太陽に溺れた人魚
 


昼下がり。
3年の教室に勢いよく2年西谷が駆け込んだ。


「鉄朗飯食おーぜ!」

『あ、西谷。ちょっと待ってて』

「おう!」


2人は元々同じ中学出身で知り合ってからは5年、付き合い始めてからは3年経っていて既に両親からも公認の仲。
いつもどおり西谷がぎゅうっと手を取り屋上までかけあがり指定席へと足をすすめた。


―ガチャ

空気のいい屋上に来ると西谷はわくわくした顔で鉄朗が広げるお弁当箱を覗き込んだ。


『じゃーん、今日は唐揚げお弁当です』

「うおおおお、美味そう!」

『さ、召し上がれ』


はい、と手渡すお弁当は自分のよりはるかに多くて大きい。
2倍はあるそれも西谷は20分程度でぺろりと完食してしまう。


(凄いなあ、男の子だなあ)


自分の作るお弁当を綺麗に食べてくれる西谷をいつものことながら嬉しく思う黒尾は口元を緩ませ微笑んでそれを見ていた。

(ほっぺにご飯粒つけてる…可愛いなあ)

「今日もうまかった!」

『はい、お粗末さまでございます』

「いい嫁になれるな」

『!…ありがとう』


ふふっとニマニマした笑顔で西谷の頬につくご飯粒を取ってぺろっと食べると彼はムッとした顔でその手を掴んだ。



「可愛いって思ってたら怒るからな」

『!』


不意にスイッチが切り替わる彼に一瞬びくっとする鉄朗は少し頬を赤らめながら苦笑いをして小首をかしげ、それでごまかせたかと思った彼女だったが一瞬の隙に西谷はちゅっと触れるだけのキスを彼女の唇に落とし先ほどよりその頬を染めさせてニヤリと口角をあげ「ばれてっからな」と釘を刺した。


「可愛いって鉄朗の方が似合う言葉だと思う」

『うう、ありがとう』



ニシシっと笑った彼がとても眩しくて、再度近づく唇に合わせて目を閉じた。
太陽の日が照りつける中体が燃え上がるほど熱くなったのはここだけの秘密と鉄朗はバレてるであろう西谷の袖の端をつかみながら思っていた。


―…



そこから昼休みの残り10分はずっと西谷からのキスの雨を受ける鉄朗だった。





太陽に溺れた人魚

「(キスするだけどんどん深海まで溺れてしまう心が何だか悔しいの)」


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