「……」


しかしながら、シンマは何か呟くわけでも眉を顰めるわけでもなく、数秒窓の外を眺めてから掃除を再開した。

――傘を持ってきているのか、人は見た目に寄らないな。

平然としているシンマに対しそう思っていると、再びシンマが顔を上げたが、視線は窓の外では無く、窓ガラス越しに見ていたタカミの方を睨んでいた。


「だから、ウッセェつってんだろ」

「何がだ」


シンマの言葉はどう考えても独り言と捉えるには難しいもので、自分に向けられたと判断したタカミが振り返って返事をすると、シンマは箒に寄り掛かりながら続けた。


「アンタ、視線がウッセェ」

「具体的に」

「……何か言いたげな感じな視線をこっちに向けんなつってんの。何かあんなら直接その皮肉しか出てこない口から言えってんだよ」

「皮肉しか出てこないのはお前もだろう」

「いちいち人の上げ足取ってんじゃねぇよ」


ガリガリと飴を噛み砕いてイラつくシンマに、タカミは何かを言い掛けようとして止めて、黒板消しを黒板の淵に戻した。


「何も」


タカミの態度にまたシンマは腹を立てたが、また乱闘に持って行っては今度こそ反省文や停学処分を受けかねないと判断し、そのイライラを噛んであっという間に無くなってしまった飴の残った棒を噛んで紛らわせた。


「――以後気を付けます」

「すんませんでしたー」


掃除を終え、担任に報告と心の籠っていない謝罪を終えた二人は不本意だが一緒に玄関へと向かう。
雨はまだ降っており、寧ろ強くなっていた。

――どうしたものか、走るか。

ぼーっと考えているタカミの横で、シンマも飴を舐めながら空を見上げる。一向に傘を差す気配は無い。


「……ンだよ」

「いいや」


今日で何度目なのか、シンマがまた眉を顰めてタカミを睨む。タカミはゆっくりとシンマから視線を外して答え、玄関の扉に凭れ掛かった。


「アンタ傘は」

「あればすぐに帰っている」

「……あっそう」


そう言ってシンマは傘を差さずに歩き始めた。実は傘を持っていなかったシンマは、一向に晴れる気配の無い空を数秒見上げ、濡れる事を覚悟したのか特に走ろうとはせず雨脚の強い中せめて泥が跳ねないようにと歩を進めた。


「……」


雨でシンマの髪が項垂れていく様を眺めながらタカミは深い溜息を吐いて止む気配が見られない空を、傍から見れば全くわからないが困ったように眺めた。


「黒いシャツを着てくれば良かった」


――自室にて、シンマは入浴後の髪をタオルで乱雑に乾かしていた。案の定家に着いたシンマは全身ずぶ濡れで、靴から何から全てを干して冷え切った体を風呂で温めてきた所だった。
外はとっくに日が暮れているが雨はまだ降り続いている。さすがにタカミも諦めてこの雨の中帰ったであろう。


「あ、忘れてた」


制服を乾かす為にポケットに入れている物を全て出しておき整理していると、そこには砕けた飴だったもの。教室に怒鳴り込んで来た生徒の額に思い切り叩き付けたから飴は砕けて原型なんて無く、包装をゆっくり剥がして棒だけ捨てつつ、ザラザラと砕けた飴を包装紙を伝わせて口へと流し込む。


「これ好きな味だった。しくったー」



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