鮮やかに蘇る
「おねぇーさん誰?」
突然後ろから、声が聞こえる。まだ声変わりもしていない透き通った、しかしどこか重みのある声。
呟く程度に放ったであろう声が、ユキにはまるで拷問時の難詰に感じ、ぶるりと鳥肌がたった。
「どうやってここまで来たの?凄いじゃん、ミケを撒くなんてさ!」
あくまで声の主は、楽しそうにユキに話しかけてくる。声からしても、その無邪気な笑い声からも少年である事が窺える。
予想してたより早く見つかってしまったが、ゾルディック家の長に見つからずに良かったと内心安所しつつ、ユキは振り返った。
「そうね…雇われてココに来たのよ。仕事の内容は言えないけど、人を探してるの。」
ユキの視界に映るのは、想像したよりも更に小さな子供だった。
もちろんユキも子供なのだが、自分の弟の様な…いや、これ以上余計な事は考えないでおこう、と自制した。
そっとユキは子供を観察する。
気だるげに頭の上で手を組む少年は、銀髪で猫を思わせる瞳でユキを見ていた。
吸い込まれそうな瞳に、つい視線を逸らしてしまう。
が、そのままユキは小さくほくそ笑む。
こんなに早く会えるなんて。
"キルア・ゾルディック"
間違いない。紛うことなき、私のターゲットだ。
ゾルディック家は三男だけが銀髪であり、他の子供達は黒髪だという。
それに、この只者でもない雰囲気。
自らも特殊な家庭で育っているが、キルア・ゾルディックには言葉には言い表しづらいソレを感じたのだ。
「ふーん、おねぇーさん念を使えるんだ。やるじゃん。…隠を使いながらここまで来たってわけか。」
キルアは変わらず頭上で手を組んだまま、余裕そうな表情を浮かべている。
「よく知ってるじゃん。さすが、ゾルディック家のご子息様ね。」
「まぁね、好きでここにいる訳じゃないけど。てゆうかおねぇーさん、どこかで見た事あるんだよねー。」
どっかで会ったことある?と首を傾げながら、腕を組み考える仕草をしてみせた。
「さぁ…?残念ながら、私はさっぱり。あなたの事だって、初めてみたんだもの。」
うんうん唸りながら考えるキルアを横目に、ユキは早めに任務を遂行したいと思っていた。
実力でいえば、ゾルディック家の子供1人ぐらいなら仕留めれるだろうと自負しているが、2人となれば流石に無理だ。
普段は情報を聞き出し、調べ、相手の手法まで確認して最善の状態で殺すのだが、今回は話が別。
なぜなら、相手は暗殺のプロだから。
油断していると殺られるし、時間をおいてもこちらが不利になる一方だ。
決めるとすれば、一撃。そして、一瞬だけだ。
そこに躊躇いなど必要ない。例え、弟と同じくらいの子であっても。
ーーー今が、チャンス!!!!
瞬時に右手に念を込める。小細工などする時間が勿体ないほどだ。
一気に駆け寄り、キルアの正面まで近寄った。思いっきり心臓を目掛けて拳を突き上げる。
「(心臓を、一突き。)」
別に心臓である必要などなかったのに、体が勝手に心臓を目掛けていた。
血が飛び散るし、何よりも感覚が気持ち悪いからユキは心臓を狙う殺しは嫌いだった。
無意識による、自分なりの2番目の弟への弔なのだろうか。
全てが一瞬の出来事で、瞬きすらも追いつけないスピードであった。が、ユキの拳は空を切っていた。
しまった!と思う頃にはもう遅く、バチバチという音と共にユキは視界がチカチカと揺れる感覚に襲われる。
電気を流された、それも拷問訓練を受けているユキでさえも衝撃に耐えきれぬ程の電流を。
それを理解すると同時に、意識が遠のいていく。意志とは裏腹に、倒れていく体。
「(あ、だめだ。)」
その瞬間、最後まで意識を保とうと足掻くユキの視界が捉えたものは、自らを支えようと手を伸ばすキルアと
「アイツに、似てる…っ!」
そう呟いた、震える声だった。