兎に喰われる







苦いのは、嫌い。
ガキだなんて言われたって、やっぱり飲むのは砂糖8個入りのあまーいコーヒー
もう、大人になんてなりたくない。大人っぽくも、なりたくないし

だから、ブラックなんて平気で飲める晋助って、苦い。大人すぎる、って思ってた




「ほら、コーヒー」

『トシありがと!!』




もー、トシ好き。かなり
かっこいいし優しいし




「旭も毎日毎日よくそんな甘ったるいヤツ飲めますねィ」

『頭に糖分補給です〜。糖尿病予備軍!!』

「…お前は銀八か」




銀ちゃんでいいもん。

コーヒーだけは、譲れない
何かコーヒーだけが、晋助と繋がってられるものな気がして
初めて晋助としゃべったのも、うちの店だった。高校生になってから、毎日飲みに来てた晋助が、同じクラスだって知って…話しかけて、友達になって


だんだん、好きになって


紙パックにストローを刺して一口飲んだ




『苦い…』




いつもの甘みは、広がらない。
トシは訳が分からないというような顔をして言った




「は?お前がいっつも飲んでるヤツじゃねーか。ちょっと飲ませろ






って甘ェェェ!!」




バタッ

あたしと総悟くんの目の前に、コーヒーによる犠牲者が転がった。




「…旭ー、アンタがコーヒーを苦いなんて言うって事は、高杉のこと考えてたんですねィ」

『あはは…』




苦笑するしかない。図星です。
総悟くんて、なんて感が鋭いんだ




『今頃アイツ…名前先生とご飯食べてるよ』




最近晋助は、名前先生とご飯食べてる。何か2人が、急接近?

今まで、絶対相手にされないって思ってたのに
ううん。思いたかったのに


昼休み一緒に居れないって事は、必然的に合う時間なんて無くなるわけで




「旭、まぁた飛んでまさァ
最近よくボーッとしてやせんかィ?あそこまであからさまに分かりやすい態度とるなんてねェ」

「早川、最近あんま高杉と一緒に居る事ねェからな…。」

「飛んでるのなんて、しょっちゅうですから。高杉関係だろーっては、思ってたんですけどねィ。
最近はどうも、それだけでもなさそうなんで」

「は?オイ、それどういう─…ピンポンパンポーン♪【3年Z組早川旭さーん。今から1分以内に体育館裏来ないと殺しちゃうぞ★←じゃっ】ピンポンパンポーン…




しばらくの沈黙。
そして、ツッコミ




『殺しちゃうぞ★←じゃないんですけどォォォ』

「神威か…
殺されんなよー。アイツなら、やりかねん」

『殺されること前提!?』

「葬式には呼んでくださいね」

『何その結婚式には呼んでくださいねな感じ!?』




最悪だ、2人とも友達なら、なんてゆうの?
行かなくていい、ここにいろ、的なんしてよ!




「あーもう早く行けよ」

『う、うん行ってきます!』




あたしは、そう言って、トシと総悟くんに背を向けて走り出した。


"体育館裏"そこがいつも、集合場所。
いつからだろう、こんなゲーム、してるの。




『神威くんっ!遅れてごめ…っ!!』




はぁはぁ、と、荒い息を整えながら神威くんに近づく。



…神威くんの手には、ストップウォッチが。




「残念。1分13秒かー…」




彼は、ちっとも残念じゃなさそうな笑顔で、あたしを失意のどん底へ突き落とした。13秒くらい、よくね?

その笑顔、何をたくらんでるのか分からない。
嫌い、その笑顔が
名前先生の笑顔みたいに




「罰ゲーム、何してもらおっかなー」

『………何、するの?』

「んーっと…じゃあ明日






俺とデートして♪」


『ででででぇ…とォォォ!!?』

「うん、そうデート」




目の前でニコニコしてる神威くんの顔にパンチを喰らわせてやりたい
そんなそんな
冗談キツイ
だって、明日は




『明日は、いつも』




毎年決まって7月20日に、祭りがある。
いつも、晋助と回ってて
それだけは、決まってて




「高杉くんてさ」

『な、に……?』




神威くんは、すごく意地悪
絶対絶対、あたしが聞きたくないこと、言う。何で今言うの、って話
泣きそうになる話


晋助の、話




「名前先生と、一緒にご飯食べてるんだね」

『だか、ら…何なの?』




せいいっぱい強がって、神威くんを、睨むような形になる

でも、目には、熱いものが溜まってくる。
鼻の奥がつんて痛い
むねが、ずきずき、する


神威くんは、そんな泣きそうなあたし見て、ニヤニヤしてて

じりじり、近づいてくる




「名前先生もさ、高杉くんといるとき、すげー満更でもなさそうだったし」

『言わ……な、いで』

「あの2人、付き合いはじめたりして?」

『いわ ないで、』




ずきん、ずきんって
馬鹿の1つ覚えみたいに、心臓が、いたい


いたい
いたい
いたい


いたいよ




「そんなに好きなんだぁ
高杉くんの、こと」

『関係、ない…でしょ』

「かたいなぁ……






俺と旭、キスした仲でしょ?」

『!!』




ずるい
アレは、無理やりだったくせに



晋助のことで泣いてたあたしを、
神威くんは、いつも慰めてくれた。
優しい人だって、思ってたのに


高杉くんなんか、やめときなよ、って
無理やりキス、された

それが原因で、昼休みにゲームしてる。
キスしたこと、バラされたくなかったら、言いなりに、なるしかなくて
神威くんの言ったことクリアできなかったら、罰ゲームで

たいてい、罰ゲーム




「ね、旭















大好き、だよ」




そう言った神威くんは、噛み付くようなキスをして、あたしのうなじに、顔を埋めた。






兎に喰われる
(痛みは、きえないまま)









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