赤い痕







高杉side




このイライラが、何なのか

このモヤモヤが、何で消えねーのか
分かってんだよ、本当は

旭が、おかしいから。前みたいに、笑ってくれなくなったから




ガラッ…



教室のドアが、遠慮気味に開く。
出て行こうとしてた俺と、旭がはちあわせの状態になった。




「旭…」

『銀ちゃん、遅れて、ごめんなさい』




銀八に謝ってる旭。長めの髪が前に垂れたとき、首に赤い痕が見えた。


なんだ、それ


他のヤツに分からなくても、俺にははっきり分かる。それは、誰かにつけられた印みたいなモンで。コイツは、俺のモンだ、って、主張してくるような痕だった。
自分でも分かるほど、腹のあたりがかっとなって。今にも泣き出しそうな顔してる旭の顔を見て、それは俺の中で大きくなっていく。
むしょうにイラついた
旭は、俺の大切な─…俺にとって、特別な




「オイ、旭その痕─…」

『……!』




俺の顔を見て、首筋を隠した。
まるで、見られちゃいけねーモンでも見られたみたいに

そして、気まずそうに俺から目をそむけると、小走りで席に座った。





様子が、おかしい
おかしすぎる


何なんだよ、あの痕

なんで、あんな痕が、首に?
理由なんて、分かってる。あんな痕が付くようなこと、したからだ。でも、
でも何で

こんなに、イラつく、イラつくイラつく




「…旭」




だれに、やられたんだよ
何で、頼ってくんねぇんだよ





旭side



会いたかったはずの、晋助なのに

実際に会うと、名前先生の事が思い出されて、嫌な感情にしか、支配されない。


─…楽シカッタ?名前先生ト、ゴ飯、食ベルノハ




「オイ、旭その痕─…」

『…!』





別に、晋助にとっては、あたしはただの友達で。こんな痕見たって、晋助は何とも思わないんだろうけど。あたしが誰と何しようが、関係ないって、思うんだろうけど

それでも、みられたくなかった。

晋助から目を背けて、自分の席に座った。自分の中で、何かが、崩れるような音がした。




「旭。帰り、どっか寄っていきやせん?」

『う、うん。行こっ!』




わざと、神威くんのことを聞いてくれない総悟くんが、有難くて
早く、ここから逃げたい気持ちで一杯で
よく分からないけど、とにかく逃げたい




「…旭。






話、あんだけど」

『…!』




…嫌な予感って、あたるものなんだ
晋助に、呼び止められた。

いつもより、1オクターブは低い声に、反発したくなる


何でアンタが、怒ってんのよ




心臓は、どっくんどっくん、って音立ててる


なにいうの、なにいわれるの

聞きたくない




「早川…」

『トシも総悟くんも、先帰ってて』




あたしがそう促すと、総悟くんは納得がいかないというように口を開いた。




「でも」

『だいじょぶ、だから』




なにが、大丈夫なんだろう。
自分で分かるくらい、声震えてるのに
体だって、震えてる




『晋助、なに…?』




名前先生とのこと?
それとも、この痕のこと?





どっちも、聞きたくないけど
聞かなきゃ、だめなら


あたし、は─…




「……それ、何」




晋助は、あたしの首を指差して言った。
、いじわる

どっちも、聞かされそうな気がする




『これ、は─…』




誤魔化せば
そうすればきっと、ばれない




『蚊、かな…。あたし、も…鏡見て、気付いて』




晋助の視線が、鋭くなった。
嘘だろって。目で言ってくる




「嘘、つくな
…何で、嘘吐くんだよ」

『本、当だってば』




そう言いながらも、まともに晋助の顔なんて見れない
これじゃ嘘吐いてるのバレバレだ




『本当に、これは

「ふざ、け…んなよ!!!」




風が、耳の横を、フッ、と通り過ぎた瞬間、頭に痛みを感じた。

思わず、目を閉じる


自分が何されてんのか、分からなかった






そっか、
ロッカーに、押し付けられてる
胸倉、掴まれて


こんなに怖くて、だけど悲しそうな晋助、見た事無かった。
目を見開いて、唇は震えてて




「俺は、お前にとって………そんなに頼りねーのかよ!」

『!?っ、ちが…』

「違わねぇ!!
最近は、ずっとそうだ。何かにつけて、ずっと上の空で。日に日に、お前がどっか行きそうな気がする。
何でだ、よ
お前は、俺のこと嫌れーなのかよ
俺はお前の友達じゃ、ねーのかよ。」




そう言う晋助は、今にも泣きそうで
消えてしまいそうなのは、晋助の方で



そう、だ
あたし、すごい馬鹿

あたしは、わかってたのに
晋助は、人一倍傷つきやすくて
心も脆くて
本当は、寂しがりやで
あたしの事、大切な友達だって、思ってくれてること




『ごめ、ん




ご、めん…ね』




だけどその晋助の優しさが、あたしにとってどれだけ苦しいことなのか

それも、分かってる




『あた、し、晋助のこと嫌いなんか、じゃ…ないよ



あたしたち、親友じゃん』




嘘を、吐いた。

本当はあたし、親友って言葉使って、自分に嘘ついてるだけなんだよ。



誰かが言ってた。
好きな人が幸せなら、自分も幸せだ、って


でも


そんなわけ、ないじゃん
ずっとずっと、くるしいのに。名前先生のこと、話す晋助を見てると
胸の黒い物体も、頭の痛さも全部
晋助が、幸せそうにしてるからで

苦しいから、なのに




晋助 なんか、名前先生にふられちゃえば、いいのに
そうすれば、こんなに苦しくなくて、すむのに






赤い痕
(いっぱいいっぱいだった)













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